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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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26 存在の瓶詰

 一行はオリヴィアを先頭にして進む。

 ロムの拠点の構造が変わってから、不気味なほどに人と遭遇しない。これまでの道中には見張りや巡回中の者、工場に向かっていた者がいたが、今はいない。


「でも、この先の部屋にはいるんだよね……敵が」


 オリヴィアは呟いた。

 彼女は展開したイデアを通じて、敵を見ていた。

 敵は2人。会議室にいる赤眼の少年とそのさらに奥にいる中年男性。オリヴィアは少年の姿を見ただけで、彼が吸血鬼だとわかっていた。


「どういう人がいるんだ?」


 と、晃真。


「1人は吸血鬼。もう1人は……あのハリソンみたいなおじさん。待ち構えているんだから、策はありそう。何より、あの2人はイデア使い。気を引き締めて」


 オリヴィアは答えた。


「なあ。やっぱり俺達って誘導されてるよな。あんたが見た2人から何か聞き出せないか?」


 晃真はそうやって提案する。


「あり。でも、普通に聞きだせるとは思わないから……キルスティみたいに拷問しないと。さすがにロムみたいなやり方はしたくないけど。あの2人がロムの手の者なら簡単には吐いてくれないはず」


「聞き出せなくとも、私が何とかして情報を入手してみせる。今のうちにヒルダたちにも伝えておくね」


 困った様子のオリヴィアに、解決策となりうる策を思いついたパスカル。パスカルはさっそく携帯端末を取り出してヒルダとエミーリア、念のためにリンジーにも。


 やがて、通路の先にあるドアが見えてきた。重そうなドアの上には『会議室』と書かれている。ドアの向こう側には、ピリピリとした気配があった。


「間違いないな」


 と、晃真。

 オリヴィア、晃真、パスカルの3人は覚悟を決めて会議室に突撃した。


「おかえり、『シンデレラ』……じゃなかった、オリヴィア・ストラウス」


 中で待ち受けていたのはヴァルト。オリヴィアも彼のことは知っている。さらに、彼の能力も。


「晃真もパスカルも、こいつのペースに乗せられないで。こいつは、生物を瓶詰にしてラベルを書ける……何ができるかはっ……!」


「あはは、元仲間だからって僕の情報をばらすのはやめろよ。うちのボスの計画がパアになってしまうだろうが」


 と言って、ヴァルトは立ち上がる。彼の手にはラベルの張られていない瓶が。何をするのかは明白だ。


「ねえ、オリヴィア。またロムのところに戻ってくるんだろう?」


 ヴァルトはそう言うと瓶の蓋を開けた。

 対するオリヴィアは――影の刃をヴァルトの首元に突き付ける。すると、ヴァルトは笑う。


「暴力的なのは良くない。まあ、僕は吸血鬼だからそれでは死なないんだけどね」


 オリヴィアがヴァルトの首を落とそうとすると、ヴァルトは影の間をするりと抜ける。さらに、オリヴィアの追撃をかわしながら瓶を開き。


「ダンピールは生まれながらの敗北者だよ。吸血鬼にも人間にもなれず、どちらからも疎まれる」


 ヴァルトは言った。挑発のつもりか。ヴァルトの能力を知るオリヴィアは無言で影を伸ばすだけだったが。


「そんなはずはない! 俺の仲間を悪く言うな!」


 思わず晃真は声を荒げる。


「そいつの言葉に耳を貸さないで!」


 オリヴィアが制止してももう遅い。

 ヴァルトの瓶が紫色の光を帯びる。紫色の光が強くなったと思えば晃真は瓶に吸い込まれ――瓶詰にされた。瓶詰にされる条件も知らなかったのだ、無理もない。


「晃真!」


 オリヴィアは叫ぶ。

 瓶を取り返し、ヴァルトを討たなければならない。オリヴィアはヴァルトを拘束すべく影の手を四方から展開するのだが。


「……あー、助けてくれ。プロスペロ。『シンデレラ』相手じゃ、僕には勝ち目がない」


 瓶のラベルを書きながら、オリヴィアの攻撃を躱しながらヴァルトは言う。


「貴男、何のつもり?」


 と、パスカルはヴァルトの前に出るが。


「まだ気づかないのか? 晃真はカナリス・ルートの人間だよ。カナリス・ルート会員番号5番、八幡昴の後継者だ」


 ヴァルトはそう言ってラベルつきの瓶――晃真が閉じ込められた小瓶をパスカルに見せつけた。

 ラベルにはこう書かれている。


 高砂晃真

 カナリス・ルート会員番号#5

 キルスティ・パルムを殺害した裏切り者


 ラベルを見た瞬間、パスカルはめまいに襲われる。自分の中、それだけにはとどまらず世界の中で何かが変わった気がした。

 オリヴィアもそうだ。気が付けば認識が改変されていた。


「……どうしてわたしは、敵なんかと? いや、なんかおかしいけど……晃真……」


 オリヴィアは呟いた。

 彼女の中には違和感もあった。晃真は恋人か、裏切り者か、その両方か。


「わからないよ……」


 オリヴィアの目に涙が滲む。


 そんなときだ。ヴァルトの救援が到着したのは。


「呼んだか、ヴァルト。ずいぶんと苦戦しているようだが……なるほど、『シンデレラ』か」


 髪の毛に赤い粘液をつけた中年男性、プロスペロが奥の部屋からやってきた。すでにイデアを展開していることから、彼も戦うつもりのようだ。


「……さっきから『シンデレラ』ってうるさいね。そんなにオリヴィアが特別なの?」


 と、パスカル。


「そうだなあ。オリヴィアは、お前が連れ出しさえしなければ『赤ずきん』グラシエラ、『荊姫』リンジーに続く、3人目の最高幹部になり得たんだよ。それをお前が潰したわけでね」


 プロスぺロはニヤニヤと笑いながら言った。



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