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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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25 戦いへ

 かつかつと、隠し部屋に足音が響く。この足音はロムか、グラシエラか。

 何事か、とリンジーが顔をあげる。

 鉄格子を隔てた向こう側には銀髪の女。彼女はある人に似ていた。


「アンセム姉さん……」


「アンセムではない」


 リンジーがアンセムと呼べば、その女、グラシエラは即座に否定する。

 確かにグラシエラの顔はアンセムに似ている。双子や同一人物といえるほどではないが、姉妹と言われれば納得できるくらいには似ていた。


 アンセムは死んだ。それも9年前に。

 リンジーも少し考えればわかる。少し前まで気を失っていたことで頭が混乱していた。


「そうだった。グラシエラ。あんたには、姉とか妹っているの?」


 リンジーは尋ねた。


「いる。アナベル・パロミノとかいう狂人は私の姉……そう認めたくはないが」


 グラシエラは答えた。


 アナベル。

 リンジーが顔を拝むこともできなかった、オリヴィアの恩人。リンジーが聞いた話では、アナベルがいなければオリヴィアは死んでいたとのこと。また、アナベルは相当なイデア使いで、鮮血の夜明団本部での一件に絡んでいるとのことだ。


「そっか。アンセム姉さんが言ってたことは、正しかったんだ」


 と、リンジー。


「何の意図かわからんが、従うふりをしても無駄だ。お前のせいで工場は今とんでもないことになっている。『Gift』の生産は止まるし工場長が誘拐されるし。すべてがイレギュラーだ」


 グラシエラの愚痴を聞きながら、リンジーはにやりと笑う。

 笑えば折檻どころではないだろうが、幸い隠し部屋は暗い。グラシエラはリンジーの表情を見落としていた。


「拠点の状況は?」


 リンジーはまた尋ねる。


「幹部で応戦中。とはいえ、さすがダンピール。強さが違うみたいだ」


 グラシエラは答えた。

 それでもリンジーを必要として檻から出すようなことはしなかったが。


 と、ここで拠点全体に地響きが。


「何!?」


「……始まったね。どれだけ持ちこたえられるか。工場が止まるレベルね」


 グラシエラは言った。

 彼女が平然としている間にも揺れは大きくなる。が、この部屋に限っては変化がない。


「どうするの……」


「あんたは、何もしなくていい。あんたはここで、ロムを待っていて」


 と、グラシエラは言って隠し部屋を出る。


「さて、私も動くとするか」




 ヒューゴーとボルドが脱落した。

 この2人の結末を真っ先に知ったのはヴァルト。というのも、ヴァルトは水晶型の端末を通じて拠点の様子を見ていたのだ。


「まずい……早く手を打たなくては」


 ヴァルトは呟いた。

 手遅れかもしれないが、ヴァルトには秘策があった。そもそも、この盤石なロムの拠点で「手違い」が起きたときに動くのはボルドのほかにヴァルトだった。


「プロスペロ。やつらをここに誘い込んで。僕がここで処分するよ。大丈夫、僕にかかれば簡単だから」


 赤い瞳をぎらりと光らせ、ヴァルトは言った。


「は……? 無茶だろう。拠点内だぞ」


 プロスペロは言った。


「書庫と会議室、壊されて困るのはどっちだ?」


「……っち。分かったから」


 冷たい口調のヴァルトに圧され、プロスペロは渋々ヴァルトの要求を呑んだ。

 この少年、ヴァルトは危険な男。見た目は10歳そこらの少年だが、彼は吸血鬼。子供の頃に吸血鬼になり、そのまま20年は生きている。弟だって2人いる。


「強硬手段でいくぞ。文句は言うな、クソガキ」


「これでも30歳は超えてるんだけどね」


 プロスペロは会議室の奥の部屋に入ると――この拠点の配置を変えるスイッチを押した。


 ゴゴゴゴゴ、と地響きがする。

 起動するのは7年ぶり。ただし、全体を動かすのは初めてだ。工場の設備は停止し、工場を含めた拠点全体の配置が変化する。壁は動き、シャッターが下り、階段の向きが変わる。


 拠点全体の変化で、ロムやグラシエラ、クラウディオも現状を把握した。


 当然ながらオリヴィアたちだって拠点の動きに巻き込まれることとなった。

 一本道だった廊下の進行方向にシャッターが下りる。袋小路になったかと思えば、左側の壁が扉のように開き、道が現れる。


「何これ……! 時間稼ぎのつもり?」


 オリヴィアは吐き捨てるような口調で言った。影のイデアも展開してシャッターの破壊を試みた。が、シャッターの強度はオリヴィアの思っていた以上。傷ひとつつきはしない。


「やってみるか、強行突破。俺のマグマならいけるかもしれない」


 オリヴィアができなくても、晃真はやる気。マグマのイデアを展開し、それなりの量をシャッターにぶつけた。シャッターはマグマのように赤く染まるが、穴は開かない。傷ひとつつかない。


「駄目か。俺の熱では融かせないって、相当だぞ」


 晃真は呟いた。


「そうね。罠だろうけど、新しい道に進むしかなさそうね」


 と、パスカル。

 3人とも気は進まなかった。が、来た方向も塞がれたらしく、新しくできた道に進むしかない。

 一行は新しい道に進む。もちろん、オリヴィアがイデアを展開してその先の様子を探りながら。



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