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5 キルスティの狂気2

 晃真はキルスティを揺さぶろうとしてみた。だが――


「知ったことじゃないね。止めたいなら、殺すよ」


 キルスティはそう言って、晃真の首筋にハサミをつきつけようとした。が、晃真もその動きには気づき、キルスティと間合いを取る。


 ――アナベルとオリヴィアがいるのはそっちの車両か。情報を共有しないとな……


 晃真はキルスティが再び詰め寄ってくる前に、車両を移動すべく走り出す。


「逃げるな!」


 そう叫んで晃真に迫ろうとする。が、キルスティより晃真の方が早い。晃真は車両から出るなりドアを閉め、隣の車両にうつる。そこにはアナベルとオリヴィアもいて「何かあったのか」とでも言いたげな顔で晃真を見た。

 この車両、この客室にはアナベルとオリヴィア以外の乗客はいなかった。


「敵襲だ。自分から仕掛けてくるんじゃなくてキルスティを利用してきやがった。キルスティに限って裏切ることはないだろうからな」


 晃真は逸る気持ちを押さえながら言った。

 ほんの少し前までは、平穏な車内だったというのに。晃真は冷静にふるまおうとするも、未だ混乱していた。


「ふうん……」


 晃真の話を聞くとアナベルは何か企んでいるかのような表情を見せた。隠そうとしているが、楽しみにしているかのよう。

 そして――車両を仕切るドアを開けるキルスティ。そんな彼女の前に、さっとアナベルが出て、振るわれたハサミを糸で受け止めた。攻撃を防がれたキルスティはあからさまに嫌そうな顔を見せる。


「そんな顔しないでよ。私、君と面白いことしたいなあ?」


 と、アナベルは言った。彼女は冷静な様子で晃真とオリヴィアに目配せし。


「私はキルスティと遊んでるから、2人はキルスティに何かした人を探してね。きっとやってる人はこの列車の中にいる。だから……頼んでいいかな?」


「よくわからないけど、アナベルが言うなら。あんたも信用できないけど、基本的に間違ったことはないよね」


 オリヴィアは言った。


「どうだろうね? できるのなら、頼んだよ」


 そう言うと、アナベルはキルスティを蹴り飛ばす。キルスティは壁にぶつかった。咳き込む彼女の前にアナベルはゆっくりと歩いて行き。


「何があったのかな、キルスティ。君、私たちはともかく晃真を裏切る理由なんてないでしょ」


 アナベルはキルスティに問いかける。キルスティの周囲には彼女を取り囲むように、いつの間にか糸がはりめぐらされていた。少しでも動けばキルスティの身体は切断される。キルスティはそれを悟っているようだ。だが、キルスティは口を割ろうとしない。


「答えてくれるかなあ。ほら、私とキルスティの仲じゃないか。ね?」


「黙れ……このまま術中にはまって、全部忘れてしまえばいい」


 キルスティは呟いた。それと同時に――糸が切れる。糸はハサミで切られ、それで緩んでいるのをキルスティは見逃さなかった。彼女はすぐさま抜け出した。


「おやおや……」


 アナベルはその様子を見て薄ら笑いを浮かべる。凶器を手にし、明確な敵意と殺意を向けるキルスティを目の前にしても動じない。恐怖心さえもどこかに置いてきたかのよう。

 一方の糸の檻から抜け出したキルスティ。ハサミを振るい、こんどこそアナベルを切り裂かんとしていたが――アナベルはその高速の一撃を受け止めた。


「くそっ……」


 キルスティはそう吐き捨てる。武器らしき武器も持たず、能力だけで戦っていたと考えていたのが間違いだった。

 アナベルはタクティカルペンでハサミを受け止めていたのだ。それもがっちりと、キルスティ程度の力であれば押し返せないほどの力で。


「また私の首でも狙ってみるかな?」


 と、アナベルは言った。


「……殺す」


 キルスティは静かな声でただそれだけを言った。その声にこたえるようにして、別に誰かを切ったというわけでもないのにハサミの刃に血が滲む。

 光を受けて赤く輝くハサミ。アナベルはそのハサミにとんでもない違和感を覚え、ハサミごとキルスティを弾き飛ばした。


 ――キルスティの能力はこれか。私の予想では毒だが、果たして。


 体勢を崩しながらもキルスティはアナベルの方に顔を向け、ハサミを持ち直す。


「……来るかい?」


「ぁはは……殺してやる。晃真はともかく、あんたは一番信用できないからね。その次にオリヴィア。その次に、エレナ」


 そう言ってから、オリヴィアは再びアナベルとの間合いを詰めた。アナベルの身を守るために張り巡らせていた糸を切り裂いて、そのハサミで首を狙う。確実にアナベルを殺せると判断したから。


 アナベルはいとも簡単にキルスティのハサミを受け止める。キルスティの攻撃は速いがその動きは単調。アナベルはその動きも完全に見切って捌いている。


「エレナ。エレナ・デ・ルカ。鮮血の夜明団の人間か」


 キルスティを子供のようにあしらって、アナベルは呟いた。


「彼女がどうかしたって?」


「そいつが乗っているってこと。さっさと殺すわけ、そいつを」


 キルスティはそう言ってにやりと笑う。


「そうなんだ。死んでも行かせないけどね」


 と、アナベルは言ってキルスティの右手を糸で縛り上げた。



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