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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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21 リンジーとロム Ⅰ

姉さん、アンセム、アンセム姉さんなどで表記ゆれがありますが仕様です。

 場所は拠点の隠し部屋に移る。


「あんたにもこの部屋の事は教えたけど、さっそく何かしら」


 隠し部屋にはやはりロムがいる。凍り付くような口調で、この部屋へ入って来た者へと言う。


「釣れねえこと言うなよ。お前がご所望だったリンジー、連れてきてやったぜ」


 声の主、部屋に入って来た人物はクラウディオ。『Gift』工場での戦いで少々服が汚れているが、無傷。さらに、工場で昏倒させたリンジーを担いでいた。

 その様子を見てロムは口角を上げる。


「ふふ……よくやったわ、クラウディオ。一度脱走したやつなら殺されても仕方ないと思ったけれど、あんたのおかげでリンジーは生きている。うまく再教育できればこちらのものね。再教育できれば、だけど」


 と、ロムは言った。


「できなかったらどうする?」


 クラウディオが聞き返す。

 すると、ロムは即答。


「もちろん殺すわ。私の左腕は忠実でなくてはならないの。どうやっても教育できない娘は殺すしかないの。そうでしょう?」


 ロムはクラウディオに笑顔を向けた。

 その笑顔の裏にあるものはある種の狂気。ロムの持つ狂気を、クラウディオは否定しない。むしろクラウディオはロムの狂気に親近感を覚えていた。


「全くだぜ。俺もそう思う。いっそのこと、俺達が取り込めなかったカナリス・ルートの連中も……いや、今はリンジーが先決だな」


 と言って、クラウディオはリンジーを地面に下ろす。

 これでもリンジーはロムの左腕候補。いくら工場を攻撃したのがリンジーであっても、丁重に扱っていた。


「ええ。おあつらえ向きの檻があるの。『荊姫』の檻に荊の手錠。リンジーのために作ったの」


 ロムはそう言うと、携帯端末を操作した。

 すると、天井から荊を模した檻が降ってくる。こればかりはクラウディオも見たことがなかった。


「鍵は開けてある。さあ、リンジーを放り込んで?」


「……わーったよ」


 と言って、クラウディオはリンジーを檻の中に放り込んだ。

 ロムはといえば、荊を模した手錠をリンジーにはめて手錠と檻の鍵を閉めた。




 ♰




 あたし、リンジー・チャイラットは教師の家に生まれた。出かけた先で火災に巻き込まれるまでは、教師になると思っていた。


 あるとき、あたしは両親とショッピングモールに買い物に来ていた。8歳の頃だったと思う。

 あたしは迷子になった。迷子になって、歩いていたのはガラス張りのフードコートだった。はぐれていたときに、あれは起きた。

 語られない大火災『リーフモール大火災』。


 あたしがフードコートできょろきょろしていたときにはすでに出火していたと思う。

 気が付いたら火が回って、背が高い大人は煙を吸って倒れていた。私は小さかったから、どうにか逃げたけど、うっかり聞いてしまった。


「建物の封鎖は完了した」


「我々は裏口から逃げよう。貧乏人はここで死ぬのがお似合いだ」


「政府と報道機関に賄賂を渡せばだいたいのことは解決するからな」


「それに社長の――」


 あたしはここで死ぬ。

 話していたスーツの男たちの言葉を聞いてあたしはぞっとした。どうするかを考えて、あたしは窓のあるところに出た。窓を割って、飛び降りる。

 あたしは一か八か、ガラスに体当たりした。窓は割れた。そのままあたしは落下していくわけだけど。


 幸い、あたしは木に引っ掛かって助かった。

 木の上から見えたのは、大陸の治安維持部隊か何かだったと思う。銃を持った人たちがモールの周りを押さえていた。


 でもあたしは逃げるしかなくて。

 あたしのほかに逃げた男の人が撃ち殺されるときに、あたしも逃げた。見つからないように。逃げてしまえばあとは人込みにまぎれる。そうすれば逃げられると思った。

 その考えが甘かった。


 あたしが訪れたところでは、あたしがなぜか放火犯として指名手配されていた。両親は、というかあたし以外の買い物客は火災で死んだ。あのスーツの男たちのせいで。


 あたしは一人で、どうしようもなくて。

 その手の人に身体も売った。できた金で生活したし、余裕を見つけては復讐のために九頭竜について調べた。

 その結果たどり着いたのが霊星グループ。といっても、情報が古かった。当時はすでに九頭竜でもなくなっていたらしい。

 それでもあたしは霊星グループの本拠に放火してやろうと思って本拠を訪れた。


 そこで出会ったのがロムだ。


「子供がどうしたの?」


 あたしの姿を見たロムは最初にこう言った。だから、あたしはフードとマスクをとってこう言ってやった。


「この髪色と顔に見おぼえはない? あたし、あんたたちに復讐しに来たの」


 あたしはライターとガソリンを持っていた。これで九頭竜――いや、九頭竜だった会社の連中を殺してやろうと思った。


「ふふふっ……可愛らしい子と思ったら指名手配されている放火犯じゃない! そんなに私たちが憎いの?」


 ロムの反応は、これまでの大人とはだいぶ違った。あたしが指名手配犯だから捕まえようともしないし、特殊な人みたいにあたしにねばつくような目線も向けて来ない。

 でも、憎かった。


「憎い。おまえたちのせいで! あたしのお父さんとお母さんは死んだ! お姉ちゃんにも会えなくなった! リーフモールのこと、忘れたとは言わせない!」


 あたしは叫んでやった。


「忘れていないわ。でも、1つ勘違いしているわ。私たち霊星グループはリーフモールの火災には無関係。関係あるのはブルームーンカンパニー。もしあなた一人で心細いのなら、ブルームーンカンパニーへの復讐、手伝ってあげるわ」


 ロムは怯むこともなかったし、どうやらあたしを気に入ったらしい。

 だからあたしはロムについていくことにした。ロムの本性も知らずに。



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