20 仲間でいたい
リンジーを信じているといえば、信じていた。だが、オリヴィアはリンジーの元へ向かう勇気が出なかった。
一行は拠点の廊下を走り抜け、立ちはだかる者たちを薙ぎ倒していった。
まさに快進撃と思われたときだ。ヒルダが妙なイデア使いの気配を感じ取り、その者に銃口を向けた。
「ヒルダ!? 何やってんだい!?」
ヒルダの行動にまず気づいたのはエミーリア。
彼女の制止も聞かず、ヒルダは引金を引いた。
だだだだ、と銃弾がばら撒かれ。
鏡の中から伸びてきた手は銃弾によって削られてゆく。
「そいつ! 列車の中でオリヴィアを連れ去ったやつ! 多分!」
ヒルダは反動に耐えながら言った。
ヒルダが言うと、エミーリアは一瞬で表情を変えて。
「攻撃していいやつなわけかい」
と、エミーリア。
そんな彼女が見た、金属の壁。鏡のように磨かれたその面には1人の男が映り込んでいた。
男が手を伸ばす。
この手、確かにオリヴィアを隔離した男のもの。引きずり込まれた本人のオリヴィアも、唯一見ていたヒルダも覚えがあった。
エミーリアは男の――ボルドの手を掴んで引きずり出した。
引きずり出されたボルドはダイヤのマークにも似たビジョンのイデアを展開していた。
エミーリアはそのまま手を離し、ボルドを空中に放り投げる。投げ飛ばされるボルドに、一度発砲をやめるヒルダ。
ボルドは引きずり出された方の金属製の壁の反対側に叩きつけられた。
「クソっ……! だがあれは鏡じゃねえ!」
と、ボルドは言って拳銃を抜いた。だが、ヒルダは未だボルドに銃口を向けている。まさににらみ合いだ。
ヒルダはボルドに銃を向けたまま声を張り上げ。
「先に行って! 多分こいつの狙いはオリヴィアだから!」
「え、わたし……そうだね」
オリヴィアは声を漏らした。
確かにボルドはオリヴィアを鏡の中に引きずりこみ、一行から引き離した。ボルドのせいで、ロムやリンジーから殺されかけた。
だから今ここに残るわけにはいかない。
「生きて会おうね、ヒルダ。エミーリアも」
オリヴィアは言った。
ここに残る2人に言葉を投げかけて、オリヴィアとパスカルと晃真はその場から走り去る。
「準備はいいかい? 私への流れ弾は気にしなくていいからさァ」
「私、誤射しないよ?」
エミーリアに言われれば、ヒルダはにこりと笑う。
ボルドもヒルダも手を出さない状況か続いていた。互いに銃口を向け合い、ヒルダの後ろにはエミーリアがいる。
「誤射しない、だ?」
ヒルダの言葉にはボルドも反応した。
「そうたよ。私の弾丸はどんなに逃げても追いかけるから」
と、ヒルダは答えた。
瞬間、ボルドは引金を引いた。
「ヒルダ!」
エミーリアが叫ぶ傍ら、ヒルダも発砲。撃たれたのが嘘であるかのようにイデアの銃弾をまき散らす。銃弾はボルドの身体を穿つ。銃弾に貫かれ、血と肉が辺りを赤く染める。
やがて、ボルドは全身を撃ち抜かれて息絶える。その最期は人の形をとどめているとはいいがたい。
そんなボルドの亡骸を前にして、ヒルダは立ち尽くす。
「私の能力で人を殺すと……こんなことになるんだね……敵でも……」
ヒルダの口からはこれ以上の言葉が出てこない。思い出せば思い出すほど恐怖を覚えてしまう。
数か月前のことだ。ヒルダがパスカルを裏切って殺そうとしたのは。あの時、パスカルが向き合ってくれたからこそ、ヒルダは彼女を殺さずに済んだ。仮にパスカルを殺していたとすれば?
「人を殺すのが怖いのかい?」
ヒルダの心を読んでいたかのようにエミーリアが声をかける。
「ううん……怖いのは殺すことじゃないんだよ」
ヒルダは答えたが、肝心なところをぼかしていた。
人を殺した経験はこれまでにあったのに、いざ自身の能力を使って殺したとなればどうしても思い出してしまう。思い出したことを言うべきか。
「言ってみな。別に私は責めもしないし、責める資格もない。できる限りだが、あんたの悩みってもんに向き合うからさ」
エミーリアは言った。
悪魔を自称し、立ちはだかる者には容赦しないエミーリアだが今はそうではない。
ヒルダは一度歯を食いしばり、言った。
「私、パスカルを殺そうとしたことがあるんだ。シンラクロスの町でね――」
「いたぞ! 侵入者だ! 工場長を連れてないようだが」
ヒルダが途中まで自身の心の内を吐露したところで、声が重なる。
どうやら新手が来たらしい。人数は30人前後。イデア使いもいれば、そうでない者もいる。
ヒルダは焦ってイデアを展開しようとしたが、エミーリアが制止する。
「あんたは見てな。この程度、頑張れば私だけでもいける」
と、エミーリアは言った。
このとき、エミーリアもイデアを展開していた。右腕だけでなく、左腕、全身。首から上には展開していないが、ヒルダは近くにいるだけでとんでもない圧を感じていた。
ヒルダが動けない間にエミーリアは30人の敵たちに突っ込んだ。それからは早い。並みのイデア使いであればすぐに斃される。が、ただ1人エミーリアの攻撃を受けて息がある者がいた。
息がある男は死体にまぎれて携帯端末を操作してメッセージを送る。
「さて、行こうか。もし怖いならもどってもいいが」
と、エミーリア。
「……行く。私だって、エミーリアとかオリヴィアの仲間だよ。もう私は、仲間のふりした裏切り者じゃないから」
ヒルダは言った。
「そうかい。さっき聞き損ねた話は、また後でだ」
エミーリアは悪戯っぽく笑って言う。
2人はロムの拠点の奥へと進んでいった。
当然2人は敵に情報がいったことなど気づいていない。




