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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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18 二度目の敗北、リンジーの作戦

 クラウディオもリンジーも、イデア界に到達した一握りの使い手だ。違いがあるとすれば練度。それでも、リンジーだってヒューゴーを怯ませる程度のことはできた。


 怯んだヒューゴーはクラウディオの指示で工場の外に退避する。

 リンジーとしては少々想定外だが、ヒューゴーが外にさえ出てしまえば成立する作戦ではある。


「……うまくやってよね」


 と、リンジーは呟く。からの、クラウディオへの攻撃。躱される。今度は、クラウディオは剣を片手にリンジーへと斬り込んだ。


「ふっ!」


 リンジーは壁のように荊を展開して剣を防ぎ切る。この様子にクラウディオは目を丸くし。


「あんのかよ、燃えねえ植物が」


 灼熱の青白い刃を荊に押し当てなから言う。

 青白い刃はクラウディオがイデア界に到達した証。それをもってしても荊は破られない。荊が焼ければ、それはたちどころに再生する。


「荊はこういう植物なんだから!」


 と言って、リンジーはクラウディオの脚を狙って荊を伸ばす。鍔迫り合いにも近い状況で、リンジーはこれが最適解だと判断した。

 だが、クラウディオも馬鹿ではないし、鈍くもない。あえてイデアの展開を中断して荊を躱す。荊はクラウディオを捕えない。それでもリンジーにとっては想定内。今度はクラウディオの背後からの荊。気配だけで感知したと思えばクラウディオはにっと笑う。


「焼き切ってやるよ! 燃える荊はなんとなくだがわかったんだよ!」


 と言って、クラウディオは一切背後を見ることなく赤い刃を背後に放った。

 荊はいともたやすく焼き切られる。


 と、ここでリンジーはクラウディオに肉薄し。


「それでもいいけどさ。ロムを出せよ。あたしはお前じゃなくてロムに用があんの」


 だから本拠でも守られた場所である『Gift』工場に殴り込んだ。

 空間に作用する能力で守られていると知っていたから不正アクセスのようなやり方で入り込んだ。

 だが、工場にいたのはロムではなくクラウディオ。リンジーにとっては完全に想定外だった。


「それはできねえ相談だ。お前がロムに会うのは、俺に半殺しにされて放り出される時だぜ」


 と言って、クラウディオは青白いナイフを手にしてリンジーを薙ぎ払う。そのリンジーも負けじと荊を伸ばすが――


「ちょっと大人しくしてろや。目障りだ」


 本気の目。

 リンジーはクラウディオがその瞬間に放った圧にやられ、怯む。当然だ。リンジーのイデアでヒューゴーが怯んだのだから、クラウディオだって同じことができる。


 クラウディオはこうしてできた隙をついてリンジーの顎を殴り、気絶させた。


「ふはは、『Gift』工場は防衛成功だ! ……はあ、つまんね」


 勝利を宣言するクラウディオだったが、その言葉の後には軽い失望のようなものもあった。

 彼の本心を知る者は、ここには誰もいない。


 クラウディオは侵入された方の入り口を通って目的の場所へと向かう。もちろんリンジーを担ぎ上げた状態で。




 時は2時間ほどさかのぼる。

 リンジーはブリトニーと組んでロムの拠点に殴り込むことを決めていた。この時点で話していたのは、殴り込みの詳細。


「で、あんたはどこまで知っているんだ?」


 ブリトニーはリンジーに尋ねた。


「ある程度の間取りとあちらさんの能力。それから、誰がどこにいることが多いか、かな」


 リンジーは答えた。


「よく知ってんな。ちなみに、ヒューゴーってやつはいたかい?」


 ブリトニーは尋ねる。

 訊かれた方のリンジーは少し頭の中を整理し、思い出す。

 ヒューゴーという名前の男。リンジーはあまり接点がなかったのだが、名前自体に聞き覚えはあった。それに――


「工場長……」


 リンジーは思わず言葉を口にしていた。


「ヒューゴーって人、苗字は知らないけど工場長って呼ばれてる。ロムの一味で工場長って言うなら、『Gift』の工場の工場長ってことだろうし。ほら、来た時はかっこよかったけど、どんどん太ってさ。今はただの太った人って感じ」


 と、リンジーは続ける。

 すると、ブリトニーはまた尋ねる。


「そいつの髪色は?」


「薄い紫。デブじゃなかったらすごく綺麗」

「間違いねえ。そいつがあたしの探しているヒューゴーってやつだ」


 ブリトニーは食い気味に言った。

 彼女の口調から、ヒューゴーがいかに彼女にとって大切な人なのかが伝わる。


「どうすればいい?」


 と、リンジー。


「工場に殴り込むか、工場からヒューゴーを連れ出してくれるかい?」


 と、ブリトニー。


「できると思う。工場にあたしは入ったことないけど、あの工場はイデア空間で守られてるんだ。それだったら、あたしの能力が役に立つ」


 リンジーは答えるとイデアを展開した。

 ブリトニーが見たのは荊のビジョンを持つイデア。ブリトニーは荊のイデアを見ると何かを想うような表情を見せた。

 リンジーはブリトニーの表情の変化を見逃さない。


「変なこと言った?」


 リンジーは尋ねた。


「いや、違うぜ。知り合いが戦った相手を想いだしただけだ。で、続きを」


 と、ブリトニー。


 リンジーは気を取り直して話を再開する。


「このイデアを伝ってなら、あたしはだいたいの空間に侵入できる。入口さえあればね。だから、工場の近くに行けば後は簡単。入口に向かってあたしの能力を使う」


「なるほどねえ?」


 ブリトニーは半分くらい理解、納得しているようだ。


「殴り込んでからだけどさ、念のために工場に侵入するのはあたしだけにしたい」


 と、リンジーは続けた。


「そりゃ、どうして? あたしも行った方が制圧しやすいだろ」


「あの工場、壊したら危険なものまみれなんだ。ヒューゴーを生きたまま連れ出すならなおさらあんたを中には入れられない。あたしは脱出できるけどさ」


 リンジーは答えた。


「ああ……そこは違いないぜ。あたしの能力は確かに破壊力がある。熱を生み出すわけだからな」


 と、ブリトニーも納得する。


「だから、ブリトニーは工場の入り口近くで待ってて。どうにかしてヒューゴーをそっちに連れ出すから」


 リンジーは言った。


 作戦はこう。

 2人で地上からロムの本拠に殴り込む。

 適宜応戦しながら工場へ向かう。

 工場の入り口でブリトニーは待機、リンジーは能力を使って侵入する。

 リンジーは工場内をある程度荒らして攪乱、ヒューゴーを拉致する。

 工場を脱出する。

 工場を出たところでブリトニーと合流。

 工場から一度脱出する。


 リンジーはその後にでももう一度殴り込もうと考えていたが――クラウディオと接敵して作戦はほころびはじめる。



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