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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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17 『Gift』の工場

 ここはロムの本拠地の一角、『Gift』工場。様々な装置が稼働しており、恰幅の良い男をはじめとした何人もの労働者たちが働いていた。労働者は1人を除いて全員がカジノで借金を作った者たちだった。


 ここで工場にクラウディオがやってくる。いつものような服装ではなく、防護服――清潔さを保つためというよりは、有毒ガスを吸わないためのものを着込んでいた。


「よう、Giftデ……じゃねえや、工場長。生産量は変えたな?」


 と、クラウディオは言う。


「勿論。販売ルートが変わったならそれに対応しなくてはな」


 工場長のヒューゴーは答えた。


 ヒューゴーはかつてとあるバンドでギタリストをしていたが、今はもう見る影もない。界隈では美男子ともいわれていたが、今やヒューゴーは30過ぎのただの太った男に成り下がってしまった。

 とはいえ、ヒューゴーは少なくともロムやクラウディオにとっては有能な部下であった。事実、もう10年近くこの工場を何のトラブルも起こさずに管理している。


「頼むぜ、工場長。お前を生かしてやった俺らの役に立てよ?」


 クラウディオはそうやってヒューゴーに圧をかけた。


「ああ……ところで、ある使い手について話があるんだが」


 ヒューゴーが何かを思い出したかのように言う。


「何だ?」


 クラウディオは珍しくヒューゴーの話に興味を持った。


「名前は知らないが、どこかリンジーに似ている。糸使いで、何でも鮮血の夜明団本部をめちゃめちゃにしたらしいぞ」


 と、ヒューゴー。

 クラウディオは少し考えた後に一言。


「なんでお前が外のこと知ってんだよ」


 クラウディオはヒューゴーを怪しんでいた。元々信用などしていなかったようだが、今はなおさら。

 ヒューゴーは、何年もロムの拠点から――それどころか『Gift』工場のエリアからも出ていない。情報源なとないはずだ。


 クラウディオの突き刺さるような眼差し。一方の、ヒューゴーにも後ろめたさはなかった。


「新入りだ。つい一昨日、ディレインでクッキーに手を出して破産したやつが1人、工場で働き始めたんだ」


 と、ヒューゴーは言う。

 しばらくクラウディオは黙り込んだが。


「あー、だからか。クッキーは俺の管轄外なんだよなあ。そいつ経由なら仕方ねえな。しっかし、新入りも怪しい奴じゃねえか」


 クラウディオは戸惑いがありつつも納得したようだった。

『Gift』工場はいつも通り。破産者や『Gift』中毒者、ロム一味のことを暴こうとした者たちが、薬漬けにされて働かされている。

 工場はイデア空間を挟んだ向こう側にあり、行き方がわからなければ誰にもたどり着けない。セキュリティは万全だ。


 だが、この日はひとつだけいつもと違うことがあった。


 クラウディオはヒューゴーから聞いたことをもとに、ある人を思い出す。クラウディオ自身もその人物には会ったことがあるし、ロムの他に唯一「敵わねえ」と感じた相手だ。

 だからクラウディオはその人物のことを口にする。


「ああ、誰なのかは見当がついたぜ。糸使い、リンジー似、リュカが閉じ込めても難なく脱獄しやがった」


「相当だな」


 と、ヒューゴー。

 するとクラウディオは再び口を開く。


「ちなみにその使い手だがな、平行世界のリンジーらしい」


「なんだって?」


 クラウディオが言うと、ヒューゴーは聞き返した。あまりにもつながりのわからないことだったから。


「だからこことは違う世界のリンジーがそいつだ。俺はな、お前の知ってることの3倍くらいは色々と知ってんだよ。理解しろや、能無しGiftデブ」


 と、クラウディオ。


「あァ!?」


 クラウディオは地雷を踏んだらしく、ヒューゴーは声を荒らげた。

 と、その時だ。普段なら侵入できないようなところに新たなイデア使いの気配が現れた。

 警報が作動する。

 クラウディオもヒューゴーも警報に気付き、それぞれイデアを展開。クラウディオの周りには赤いナイフが現れ、ヒューゴーの周りには透き通った球体が現れた。


「迎撃すんぞ、工場長。『Gift』工場の設備は繊細なんだろ?」


 と、クラウディオ。


「その通り。特に、アレには絶対に近づけさせん」


 迎撃体勢に入る2人。

 2人の前で従業員が1人、頭を茨の鞭で打たれて倒れた。これで侵入者の正体に気付いたクラウディオ。


「話が変わったぜ、工場長。『茨姫』だ!」


 と言って先陣を切ったクラウディオ。

 展開した赤いナイフを飛ばして侵入者リンジーを仕留めようとした。が、リンジーは茨の展開範囲を広げ。


「……!?」リ


 ヒューゴーは一瞬だが怯む。

 彼の様子を見ただけで、クラウディオはあることを悟る。


「クソ……リンジーまで! てめえが味方ならどれだけよかっただろうな!」


 放ったナイフは青白い茨にかき消された。

 この様子をクラウディオは見たことがない。が、クラウディオはリンジーの覚醒――イデア界への到達を確信する。


「どうするんだ、クラウ――」

「いいから下がれ! お前はボルドに報告だけしとけ! 足手まといにしかならねえよ!」


 ヒューゴーが指示を仰ごうとすれば、クラウディオは言い放つ。そうしたと思えば、青白い剣をその手に持った。




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