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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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15 破綻

 屋外。明るい。ここは閉じ込められた空間とも、ロムの拠点とも違う。


 オリヴィアはどうにか拠点の外に逃げ出した。まず外に出られたということで安堵感を覚える。それから、オリヴィアは周囲を見回した。

 拠点の外は寂れた村。建物の様子やさらに遠くの景色から、マルクト区近くや南部の山地寄りの町とは違うことはわかった。


 移動中に襲撃されたと思えば、イデア能力で作られた空間に隔離され。さらに出られたと思えばリンジーが殺しにかかってきた。だから逃げた。逃げたら、出られた。

 この村に出るまでの経緯はまるででたらめだ。だが、オリヴィアはここが件の村、アルコナだと確信していた。


「連絡しないと。わたしがアルコナにいるって」


 オリヴィアは呟き、持ち物を漁る。と、ここでオリヴィアは携帯端末がないことに気付いた。どこかで落としたか、あるいは。

 だが、理由はどうであれこれでは仲間と連絡を取ることもできない。


「……はぁ、はぁ。逃げ切れた」


 オリヴィアの背後からの声。

 振り向いてみればオリヴィアの背後にはリンジーがいた。全身に浅い傷があり、息も上がっている。全身の傷はすべてオリヴィアがつけた。


「リンジー……」


 これ以上、オリヴィアは言葉が出ない。


 義理の姉を名乗り、オリヴィアのためにロムと手を切ろうとまでしてくれたリンジー。だか、ロムの本拠で再会したときに、リンジーは殺意を向けた。

 あの殺意がリンジーの心からのものでないことはわかっていた。だが、それでもオリヴィアの情緒はめちゃめちゃだった。


 心の内を表すかのように、オリヴィアは知らず知らずのうちにイデアを展開していた。


「落ち着いて……あたしがあんたを攻撃したのは事実だけど……」


 オリヴィアを前にしてリンジーは言った。だが、オリヴィアは感情を抑えきれずに言葉を零す。


「嘘つき」


 あまりにも淡々とした口調に、リンジーも呆然とする。いや、彼女もこうなることは覚悟していた。


 オリヴィアはこれ以上リンジーに何か言うこともなくこの場を後にした。

 向かうのは適当な廃屋。人がいる様子のない民家を探し、オリヴィアは上がり込んだ。

 だが、廃屋には思いもよらぬ先客がいた。


「やあ、オリヴィア。アニムスで別れて以来かな?」


 アナベルだった。


「なんでいるの……」


 オリヴィアは言った。

 その瞬間、オリヴィアの目から涙が溢れ出た。すると、アナベルは立ち上がり、オリヴィアを抱きしめる。抱きしめて、口を開く。


「つれないねえ。私と君は赤い糸で繋がれているんじゃないか。それにしても君も相当参っていると見た」


「……そんなこと言われたって」


 アナベルに見抜かれたオリヴィアは取り繕うが、そんなことは意味がない。


「どれ、私が君の代わりに殴り込んで来ようか。ちょうど私もロムの右腕……グラシエラとは因縁があってね」


 と、アナベル。


「わたしも準備できたら殴り込むよ。ロムは、わたしが倒さないといけないの」


「何があったかは聞かないよ。ただ、まだその時じゃない」


 アナベルは焦るオリヴィアを目で制止した。

 仕方ない、とオリヴィアは目を伏せる。




 オリヴィアと別れたリンジーが向かったのはテンプルズの町――の、協力者の家。約束の時はとっくに過ぎていた。だが、今のリンジーが行くところはロムの元以外なら協力者のところしかなかった。


 協力者から教えられた場所は、テンプルズの北寄り。中心街からは外れて、小規模な農園を備えた民家が建ち並ぶエリアだ。

 リンジーは件のエリアのアパートのインターホンを押した。


 住人は、協力者は出るだろうか。


「はーい」


 という声とともに、ドアが開く。

 特徴的なスタイルをした黄緑色の髪、金色の瞳、蛍光色のパーカーに熟練したイデア使いの気配。

 この女がブリトニー・ダーリング。リンジーの協力者だ。


「リンジーか。連絡がないから何かあったとは思ったぜ」


 ブリトニーはリンジーを見るなり言った。


「察してくれてありがとう。ボルドのせいで、全部考え直さなきゃいけない。ったく、酷い話だよねえ」


 リンジーは息継ぎもせずに早口で言った。その姿が憔悴しているようにも映る。


「はいはい、落ち着けよ。焦ったら何でも裏目に出るぜ」


 ブリトニーは言った。

 何があったのかは知らない。だが、ブリトニーはリンジーを信頼して部屋に上げた。


「疲れたときには甘いもの。殴り込むなら落ち着いてからだぜ」


「ありがとう……ブリトニーは優しいね」


「辛いことを経験したからな」


 と言って、ブリトニーは部屋の奥へ向かい、冷蔵庫から手作りのスコーンを出した。


「糖分は心によく効くぜ」


 ブリトニーはにやりと笑ってスコーンをテーブルに置いた。


「ありがとう……そうだね。オリヴィアも言うほど弱くないはずだ」


 リンジーはそう言うと席についた。


 スコーンにはチョコレートが入っており、優しい甘さと苦味がリンジーの舌を包んだ。ちょうどリンジーが欲していたような味だ。無意識のうちに彼女の目からは涙がこぼれていた。

 そんなリンジーを、ブリトニーは優しい目つきで見ていた。


「まずはオリヴィアと和解する。話はそれから」


「だな。私は殴り込んでヒューゴーを連れ戻す」


 2人は決意を新たにした。

 3日後、レムリア大陸全土を揺るがす事件が起きることとなる。



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