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4 キルスティの狂気1

 消しに来た者がいる。

 見えない敵を探していたエミーリアは、これまでにしていたことが無駄ではないとわかってある意味で安心していた。少なくとも敵を探すことが無駄にはならないから。狙っていた相手自らこちらに来るはずだから。


「何笑ってんだ。ここで戦うことになるのは結構まずいことだろ」


 そんなエミーリアに向かってエレナは言った。


「まずかろうが、こりゃ私たちの作戦だ。それに私には室内戦に特化した仲間がいるんだよ。あいつが室内で負けることがあるとは思えないがね」


「何事にもイレギュラーってもんがある。それからい頭に入れとけ。足元掬われるぜ?」


 そうやってエレナはエミーリアに忠告する。

 年齢が近い2人だが、経験に関してはエレナの方が圧倒的に上に見えた。エミーリアも弱くはないのだがエレナの放つものはエミーリアを上回る。

 彼女はエミーリア自身よりも上だ。少しエレナと話しただけで実感した。


「その忠告、聞いておくよ。あんたは強い、鮮血の夜明団でも十指に入るくらいだろう? じゃ、聞かないとだねぇ」


 と、エミーリアは言った。


「話が分かるやつで助かるぜ。とりあえず、お前のツレで一番室内戦に強いヤツと戦うことを覚悟しとけ。話はそれからだ」


「なんだって?」


 エレナの一言に、エミーリアは聞き返した。

 エレナが冗談を言っていなければ、キルスティが裏切ることが目に見えていることになる。だが、エミーリアはキルスティとこれまでにともにいたからその発言が信じられなかった。


「裏切り、脅し、その他もろもろ。仲間が敵対行動に出るのはまあまあよくあることだ、鮮血の夜明団ではな」


 と、エレナ。


「私もキルスティも正式なメンバーじゃないし、そもそもどっちにも裏切るメリットは……」


 そう言いかけてエミーリアは一度黙る。

 イデア能力でキルスティの行動を意のままにできるのなら、その可能性は大いにある。

 エミーリアは、はっとした。


「連絡を取ってみる。隙を作りたくなくて電話はしなかったが」


 エミーリアは携帯端末を取り出し、別の車両にいる晃真に電話をかけた。

 数コールの後、晃真は電話にでたようで。


「晃真? 私だ。そっちの様子を聞かせてくれるかい?」


 と、エミーリア。


『まだ特に変わったことはない。今キルスティが飲み物買ってるよ。車内販売が来たから』


「……なるほどねぇ。晃真、ちょっとその車内販売の人に注意しててくんない?」


 晃真から聞いた情報。エミーリアはそこから何かに気づいたように、指示を出す。


『何の意図かわからないけど。確かに成りすましている可能性もあるんだよな。こちらでも様子を見てみる』


 晃真は言った。


「ありがとう、晃真。また何かあったら連絡しとくれ。どんなに些細な違和感でもね」


 エミーリアはそうやって念を押す。


『ああ。今のところは大丈夫。エミーリアも、気をつけてくれよ』


 と、晃真は言って電話を切った。直後、晃真は車内販売の男を見た。やたらと顔の綺麗な彼は辺りの人物の視線を受けている。怪しくも見えるのだが、何をしてくる気配もない。いや、すでに仕掛けているのかもしれない。

 その男からアイスクリームを購入したキルスティ。彼女はいつもより明るい表情で蓋を開けていた。


「キルスティ、いいか?」


 晃真は尋ねた。


「なに。早くアイス食べたいから早くしてほしいんだけど」


 少し不機嫌そうにキルスティは言った。よほど早くアイスを食べたいのだろう。


「さっき違和感はあったか? あの男、車内を動き回るはずだから車両に細工するくらいはできるだろ。それっぽい感じがあったら教えてくれるか?」


「……それは……ええと」


 キルスティは言葉がうまく出てこない。違和感そのものに気づいていないわけではないが、何かがキルスティを妨害している。晃真はキルスティの異変に気付き、携帯端末を取り出した。異変をエミーリアに知らせようと、電話をかけようとするが――


 電波は通じない。窓の外を見てみれば、周りには町も村もない。ここでは外部との連絡を取ることはほぼ不可能。列車は外部から隔絶された空間となった。


「どうなんだ、キルスティ」


「……何もないでしょ。何、警戒してるの。そもそも行先まで何もやることはないはず。そうでしょ……?」


 キルスティはそう言って微笑んだ。が、彼女の眼は虚ろで笑っていない。彼女の姿を見るなり背筋がぞっとするような感覚に襲われた。


「オリヴィア! アナベル! もう異変は起きている! キルスティが……!」


 晃真は叫ぶ。だが、オリヴィアもアナベルもこの車両にはいない。隣の車両にいたことを晃真は思い出した。


「ねえ、警戒することはないって言ったよね。あんたは、このまま私に屈服してすべて忘れてしまえばいい。少なくとも、俺に従っていれば何も悪いことはないんだ」


 と、キルスティは呟く。さらに彼女はその手にハサミを握り、アイスの蓋につきたてた。


「いいからあんたも、だまって屈服しろ。屈服して、死ね」


 キルスティの声にはドスが効いていた。


 晃真はあとずさりながら乗客たちの様子を見た。辺りの乗客は全く気にする様子はない。晃真とキルスティの間には不穏な空気が漂っているというのに。


「それはできない。エミーリアならあんたの姿を見てどう言うだろうな……?」



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