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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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13 裏切り者とカナリス・ルート

 しばらくするとグラシエラがプロスペロを連れて戻ってきた。このときにリンジーの意識はすでになく、彼女の意志も関係なく治療が決められていた。


 リンジーの姿を見たプロスペロは、ロムに気づかれない程度にため息をついた。ロムの性格を知るプロスペロだが、まさかここまで手ひどく『わからせる』とは思っていなかった。


「グラシエラが説明してくれたとは思うけれど、治療を頼みたいの。このままではリンジーが死んでしまうわ」


 ロムは言った。

 プロスペロにも思うところはあったが、彼は下手に口を出そうとはしなかった。ロムの一味では事実上ロムがルールだ。


「それだけリンジーが反抗的だったんでしょう。さすがは『荊姫』、一筋縄ではいきませんな」


 これがプロスペロの言える精一杯の言葉だった。ここにもロムと他の構成員の力関係が見て取れる。

 プロスペロはリンジーに近づいて傷の状態を確認すると、まずは出血しているところを消毒する。消毒すれば、錬金術をかける。天才のキルスティほどではないが。慣れた手つきだった。


 しばらくするとリンジーの傷はすべて再生した。


「……ご苦労、プロスペロ。後は『荊姫』が目覚めるのを待つだけよ。とは言っても、リンジーはこの私に正面から歯向かって来たの。いくらわからせたと言っても単独で行動させるのはまだ危険ね」


 と、ロムは言う。


「間違いない。彼女はロム様の監視下に置いておくべきですな」


 プロスペロは言った。


「ええ。わかってくれるじゃない。あなたも、引き続き錬金術アカデミーの方は頼んだわ。成績の振るわない学生に人気だというじゃないの、『Gift』は。やはり、重量当たりの単価がけた違いね……」


 と、ロムは言ってほくそ笑む。


「そうね。時代は『Gift』……戦争や事件のマッチポンプなんて割に合わない」


 グラシエラも言った。

 と、そのときだ。ロムの持っていた携帯端末に着信があった。連絡を寄越してきたのはダフネ。カナリス・ルートではロムとそれなりに関わりはあった。


「ごめんなさいね、席を外すわ。それから、プロスペロ。一旦ここから出てくれるかしら」


 ロムは言った。

 プロスペロはばつが悪そうに「すまない」と言って部屋を出る。ロムもそれに続くのだが。


 ロムが向かったのは地上。

 彼女とクラウディオとグラシエラだけが知るルートを通って、とある民家の階段裏に出る。さらに階段裏を出て、廊下を通って外に出る。


「ごめんなさいね、対応が遅れてしまって」


 と、ロム。

 彼女が言ったのはカナリス・ルートのダフネ。ダフネは金髪でキャスケットを被った、オリヴィアと同じくらいの身長の女だった。


「別に。あなたはクラウディオみたいにすっぽかさないじゃん。あいつと違ってあなたは律儀だからまあまあ信用できるし」


 と、ダフネは表情ひとつ変えずに言った。


「褒めてくれるのね、嬉しい。例のブツは確保してあるから、待ってて」


 ロムはそう言って、一度民家に『Gift』を取りに戻る。

 イデア覚醒薬『Gift』。ここ数年で流通量が増え、カナリス・ルートが主力としている商品だ。その『Gift』の生産を全面的に管理しているロムは、カナリス・ルートの生命線でもあった。


「これでいいかしら。ディサイド地区の住民に売るための『Gift』は」


 と言って、ロムは台車に乗せた箱入りの『Gift』を差し出した。


「ありがとう。それから――あんたに何かあったときのために、『Gift』の製造方法について聞きたいんだけど」


 ダフネがそう言うと、ロムの眉がぴくりと動いた。


「これは私の考えでもあるし、ボスの考えでもあるんだけど」

「少し黙りなさい」


 続けるダフネの言葉を遮ったロム。そのままダフネの首をつかみ、そのまま首を絞める。


「確かに時代は『Gift』だし、私に何かあれば生産システムはどうかなるでしょうね。でも、安心しなさい。私は後継者を育てているの。私が死んでも、彼女が問題なく続けていくわ」


 と、ロムは言った。

 ダフネはもはや聞いてなどいない。ロムに首を絞められて意識を失っていたからだ。

 意識のないダフネを担ぎ上げ、ロムは民家から拠点へ。さらに、一部の者しか知らない地下牢へ。地下牢にたどり着くと、ロムはダフネを独房に放り込んで鍵をかけた。


 地下牢ではあらゆる電波が一切通じない。ダフネも連絡が取れなくなるだろう。彼女と連絡が取れなくなったことでトイフェルは不審がるだろうが、もはやロムにとってはどうでもよかった。

 表面上は連絡をとり、協力的なそぶりを見せてもロムはカナリス・ルートの一員でいるつもりは毛頭なかった。


 ダフネを地下牢に閉じ込めてから10分ほどして、ロムはリンジーのいる部屋に戻ってくる。プロスペロはいないし、グラシエラも何か用事があったらしく部屋を出ていた。

 今、この部屋はロムとリンジーで2人きりだ。しかも、リンジーは意識を取り戻しているではないか。

 リンジーは部屋に入って来たロムを睨みつける。


「懲りないのね。また反抗することがあれば、あの程度では済まないわよ」


 ロムは言った。


「反抗はしないから……お願いがあるだけなんだよ……オリヴィアを連れてきて」


 と、リンジーは言った。


「ええ、わかったわ。少し待っていてね。オリヴィアを連れてくるから。連れてきたら、あなたも解放してあげるから」


 ロムはにこりと笑って言った。

 このとき、リンジーは嫌な予感がした。



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