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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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12 ロムの再教育

 再教育。

 それはロムの気に入った者が、ロムに反抗する素振りを見せたときに行われるものである。反抗する素振りとはいっても、リンジーのように正面から反抗する者はほとんどいない。だいたいはロムの命令を遂行できなかった者が再教育の対象となる。


 ここはロムの拠点の隠し部屋。ロム本人とグラシエラだけが知っており、同志であるはずのクラウディオでさえ知らない部屋だ。

 今、リンジーは両手を特殊な手錠と鎖で縛られて、荊をあしらった椅子に座らされている。そんな彼女の前にいるのはロム。


「ねえ……リンジー。少しは『荊姫』としての自覚を取り戻してくれたかしら?」


 拘束されたリンジーに語り掛けるロム。彼女は比較的穏やかな表情だったが、リンジーを拘束したのは紛れもなくロムである。さらに、ロムの後ろには彼女の右腕、『赤ずきん』グラシエラが控えていた。


 勝てる見込みもなく、逃げることもできない状況だった。


「私は……」


 これ以上は口にできない。

 リンジーは勇気を出してロムを裏切ったが、その恐ろしさはよくわかっている。いざ対峙してみれば反抗する気力さえも削がれてしまう。


「何とか言ってみたらどうなの? せめて、『荊姫』としてロムの左腕になるか、抵抗して死ぬかを決めなさいな」


 ロムの後ろでグラシエラが言った。

 すると、ロムがグラシエラを一瞬だけ見て言った。


「……よく言われるのよ。怖い、って。私、それだけピリピリしているかしら。言う事を聞けない娘をしつけているだけなのに」


 その言葉を聞いたリンジーは震えあがる。と同時に、過去にオリヴィアが受けていた仕打ちが何だったのかを理解した。

 だからこそ、ここでロムに屈してはならないと感じてしまった。


「全くその通りね。ロムは……いわれているほど非道じゃない。非道だ、恐ろしい人だと言う前に自分の行いを振り返ってみるべきなのよ」


 ロムに続いてグラシエラも言った。


 悪魔が2人。

 リンジーは恐ろしさを覚えていた。だが、ロムの元を去る前、オリヴィアがロムのもとから姿を消す前はリンジーだってさして違和感を覚えていなかった。

 リンジーはロムの元にいたことで感覚がマヒしていたらしい。リンジーは一瞬だが唇を噛み、ロムを睨みつけた。


「振り返るのは、あんたの方じゃない……オリヴィアに何したか分かってんの……?

 オリヴィアだけじゃない……『Gift』の中毒者にもさあ。元ミュージシャンのヒューゴー……あいつも『Gift』中毒者じゃないの……」


 リンジーは言った。


「論点をずらさないで頂戴。元気がいいのは結構だけれど、今は『Gift』の話なんてしていないわ」


 と、吐き捨てるロム。

 わかっていたが、ロムには話が通じない。

 仮にリンジーが紫念晶(しねんしょう)の合金の手錠をつけられていなければ、イデア能力で攻撃していたことだろう。だが、今はイデア能力を封じられたうえ、ロムの後ろには抜き身の異形の剣――恐怖を操る代物を持ったグラシエラが控えている。イデア能力を使わずに殴りかかったところでロムの身体能力にはかなわない。

 どうすることもできなかった。


「ずらしてない! よく考えればいい……どうしてあたしがオリヴィアにつくだけじゃなくて、こうしてあんたの首を狙っていたかってこと!」


 リンジーは叫ぶ。

 するとロムの眉がぴくりと動き。


「痛みを以てわからせるしかないようね。手出しは無用よ、グラシエラ」


 と言って、ロムはオリヴィアの顔面を殴りつけた。

 イデアを展開していなくとも、ダンピールであるロムの拳は強烈だった。本当に怒らせた後のロムは恐ろしい。これはロムの一味の共通認識だったが、リンジーだけは恐怖に屈しなかった。


 ゴッ……と音を立てて何度も拳がリンジーに叩き込まれる。

 時にはリンジーの脚を蹴る。ロムがリンジーの脚に蹴りを入れれば、骨が折れた音が響く。

 あまりにも激しい折檻だった。


 グラシエラはといえば、その様子を静観していた。彼女の顔に恐怖の色は一切ない。グラシエラからすればロムは身内で、リンジーは裏切り者。裏切り者は何をされても仕方がないとさえ考えていた。


「何か言いなさいよ、リンジー。あなたはどこの勢力の誰?」


 ボロボロになったリンジーの胸倉をつかみ、顔を近づけてロムは尋ねた。

 当のリンジーはといえば、意識も朦朧として顔は原型をとどめないほどだった。


「……私は……ロム様の左腕。『荊姫』です」


 リンジーは声を絞り出した。

 すると、ロムはリンジーの胸倉から手を離して表情も一瞬にして変わる。これまでの鬼のような形相はどこへやら、いつもの冷静なロムへと戻る。


「よくできました。忠実な左腕は治療が必要なようね。グラシエラはプロスペロを呼んできて頂戴」


 ロムは言った。


「了解よ」


 グラシエラはそうとだけ言って隠し部屋を出る。

 この場に残されたのはロムとリンジーだけになった。


「ねえ、リンジー。あなたも私の隣にいる資格があると思うの。理不尽な世界を知っているはず……同じでしょう?」


 と、語り掛けるロム。

 リンジーは何も答えない。



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