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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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9 まずは目的地へ

 場所はテンプルズ行きの列車に移る。

 オリヴィアとリンジーが姿を消した少し後、エミーリアは単独でマリカを取り押さえた。


「私の知っている最高の錬金術師は私に簡単には取り押さえられないねえ」


 エミーリアはマリカを組み敷いた状態で言った。


「何かわかんないですけどねえ! 私、錬金術師ですよお!? 本分は頭脳労働と医療なのに戦闘とか野蛮なこと、できるわけないじゃないですかあ!」


 エミーリアに組み敷かれた状態でもマリカは言う。ほとんど無傷だが、動けはしない。マリカにはエミーリアが傷を負わせて無力化するほどの実力がなかったようだ。


「その割には私たちを襲撃しにきたみたいだが、その辺はどう考えているんだい?」


 と、エミーリア。


「脅されたんですよお! 鏡の中から出てきた男に! そいつさえいなければあなたに捕まらなかったし、提出予定のレポートも無事だったのに……泣きたい……」


 マリカは言った。

 どうやら彼女は本心から敵、ボルドに味方していたわけではないらしい。が、エミーリアはまだマリカを離さない。


「エミーリア。そろそろ離してあげたらどう? その娘、たいした戦闘力じゃないしあの襲撃者の味方とも言い切れない」


 マリカの様子を見たパスカルは言った。するとエミーリアが口を開き。


「甘いよ、パスカル。一般人でも銃を持てば私らを殺せる世界だ。どうやらマリカはイデア使いではないらしいが、錬金術師は何をするかわからない。キルスティがそうだったようにね」


「へ、キルスティ? あの神殺し?」


 エミーリアがキルスティの名前を口にするとマリカが反応する。明らかに目の色が変わった。そこにあるのは憧れか。


「キルスティさんのことを知っているんですか!? 私、ダンピールじゃないけどああなりたいと思っているんですよ!」


 さらにつづけるマリカ。

 その場にいた全員がぽかんとした顔を見せた。キルスティの最大の理解者であるエミーリアでさえも。


 しばしの沈黙を挟むと、エミーリアがまた口を開く。


「キルスティは私たちと共に旅をしていたさ。ディレインに行くまでね。とはいえ、今は行方もわからない。生きているかどうかもわからない。が……そうかい、キルスティが憧れられるとは」


 と言って、エミーリアはマリカを解放した。


「で、あんたは錬金術師だと言ったね。テンプルズに行くということは、テンプルズで研究でもしているのかい?」


「え……」


 自由になったマリカは一瞬だが目を背け。


「……私、まだ錬金術アカデミーの学生なんですけどお」


 マリカは言った。


「マジかい……そうだねえ、キルスティが天才だったからかねえ。正確な年齢はわからないが、あんたくらいでも錬金術師として一人前だと思ったよ」


 と、エミーリア。


「悪かったですねえ、3年も留年してて! これでもダメダメってわけじゃありませんから! 普通の錬金術師が苦手な解毒とかもできるし薬剤の知識もあるんですよお!

 ……成果を毎回ライバルに横取りされるだけで」


 マリカ勢い余って自身の境遇を口にした。

 そこには、ある種のくやしさのようなものがあった。


「ううう……あのレポートがないと今度こそ退学になっちゃう! 鏡の男をなんとかしないと!」


「カナリス・ルートを潰すついでならやってやるよ。とはいえ、あんたも錬金術アカデミーに残るかどうかは考えときな。キルスティはすべて独学で錬金術を学んだんだ」


 と、エミーリア。

 マリカは頷くしかなかった。


 ここで、エミーリアは周囲の様子に目を向けた。

 オリヴィアもリンジーも消えたまま。どうやって消えて、どこにいるのかもわからない。が、今できることはテンプルズに向かうことだけだ。


「マリカ。貴女は、テンプルズの町には詳しい?」


 パスカルは尋ねた。


「勿論ですよ! 一体何年あの町で暮らしていると思ってるんですか! 13年ですよ?」


 と、マリカは答えた。


「それなら安心。もし何かあったらお願いね。私たちも、あなたの身を守れるように手は尽くすから」


 パスカルはにこりと笑って言った。




 同刻、鮮血の夜明団のテンプルズ支部では支部長クリシュナがくしゃみをした。


「……風邪か? 確かにここの冷房は効きすぎているくらいだが」


「いや、支部長は二日酔い以外で体調崩すことは無いでしょうよ。それより……」


 と言ったのは、浅黒い肌に赤い瞳が特徴の男レヤンシュ。クリシュナの副官だ。


「わかっている。俺たちの包囲網とアリリオのタレコミで、『Gift』工場をあらかた絞り込めた。やはりやるなら今か。ヨーランやヴァレリアンを監視していて正解だったな」


 クリシュナは言う。

 クリシュナはただでさえ人相が悪いが、こうしてほくそ笑んだときはいつもの比ではない。凶悪な表情を見せ、副官のレヤンシュですらその圧に押された。


「そうですね、支部長。これで少しは酒の量も減らせますか?」


 と、レヤンシュ。


「それは別だ。酒は現実逃避のためのものではない、楽しむものだ。俺は楽しむために酒を飲んでいるだけであってだな」


「はいはい、わかりました。ブリトニーにも伝えておきますよ」


 レヤンシュは呆れたような口調で言った。



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