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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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6 車上の襲撃

 列車の手洗い場の鏡から1人の男が現れた。

 この男、ボルド。鮮やかな色のシャツを着た爽やかそうな、水色の髪の男。年齢は20代半ばくらいだろうか。

 ボルドは携帯端末を起動し、テンプルズにいる味方に電話をかけ。


「定期連絡だ。これから作戦に移るぜ」


『了解だ。お前の能力は初見殺しだからな。もし次の定期連絡がなければ俺もロム様もお前を死んだものとみなす』


 ボルドの電話相手の男は言った。


「わかってるよ。次がなきゃ、テンプルズと本拠で迎撃する準備を進めてくれや」


 と、ボルドは言う。

 ボルドはこの場でオリヴィアたちに捕まり、人質にされることはないと考えていた。ボルドの奥歯には致死量の毒薬が仕込まれている。仮に彼の身に何かが起きれば、ボルドは奥歯の毒薬を飲んで死ぬつもりでいる。


『ではそっちは頼んだ……』


 電話が切れる。

 ボルドは携帯端末を鏡の中に放り込んで深呼吸する。

 ボルドがロムやその部下たちと決めた作戦はタイミングが命。できる限り気づかれる前に仕掛けてしまいたいが――


 オリヴィアの一行はイデア使いの気配には敏感だ。なんでも、イデア使いの気配を探ることにたけたヒルダや索敵ができる能力まで持ったオリヴィアがいる。加えて、今はさらに索敵能力を備えたリンジーも同行している。

 単独では仕掛けられない。だからボルドは乗車したそのときに何人かの乗客を味方につけた。


「今は俺じゃあできねえ。やれ」


 ボルドは小声で呟いた。

 すると、車内にいた数名の男女が立ち上がり、後ろの方の車両――オリヴィア一行が乗っている車両へと向かった。




「あちらさんも詰めが甘いねえ」


 と、エミーリアは言った。

 ボルドが行動開始したとき、オリヴィアの一行はすでに彼と彼の味方たちの動きに気づいていた。

 とはいえ、本格的に動き出す前は気づいていないふりをするために6人で会話し、アイスクリームを食べていたわけだが。


「うん。車上でわたしを相手にすること、考えていなかったのかな。先制攻撃してみようか?」


 オリヴィアも言う。

 このときのオリヴィアはすでにわずかな範囲だがイデアを展開していた。


「まだ待って。近づかれても単独なら私が相手する。もし複数なら、オリヴィアとリンジーはできる限り拘束をお願い」


 と、パスカル。

 言われた方のオリヴィアとリンジーは頷いた。


 やがて、数名の乗客がこちらに向かってくる。人数は7人。全員がイデア使いらしいが、練度は高くない。うち1人は目が虚ろで、おそらくは『Gift』を服用して覚醒した使い手のようだ。


 パスカルが先陣を切った。

 7人の中では最も大柄で筋肉質な男につかみかかり、右の拳を叩き込む。パスカルに続き、オリヴィアとリンジーがイデア能力でそれぞれ3人を拘束した。そこまではよかった。


 だが、次の瞬間。


「窓だよ! 窓から来る!」


 今、列車はトンネルの中を駆け抜けていた。当然、窓には人の姿が鏡のように映り込むのだが――

 ヒルダの声とともに、オリヴィアとリンジーの意識が暗転した。


 敵は思いもよらぬ場所から攻撃を仕掛けてきた。


 が、エミーリアは咄嗟に判断して炸裂弾を放り投げる。

 炸裂弾は虚空で炸裂し、展開されたあらゆるイデアをけしてゆく。オリヴィアとリンジーのイデアの残渣、ボルドが展開していたイデア、7人が展開していたイデア。それらはすべて光をうけて消滅した。

 一方、今戦えるパスカルたち4人は誰一人としてイデアを展開していなかった。パスカル側に被害はない。


 これをチャンスと見てエミーリアと晃真も椅子から立ち上がって襲撃者に殴りかかり――


 光が晴れる頃には、1人を残して襲撃者は通路に転がされることとなる。


「ひっ……何もしません! 何もしないから許してください! 悪いのは私じゃありませんから!」


 殴り倒されずに残ったのはリンジーとほぼ同年代の、眼鏡をかけたピンク髪の女性だった。彼女も明らかにイデア使いではあるのだが、そこに気迫などは一切ない。

 そんな彼女を前にして、パスカルは戦いをやめようとしたが。


「下がりな、パスカル。私がそいつの真意を確かめてやるからさあ」


 エミーリアが言った。

 彼女の頬には返り血がついており、彼女が倒した2人の男はすでに事切れていた。傍から見れば、最も危険に映るだろう。


「……そうね。貴女なら人を見る目がある。私よりね。その子をどうするかは貴女が決めて」


 と、パスカル。


「だそうだ。私はなあ、あんたみたいな気弱そうなのも相手にできるんだがね。その気になれば殺せる。降りるなら今のうちだよ」


 エミーリアは言った。

 イデアを展開していなくても、エミーリアの言葉には説得力があった。


「あ……私、これでも錬金術師なんですからね! あなたが殺した2人はどうにもできないけど、他なら治療もできますし!」


 ピンク髪の女性は言った。


「ほお……これでもあんたの威勢は変わらないってか?」


 と、エミーリア。

 彼女はすぐにピンク髪の女性を押し倒して。


「あんたの名前は? 私にも錬金術師の友人がいてねぇ……」


 エミーリアは尋ねる。


「マリカ・ブリンク。いずれ最高の錬金術師になる女ですから。よく覚えてくださいね?」



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