4 共闘の誘い
配信者アリリオは面白さと数字を追求する。だが、困ったことに「面白さとは誰も知らなかったこと」とばかりに報道されないこと、報道されては不都合なことを配信するようになっていた。
そんな中である情報を手にしたアリリオ。彼は、最近秩序を脅かす者として警戒されているオリヴィアに、情報を横流ししようとしている。
――亡龍城に来い。亡龍城でわからなかったことがわかるはずだ。
亡龍城はレムリア大陸の南東部、アモンの町の外れ――廃墟群の中心にある。
かつては大陸でも影響力ある9つの企業、九頭竜の一角だったとある企業が所有していた。だが、30年以上前に企業の代表が失脚したと思えば、その企業は九頭竜ですらなくなり、没落。しまいには付近の住民も姿を消し、代表は悲惨な末路をたどり。所有物だった亡龍城は今のような姿になった。
「とまあ、そういう場所なの」
廃墟群を前にして、パスカルは言った。
今、オリヴィアの一行は亡龍城を取り囲む廃墟群の辺縁にいた。廃墟群は主に30年ほど前の住居や商店から構成される。さらにその中心には放棄された摩天楼がある。
「知らなかった。どうしてそんな事を知っているの?」
オリヴィアは尋ねた。
「これでも40年は生きているからね……それに、ここはロムとも因縁ある場所。亡龍城を所有していたのは、霊星っていう30年前の九頭竜の一角。ロムは、うまくいけば霊星を継ぐはずだったの」
パスカルは言った。
「ロムが……大陸の秩序を保つようなところに……? 聞いた話だとそんなこと、とても想像できない……何があったの?」
と、オリヴィア。
「今はまだ話せない。でも、そのうちわかるとだけ……」
パスカルは答えをぼかす。
こうして、一行はメッセージにある通りのルートで廃墟群に突入した。
廃墟群には当然のようにならず者たちが身を潜めていた。オリヴィアたちの姿を見るなり考え得るあらゆることをしようと襲い掛かってくる。が、相手が悪かった。
「ねえ、死んでくれる?」
影を展開し、威圧するオリヴィア。見た目は比較的小柄な女のオリヴィアだが、実際はダンピール。しかも練度の高いイデア使いと来た。
ならず者たちはオリヴィアの圧に押されていた。
「こ……こいつ只者じゃねえ!」
髭の伸びた男はオリヴィアのイデアと圧に怯み、道を譲る。
オリヴィアたちは必要以上に追撃しなかった。殺す必要もないし、ここにいるならず者たちは威圧するだけで襲ってこなくなる。
やがて、一行は廃墟群の中心、亡龍城にたどり着いた。
亡龍城は間近で見ると迫力があった。ここで何が起きたか、正確なことを知る者は、ここにいない。
一行は黙って亡龍城の中に入っていった――
「……あー、あんたらもアリリオのメッセージを頼りに来たクチか?」
入ったそばから耳に入る声。
その声の主はリンジーだった。彼女は地面に腰を下ろし、携帯端末を操作していた。
「リンジー! アリリオからのメッセージってやっぱりロム関連だったりするの?」
オリヴィアは再会の挨拶をする間もなく尋ねた。
「そうともいう。ていうかさ、あたしは別ルートでロムに接触しようとしてたんだけどさ」
リンジーは答えた。
「別ルート?」
「こっちの話。ロムがあたしを連れ戻すか殺すかはどうにも読めないし。そんなときにあの野次馬野郎のメッセージが届いたってわけ。デリカシーもクソもないやつだと思ったけど、面白そうだから乗ってみて。で今に至るって感じ」
と、リンジーは語る。
軽い口ぶりだが、彼女の思うところが言葉に見え隠れしている。
そんなリンジーはオリヴィアだけでなく、彼女の同行者4人も見た。リンジーは4人全員と面識がある。が、一度だけ敵として戦ったことのある晃真だけは警戒していた。
リンジーはすぐに気づき、一言。
「あたしはもう敵対しないから」
その言葉は彼女の本心から出たものだった。
「オリヴィアもこの様子だしな。信じるぞ」
と、晃真。
「信じてくれて嬉しいよ。それで、本題なんだけど……」
リンジーはここで一度言葉を区切り、オリヴィアたち5人をそれぞれ見て。
「ロムを討つ方法を考えた。これまで姿を隠してきたあいつだけど、もう隠すことはできないし、討つなら今だと思う。だから、あたしと組まない?」
と、リンジーは提案した。
しばしの間、辺りを沈黙が包み込む。5人それぞれに考えがあったのだ。
「いいよ。わたし、リンジーなら信じられると思うから」
オリヴィアは答えた。
「いいのかい? 今までの私たちの想定は、5人でロムを相手取るってプランだっただろう?」
と、エミーリア。
「正直、5人で勝てる気がしないの。ロムは強い。わたし1人では、絶対に勝てない」
オリヴィアは言った。
これまで、オリヴィアは「勝てない」と仲間の前で言うことなどほとんどなかった。そんな彼女が「勝てない」と言うわけだ。相当な相手だ。
「勝てないって……オリヴィアは強いんじゃないの?」
と、ヒルダが口を挟む。
「ロム1人だけなら、まだ何とかなるかもしれないよ。でも、ロムのところにはクラウディオも控えてる。あの2人が組んでいる時点で、わたしたちだけでどうにかなるとは思えない。だから、助けて」
オリヴィアは言った。
「もちろん。私の方にも協力者はいるから、合流したら紹介するよ」
と、リンジーは言った。
こうして、オリヴィア一行とリンジーは協力関係となる。
オリヴィアとリンジーの共闘を、ロムはまだ知らない。だが、ロムはこの程度のことなど予想していた。




