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3 仮想敵

 ウェルカムパーティーも終わり、いよいよ出発する。当然ながら移動中の列車は密室空間。敵がいれば出会う確率は格段に上がるのだが肝心の敵を見つけ出せていない。ここに敵がいなければそれまでだが。


 客室の座席で寛ぎながら、オリヴィアは敵についての考え事をしていた。


 オリヴィアがセラフの町で会った敵はタスファイ。話によれば彼もカナリス・ルートだったというくらいだ。だからオリヴィアは彼の襲撃を予想した。タスファイはオリヴィアを殺す寸前まで追い込んだくらい。彼のいた場所からこの列車に乗り込むことくらいは正しいというのに。


「……いくら陰の多い室内でも、あれに勝てるの?」


 オリヴィアは呟いた。

 死ぬ寸前になるくらいボロボロにされただけはある。強さに自信を持っていたオリヴィアだが一度の敗北で己の力を疑うようになったのだ。


「うん、どうしたんだい?」


 ふと、アナベルも言った。穏やかな表情の彼女はオリヴィアを気遣うようにも見えた。が、果たしてアナベルはそうするような人物なのだろうか。


「あの水使い、また襲撃してきたりするのかな」


「それはないだろうねぇ。寄越してくるならもっと室内戦に強い連中に決まっている。私がカナリス・ルートのトップだったらね」


 アナベルは答えた。


「ああそうだ、このクッキーはセラフの町の名物だそうだ。美味しいから食べてみなよ」


 不安そうにする様子もなく、アナベルはクッキーをオリヴィアの口の前に差し出してきた。オリヴィアは困惑し、少しのけぞる。すると。


「……つれないねぇ。そろそろ慣れてくれたと思ったんだけどなあ」


 アナベルは言った。


「そっ、そんなもの慣れない! 私たち遊びに来たんじゃない……」


 オリヴィアがそう言いかけたとき。アナベルはすかさずオリヴィアの口にクッキーをねじ込んだ。


「遊びじゃないのはわかってる。現にエミーリアが車内を偵察してるじゃないか」


 と、アナベル。

 彼女の前でオリヴィアはクッキーを噛み砕いて飲み込み。


「エミーリアが?」


 オリヴィアは聞き返す。


「エミーリアが、だよ。まあ私たちで一番まともらしいからねぇ。上手くやってくれるといいんだけどね」


 アナベルは答えた。


 ここでオリヴィアははっとする。

 偵察中のエミーリアはこれまでにオリヴィアやアナベルに能力のことを一切話していない。アナベルの口から「まとも」だと聞いていてもオリヴィアの中で不信感は募る。


 ――自分のことを語らないで相手に事情を聞くことが多いやつは信用ならない。ロム姉が言ってたっけ。それ、エミーリアじゃない。


 わきあがる不信感を抱え、オリヴィアは客室を見渡した。

 老夫婦たちが談笑している。この穏やかな様子から、本当に何も起きていないらしい。だが――


「オリヴィア」


 アナベルはそう言ってオリヴィアの隣に移動する。何をしたいのかとオリヴィアが考える間に。


「違和感なら私にもあるよ。本当は何事もなくことが進むのを錯覚させられているんじゃないか、ってね。答え合わせは、これからか」


 と、アナベルは耳打ちした。


「え……アナベルも同じことを……?」


 オリヴィアは呟いた。


「まあ、キルスティも晃真も今はエミーリアと別行動してるわけだからね。2人がどう考えてるのかは知らない」


「あくまでもギブアンドテイクの関係だもんね」


 と、オリヴィア。


「そう……手を組んでいるだけの相手には、本当に手の内を明かしてはいけないよ。エミーリアが不審に見えている以上はなおさら」




 オリヴィアたちのいる車両から少し離れ、ここは売店のある車両。エミーリアは偵察のためにここに来ていた。何か変わったことがないか確かめに来たとはいえ――そもそもエミーリアはこの列車の内部のことなど知らないに等しい。どういった人が乗っていたのかはわかっているのだが。


 エミーリアは名物として売られていたクッキーを購入しながら辺りの様子を探る。

 やはりそこにいるのは老人ばかり。贅沢な旅を楽しんでいるのか、どの人も楽しそうな顔をしている。だが、その中に混じった異質な人物。彼女は出発前に駅で紅茶を飲んでいた人物だった。


 ――気になるねえ。浮いているから、とも言うが。雰囲気が只者じゃないよ。何のつもりかわからんが。


 エミーリアはクッキーを片手にデッキへ出ようとした。そのとき、その女――エレナ・デ・ルカと目が合った。


 エレナは何かに気づいたようで、「デッキで待て」とでも言うような合図を出した。


 ――何のつもりやら。よからぬことを企んでいるのなら、こちらも手加減するつもりはない。


 エミーリアは警戒しながらデッキの壁に寄りかかる。


「よぉ、準メンバー。連絡も寄越さねえで接触して悪いね」


 と、エレナは言った。


「何のつもりだい? 返答次第では、血塗れになることは覚悟しときな」


 と、エミーリア。


「やめろ、やめろ。私もお前も同じダンピールだろうが。それに私の目的はお前らと戦うことじゃねえ、オリヴィアへの伝言を持ってきただけだ」


「あんたとオリヴィアに何の関係があるんだい?」


 エミーリアは尋ねる。すると。


「そりゃ、話せば長くなる。が、この状況で、車上で時間をかけることは得策じゃねえ。あんたを消しに来たやつがいる」


 と、エレナは答えた。

 彼女の返答を受け、エミーリアは口角を上げた。


 ……釣れた。



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