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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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3 幻影のような女

「早かったね。本拠からだともう少しかかると思ったよ」


 千春が帰ってきたのは夕方になってからだった。帰ってきた千春の髪は乱れ、目の下には隈ができている。忙しさやストレスのせいで眠れていないことは明らかだ。


「おかえり。とりあえず寝たらどうだ?」


 と、ジダン。


「寝るだと? まだやることはある。行方不明者の捜索に野次馬の制止。寝ていてはなにも進まないんだよ……」


 千春は答えた。


「そうだ……生存者はいるが、全員住む場所をなくした。彼ら、マルクト区の外ではまともに生きていけないわけだから、どうにかしなくては……」


 取り憑かれたかのように続ける千春。直接は言わないが、彼も相当精神的に参っているようだ。そんな千春を見かねたランスが口を開き。


「これ以上はいい。俺たちがどうにか片付ける。ひとまず寝てくれ。お前はよくやったから」


「……支部長がそう言うのなら。とにかく、生存者を頼む」


 千春はそう言うと、緊張の糸が切れたのか意識を失った。ランスとジダンのいない間、1人で頑張っていたのだから無理もない。


 ランスとジダンは千春の持っていたメモを手に取り、現状を確認する。

 マルクト支部所属の者の中で生き残りはここにいる3人だけ。人質として置いていたドクター・ロウは死亡。ヴェロニカは水死体で発見。保護していた者たちや非戦闘員も全滅。マルクト区の住民に生存者こそいるが、難民のようなもの。かといって大陸政府が手を差し伸べるわけでもない。加えて、爆撃の様子やその後のマルクト区にやって来る一部の配信者。


「わけがわからない状況だ……」


 ランスは呟いた。


「とはいえ、何もオリヴィアたちが関わることはないぞ。オリヴィアは、ロムとかいう人の足取りを掴んでくれればいい。あの飛行艇は、彼女のかもしれないんだろう?」


 さらにランスは続けた。


「確証はないけど、多分そう。でも、先にロムをどうにかできたら、わたしもマルクト区のことは手伝うから」


 と、オリヴィア。


「余裕があったらでいいからな。それよりオリヴィアにはこっちをどうにかしてほしいんだが……」


 と言って、ランスは端末の方に目をやった。

 オリヴィアは見ていなかったが、千春が帰ってくる直前にある配信者からメッセージが届いていた。


 オリヴィアは端末に届いたメッセージを読んだ。

 わかったことは3つ。メッセージの送り主があの配信者アリリオであること。爆撃に使われた飛行艇はある武器商人のものだということ。爆撃の首謀者が向かったのは、南レムリアの小さな村、アガロクであること。


「もし首謀者がロムなら、ロムが向かったのはアガロクの村ってことね」


 オリヴィアは呟いた。

 だが、それと同時に違和感を覚えていた。あの小さな村になぜロムが。潜伏するにはもってこいだろうが、意図が読めない。そのうえ、飛行艇を隠せるような場所でもない。

 だからオリヴィアはパスカルに尋ねる。


「アガロクの村って何かあったっけ?」


 オリヴィアが尋ねると、パスカルは眉根を寄せて一言。


「私たちが考えるべきは、アガロクの村のことよりロムのことよ」


 パスカルはロムが首謀者だと決めつけたような物言いだ。


「貴女は、ロムのことをどこまで知っているの?」


 さらにパスカルは尋ねた。


「え……」


 オリヴィアはただ、声を漏らす。

 思っていた以上にオリヴィアはロムのことを知らなかった。以前、オリヴィアの見ていた恩人としてのロムの姿は早々に崩れ去った。ロムはオリヴィアが見ていた以上に自己中心的で、冷酷で。だが、ロムはカナリス・ルートに迎合しているとも思えなかった。

 そして、オリヴィアがここで導き出した答えは。


「ロムは……世界を憎んでいる?」


 オリヴィアは言った。


「貴女にはそう見えているのね。私も、そう思っていたときがあった。実際にそうなのだろうけど、ロムは貴女が思う以上に危険な人。とにかく底が見えない。カナリス・ルートの一員だとはわかっているけど、本当に何をしでかすか分からない……」


 パスカルも言った。


「本拠地の手がかりもないの。けれど、独自の武器販売ルートは持っていて。今していることだって、誰1人としてつかめていない」


 付け加えるパスカル。


「ロム姉がそんなことを。パスカルがつかめないのなら、わたしの記憶もあてにならないのかも。一体どんなことをすれば――」


 オリヴィアがそう言ったとき、再び端末にメッセージの着信があった。今のメッセージもまた、アリリオが送ったもの。

 オリヴィアは端末に届いたメッセージに目を通す。

 今度のメッセージには、ロムに関する手がかりが載っていた。まず向かうべき場所は、亡龍城――かつてレムリア大陸の経済の中心を担う企業の1つが所有していた建物。30年以上前に所有者が失脚し、今では放棄されている。


「パスカル。亡龍城って知ってる?」


 オリヴィアは尋ねた。


「……ええ。危険な場所だけど。絶対にオリヴィア1人では行かせないから」


 と、パスカル。


「だな。5人で行ってきてくれ」


 ランスは言った。


 配信者アリリオからのメッセージにより、オリヴィアたちは亡龍城行きが決まる。危険だとされる亡龍城だが、行かなければロムと爆撃事件に関しては何も進展がないだろう。



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