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25 収束する事態

 ヨーランの全身に殺人バクテリアが回ったようだが、ヨーランは壊死したそばから身体を再生させている。棺の中にいるからか、再生速度は速い。


 ここはヨーランの棺の中。棺とはいうが、暗くてワンルームの部屋と同程度の広さはある。キルスティはそのメカニズムをそれとなく察した。棺の中には亜空間が広がっている。


「お前の勝ちと言ったがそれは?」


 キルスティはヨーランに尋ねた。

 聞かれてしまえば危ないことでも、この空間にいるのはキルスティとヨーランの2人だけ。盗聴される心配もない。


「君をオリヴィア一味から引きはがせたことが1つ。これでオリヴィア一味に何かあっても必ず生還させる真似ができなくなった。君もぼくもいずれここで死ぬからな」


「ほう……」


 ヨーランは語る。


「もう1つは……そもそもぼくはカナリス・ルートに本当に入会していたわけじゃない。内部から、トイフェルの首を狙っていたんだ。エレナのために……」


 と、ヨーランは思いもよらぬことを言った。


「詳しく」


「カナリス・ルートのせいで、エレナは住む場所も家族も、当時の友達も失った。ぼくとエレナはそのときからの友人……それ以上の存在でね」


 静かな声で語るヨーラン。キルスティは、ヨーランの話を黙って聞いていた。


「北西の町アルコナの空爆は知っているかい? エレナの家族はそれに巻き込まれたんだ。アルコナで吸血鬼とダンピールがビジネスを始めたせいで。レムリア大陸政府とカナリス・ルート、セフィリア教が結託して空爆を決行したんだよ。ぼくが祖母の家に行っている間に」


「エレナやお前にそんな過去があるとは驚きだぜ。で、エレナは知っていたのか?」


「全部は話していない。少し話せばエレナは『復讐はその気がねえと何も生まない。私のために復讐なんてするな』と言って、ぼくを止めようとしたからな。だから1人でやるしかないと思ってな。1人でできることをしたまでだ。内部から情報を流す、トイフェルを殺しうる人を探す。色々やったよ。その甲斐があったからかな。ようやくオリヴィアがイデア界に到達してくれた。あれでオリヴィアはトイフェルを殺せるだろう……」


 と、ヨーラン。


「ったく、ずるいやつだ。エレナが知ったら泣くぜ」


 キルスティは呆れたような口調で言った。


「本当にな……だが、俺達は少なくとも今は外に出られない。外に出られるときにどうなっているかどうかは見ものじゃないか」


 棺は川の激流に流される。いつ引き上げられるかは、神のみぞ知る。




 時は少し遡る。

 ここはホールの2階。トイフェルがホールを出る直前、2階席にやって来るヴァレリアン。

 2階席は死屍累々。役員たちの遺体があちらこちらに転がっており、最前列付近には薄ら笑いを浮かべた初音がいる。


「監査官……水鏡初音。なぜ君がここに」


 ヴァレリアンは言った。


「汚職をはたらいた役員がいましたからね。殺したまでです。私は立場上、権力にとらわれてはならないのです」


 と、初音は答えた。


「関係ない。君も取引を潰した連中の共犯者として殺されるべきだ」


 ヴァレリアンはそう言ってイデアを展開。初音も鉈を構えるが、イデアは展開しない。彼女はイデアを展開せずとも戦える。


「それは貴男の意見ですよね?」


 と言って、ヴァレリアンに斬り込む初音。

 ごっ、という音とともに鉈がヴァレリアン左肩をとらえた。ヴァレリアンは痛みに顔を歪ませるが。


「その力はイデア由来だろう。イデアの展開を禁止する」


 と、ヴァレリアン。

 初音はヴァレリアンの能力を知っていた。知っていたうえで相手ができると踏んでいた。なぜなら、初音はダンピール。素の状態で人間を上回る身体能力を持ち、生まれながらにして光の魔法――大地を流れる魔力を纏うことができるから。


 初音はにやりと笑ってさらに鉈を振るう。ヴァレリアンは避けるが、風圧を真正面から受けた。とんでもない威力だ。

 ヴァレリアンは焦り、次々と繰り出される初音の鉈を躱す。正義にとらわれた監査官はヴァレリアンが思っていたよりも強い。


「ふふふふふ……イデアを封じたからといって油断しないことです!」


 初音はそう言ってさらに斬り込んだ。ヴァレリアンはどうにか右手でタクティカルペンを持ち、初音の鉈の軌道を逸らす。逸らしたら、イデアを再展開し。


「動くことを禁止する」


 ヴァレリアンは静かな声で言った。

 彼の首を落とそうと鉈を振りかぶっていた初音は動きが止まる。眼球だけが動いているが、それ以外は動かせない。


「何をしました……?」


 初音は言う。


「何、ただちに命にはかかわらない。とはいえ、下も大変なことになっていますね」


 ヴァレリアンはそう言って下を見る。下の階層ではトイフェルとアナベルが戦っている。が、すぐにトイフェルはホールを去る。

 そんな様子をよそに、ヴァレリアンは初音に銃口を向けた。


「何人も殺してきたんだ。君も粛清される覚悟はあるだろう?」


「ふふふ。そうですねえ。惜しむべきは貴男を殺せないこと。貴男が死ねば無事に粛清できたことになりますねえ」


 と、初音。

 瞬間、ヴァレリアンの足元から謎のエネルギーが放たれてヴァレリアンはしりもちをついた。さらにヴァレリアンの銃は見えない糸に絡め取られた。



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