表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
252/343

24 不死者の道連れ

 ヒルダの銃弾は通らない。だが、ヒルダが隙を作り、キルスティが戦いに乱入した。


「!?」


 ヨーランは明らかに焦った表情を見せてキルスティの攻撃を躱す。と、そこにはパスカル。彼女は思いっきり斧を振るった。ヨーランはどうにか躱すも、さらに晃真とキルスティ。


「やはり囲まれると分が悪い……死を想え……」


 ヨーランは呟いて、再び棺から影を放出する。それでもキルスティはヨーランに突っ込もうとしたが――

 キルスティも恐怖にとらわれた。不屈の精神の持ち主の彼女でさえ、”死”への本質的な恐怖には打ち勝てない。キルスティは足を止め、ぶつぶつと呟いた。


「クソ……なんなんだ……お前は何をした……」


 キルスティだけではない。パスカルと晃真も恐怖にとらわれた。パスカルも晃真もこの恐怖がヨーランの能力によるものだとはわかっていた。が、対応できない。どうすればこの恐怖を振り払えるのかもわからない。

 地上にいる3人が相対しているのは、まるで死そのものだ。


「死は生物が本能的に恐れるものだよ。それは人間でも変わらないし、君のような医者ならなおさら恐れているだろう?」


 と、ヨーラン。

 図星だった。キルスティが嫌いなものは、人の死。闇医者、医者の皮を被った殺し屋、血塗れの医者などといった悪名がありながらも、キルスティは本来ならば人を生かす者。自分の死を恐れずとも、自分が助けると決めた者の死であれば恐怖は抱く。


 キルスティは歯を食いしばった。抱いた感情が恐怖であることは事実。否認したところで何も変わらないだろう。

 キルスティはパスカルと晃真の方を見た。2人は恐怖で立ちすくんでいる。その表情は恐怖に取り憑かれたようで、絶望しているようにも見える。恐らく、ヨーランと戦っている3人の中で一番精神を保てているのがキルスティだ。


「……私の死じゃないぜ、恐れてるのは。私が恐れるのは、仲間の死だ。死なせねえためなら別に私が死んだってかまわねえ」


 キルスティは答えた。

 それはヨーランがこの場を去ろうとしたとき。ヨーランは立ち止まり、キルスティの方を見る。


 震える手にキルスティは炸裂弾を持つ。

 死への恐怖も所詮はヨーランの手によるもの。キルスティは自分が死のうともどうでもいいと感じていた。生かすべき人が生きてさえいれば。


「初めてだよ、”死”への恐怖に打ち勝つ人間なんて」


 と、ヨーラン。


 そのときだ。キルスティは持っていた炸裂弾を放り投げる。

 炸裂弾は空中で炸裂し、付近を包み込む。光は展開されていたイデアを消し去った。ヨーランが棺から放出した死への恐怖をあおる影までも。

 これでキルスティは死への恐怖から解放された。だが、イデア使いの気配が消えるのも同じ。キルスティはわずかな衣擦れの音と心音を頼りにヨーランとの距離を詰めた。


「光栄だぜ。何も世の中には死を恐れる人間ばかりじゃないもんでね」


 その言葉とともに、一撃。

 金属音が響く。

 閃光の中でもヨーランはキルスティの速度に対応してみせた。さらにヨーランはキルスティを弾き飛ばした。

 だが――


「キルスティだけが相手じゃないって忘れてる?」


 今度は斧での攻撃。威力こそ落ちてはいるが、ヨーランは妙な気配を感じ取る。だから避けた。

 閃光が晴れない中、さらにキルスティは護身用のタクティカルペンで殴りかかる。

 躱すヨーラン。

 そこにパスカルの大振りな一撃。

 ヨーランはじりじりと後退し、少しずつ敷地の端へ。崖へと近づいていた。


 閃光が晴れた。

 ここで晃真がすかさず灼熱の剣を持ち、突撃。ヨーランは難なく受け止めるも、晃真の膂力に押されていた。さらに右からはパスカル。ヨーランは後退するしかなかった。


「はあっ!」


 パスカルが斧を振るい、ヨーランは跳びあがって躱す。

 ヨーランは懲りずに棺から影を出した。が、今回ばかりは様子が違う。今放出された影はパスカルたちの恐怖を駆り立てない。かわりに、影は3人の方ではなくヨーランの方へ。

 ヨーランは影を纏うつもりだ。


「死に踊れ」


 と、ヨーランは空中で呟いた。

 瞬間、影はヨーランの中に入り込み、彼の手足は黒く染まる。それだけではない。ただでさえなかったヨーランの血色がいよいよ失せる。それはまるで死人のよう。キルスティが聞き取れていた心音も消える。


「まさに死人じゃねえか!」


 キルスティは吐き捨てるように言う。

 対するヨーランは何も言わない。ただ剣を構え、着地してすぐさまパスカルに斬りかかる。が、はじかれた。そこにキルスティが現れ。


「死人のようなやつにコレを使ったことはない。が、もし少しでも()()()()()()()()()、おそらくコイツが効くはずだ」


 キルスティはそう言った。

 ヨーランは表情ひとつ変えなかった。

 キルスティは手加減もせずに左手に持った鋏をヨーランの首に突き刺した。突き刺して、ヨーランを押し倒す――崖の端で。


「キルスティ!? 一体何を――」

「生きて戻ったら教えてやる。私が何をしたかったかを、な」


 と、キルスティ。

 彼女とヨーランは崖から落ちてゆく。その下は川だ。


 そして、ヨーラン。

 首にできた傷から、キルスティの目論見通り殺人バクテリアが体内に侵入している。傷口は腐敗しているように見えたが、進みはやけに遅い。


「なるほど、確実に戦線離脱させるつもりだったか。だが、この勝負はぼくの勝ちだ」


 ヨーランはほくそ笑み――ヨーランとキルスティは棺の中に閉じ込められた。

 ほどなくして棺は川に落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ