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21 絶望的な力

 鮮血の夜明団の本拠、ホールの外。

 オリヴィアはトイフェルと相対し、彼女の傍らにはランスがいた。


 トイフェルはこの状況で自身の勢力の不利を悟って撤退指示を出した。それでもトイフェル本人はといえばオリヴィアとランスに背を向けることはしない。

 今、オリヴィアはトイフェルを殺す絶好のチャンスにあった。


「謀ったとお前は言ったな。そんなお前は俺のことをどこまで信用していた?」


 と、ランスは尋ねた。


「信用か……そもそも私は、カナリス・ルート以外を信用したことなどないぞ。むしろ、お前こそ気を付けろ。マルクト区には私の部下を向かわせている。この撤退命令はじきに彼らに伝わる。そうなれば……いや、生き残ることができればその目で見ればいい」


 トイフェルは答えた。


 やはり裏にはさらに裏がある。

 ランスの脳裏には残してきたマルクト区のメンバー――ジダンや千春、ヴェロニカや戦闘員ではない職員の顔がちらついた。


 トイフェルの部下となれば、カナリス・ルートの構成員だろう。そのカナリス・ルートの構成員の強さはランスもすでに体験済み。人質として囚われて拷問され、脱走しようとしても圧倒的な力で捕縛されたのだ。あの麗華と同程度の実力を持った者が襲撃すれば、マルクト支部はどうなるか――


「ひどい事するのね。納得した。あなたが命令したからキルスティもエミーリアもヒルダも、カナリス・ルートのせいでひどい目に遭ったんだから」


 感情を込めずに言ったオリヴィア。同時に彼女は影のイデアを辺り一帯に展開していた。


「どうしてくれるの、トイフェル。ねえ……ねえ! カナリス・ルートはたかが7人! わたしが知っている人はその10倍死んでいるんだからね! あなたたちのせいで!」


 と言ったオリヴィアは、陰から影の槍を放ってトイフェルに猛攻を仕掛ける。通常ならば避けられない密度で。さらにトイフェルの足元も影の影響下に置き、煉瓦から砂漠や砂丘のような砂に変えた。

 だが、オリヴィアの影はトイフェルには届かない。オリヴィアも違和感を覚えていた。


「どうして……」


 と、オリヴィアはぼやく。


「手を出すなよ、オリヴィア! 少し手荒だが!」


 今度はランスが前に出た。直後、ランスは炸裂弾を放り投げ、炸裂弾は空中で光を放って3人の展開していたイデアをかき消した。

 ここでランスが取った行動は不可解だった。いつも持っていた鉄パイプを地面に叩きつけたかと思えば、なぞのエネルギーが地面から噴き出し。


「……!?」


 エネルギーの塊はトイフェルの鳩尾に命中。トイフェルはのけぞりながらも銃をランスに向ける。からの発砲。

 ランスは銃弾を謎のエネルギーで見事に防いで見せた。


 オリヴィアには何が起きているか分からなかった。だが、ランスの操るエネルギーがイデア能力に類するようなものでないことはわかった。


「これは……!?」


 まだイデアは展開できない。そんな状況で、ランスは鉄パイプを片手に猛攻を仕掛ける。謎のエネルギーを身に纏い、鉄パイプを振るう。


 確かな手ごたえ。トイフェルの身体に外傷は見られないが歪む表情から攻撃が通っていることは確かだった。


「……これで決めるか」


 と、呟いたランス。

 フルスイング。彼の素の膂力、地面から噴き出してその身に纏った謎のエネルギー。


「が……」


 胸に一撃を受けたトイフェルはよろめいた。だが――炸裂弾の効力は今切れる。

 トイフェルはイデアを再展開し、サバイバルナイフを抜いて一閃。右手に持っていた拳銃を発砲。


 今の攻撃はオリヴィアとランスをとらえた。当たるはずもないと2人は思っていたのだが――


「当たるはずもないと思っていただろう……」


 と、トイフェルは言った。

 攻撃が当たったのは2人にとって予想外。オリヴィアは焦ってイデアを展開するが――オリヴィアの目の前で空間が歪んだと思えばオリヴィアは意識を失った。


「オリヴィア!?」


 と言ってランスはオリヴィアに駆け寄る。

 そんな彼に向かって、またトイフェルは発砲。ランスは銃弾の様子も見ずに銃弾の軌道を曲げた。


「まだ私が残っているだろう。オリヴィアに気を取られないことだ」


 と、トイフェル。

 するとランスは形相を変えて一言。


「撤退しなかったことを後悔しろ。お前は手を出してはいけない相手に手を出したんだ」


 それだけを言って、ランスは周囲にイデアが展開。さらに、地面からあのエネルギーを引き出して振るう。対するトイフェルは全く避けず、イデアを再展開。

 このとき、ランスは距離が概念的に引き延ばされる感覚を覚えた。引き延ばされていたから攻撃はトイフェルに届かなかった。


 攻撃が届かない理由に気づいたランスは再び炸裂弾を手に取り、投げる。

 炸裂弾が光を放ち、イデアを消し去った。

 それでもトイフェルはサバイバルナイフを片手に突撃し、ランスを袈裟斬りにした。


「……!?」


 何かを言う暇もなく地面に崩れ落ちるランス。

 腕に覚えのあるランスがこのざま。トイフェルはそれだけのイデア使いだった。


 トイフェルは踵を返し、鮮血の夜明団の本拠を出た。



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