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13 危険な3人

 影の奔流はオリヴィアの足元へと収束し、オリヴィアは目を開けた。


「反撃か」


 と、アイヴァン。

 彼が攻撃に移ろうとすれば、彼の陰からオリヴィアのイデアが現れ。影がアイヴァンの足へとからみついた。


「クソっ……なんだこれは! 喰えねえっ!?」


 アイヴァンが動揺する傍ら、オリヴィアは追い打ちをかける。影の刃を伸ばして首を狙う。アイヴァンには命の危機が迫るわけだが、アイヴァンにも切り札があった。


 影がアイヴァンに迫ったそのとき、牙の生えた球体が爆発したのだ。

 爆発の威力は高い。爆風の範囲にあったものを巻き込み、辺りに小さなクレーターを作る。それだけではない。範囲にあったアイヴァン以外の者のイデアも消滅する。

 もちろん爆発はオリヴィアをも巻き込んで、彼女は吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされたオリヴィアは石像に背中から激突した。


「へへっ……食わなきゃ爆発しねえ制約つきだが相変わらず良い威力してるぜ。そうだよなあ?」


 と、アイヴァン。

 このときの彼は影から脱出し、爆発のダメージもなく立っていた。先ほどまで必死だったのが嘘のようだ。


 オリヴィアも表情ひとつ変えなかったが、予想外の攻撃に警戒していた。

 互いの実力は近い。少しでも判断を誤った方が負ける。だからオリヴィアは立ち上がる前に口を開いた。


「イデア界に到達してその程度? 支部長が? 思ったより大したことないんだね」


 オリヴィアの口からでたのはアイヴァンを煽る言葉。

 彼女の言葉は確実にアイヴァンの神経を逆撫でする。煽られた方のアイヴァンはあからさまに表情を変えて。


「大した事ない、だあ? 望み通りぶち殺してやろうか」


 と言って、アイヴァンはオリヴィアに向かって球体を放つ。

 オリヴィアは口角を上げ、立ち上がりながら影を操作。爆発に耐えられるだけの影の盾を展開し、同時にアイヴァンの背後から影の杭を放つ。


 この一撃が勝負を決めた。

 直前まで背後に放たれた影の杭に気づけず、アイヴァンは胸を貫かれた。イデアを展開しなおすことなどできない。

 心臓を貫かれ、アイヴァンは倒れた後に絶命する。


 ここでオリヴィアは違和感を抱いていた。

 攻撃にイデアを回していたアイヴァンだったとはいえ、とどめの一撃を浴びる前の動きが鈍っていた。アイヴァンに何が起きていたのか――


 オリヴィアはひとまず考えることをやめて先へ進むことにした。




 オリヴィアの違和感は正しく、陰から彼女に協力していた者はいた。

 鮮血の夜明団本部の倉庫。ここで小細工をしていたのは2人の女。アナベルと初音だった。そのうち、オリヴィアとアイヴァンの戦いでの主犯はアナベル。彼女は小指に結んだ糸を見て口を開き。


「んふふ……上手くいった♡」


 アナベルはそう言ってほくそ笑む。直接は見ていないが、糸を伝ってくる感覚で戦いの結末はある程度わかっていた。


「それはそうと、まさか君が協力してくれるとは思わなかった。私みたいな悪の化身なら即殺すかと思っていたのだけど」


「御冗談を。確かに貴女の性格がこんなのじゃなかったら殺していましたけどねえ。私と貴女、似た匂いがするんですよ。それからオリヴィアちゃんも」


 初音は答えた。

 今の彼女の瞳にはある種の狂気が宿っていた。とはいえ、初音の狂気は逸脱しなければ通常運転と言っても差し支えないほど。

 水鏡初音は狂人、鮮血の夜明団で最も危険な女だ。


「それは同感♡」


 アナベルは笑みを浮かべたまま答えた。

 初音と同じく、アナベルも狂人の範疇に入るだろう。だが、彼女の狂人たる理由は正義感などではなく快楽への飽くなき欲求。


「さて、巡回の連中が来たみたいだよ。ここらは私の糸まみれだけど、斬殺と同士討ちのどっちがいい?」


 アナベルは尋ねる。


「悪趣味なことを聞きますねえ。斬殺はどうせ首が取れるだけなので同士討ちを見たいところですねえ。余った連中は私が殺しますから」


 と、初音は答えた。

 彼女の豊かな緑髪がふわりと揺れた。


「OK。よく見ていて。この糸を引けば、仕込んだ連中はほら、あの通り」


 アナベルは糸をくいと引く。

 すると、倉庫の外から銃声と人の悲鳴が響く。さらに、イデアを展開した気配までも。

 しばらく物音と気配がしたかと思えば、それらはすべて消える。全滅したようだ。


「へえ、こんなことができるんですねえ。私の出る幕もありませんでした。とはいえ、鮮血の夜明団の構成員によくこんなものを仕込めましたねえ。何しました?」


 と、初音。

 彼女に尋ねられてアナベルは一瞬返答に躊躇したが。


「イデア界に到達していれば変身なんて簡単にできる。糸で体格も生体も顔も全部弄れる。構成員を1人始末してそいつに成りすませば潜入なんて簡単にできるよ。ちょうどさっき死んだあいつの部下だったかな」


 アナベルはそう答えて、糸を引いて姿を変えた。

 身長は同程度だが、骨格も顔もすべて変わる。特徴的だった青色の髪もオリーブ色に変わる。


「これで信じてくれるかな?」


 アナベルの口調はそのままに、コピー元となった男の声でアナベルは言った。


「信じますよお。やれやれ、そこまでできるんですねえ」


 と、初音。

 そういう初音の傍ら、アナベルは自身にかけた能力を解除して元の姿に戻った。


「じゃ、行こうか。私たちにもまだ大仕事が残っている」


 と言って、アナベルは別の糸を手繰って目的の場所へ。2人は空中に浮いた。



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