11 殴り込み
オリヴィアと晃真はいない。
2人のことはパスカルが作戦の中核と考えていた。が、2人の不在でパスカルは作戦を一部変えることとなった。
「このトロッコで本部の地下に行くことは同じ。私とノキアは最初の作戦通り。でも細かいところは昨日話した通りだから」
パスカルは言った。
「わかった。ひとまず私はオリヴィアたちとの合流を目指せばいいんだな?」
と、キルスティ。
変わった部分はそこだ。
「それじゃ、行くよ」
パスカルが言うと、一行はトロッコに乗り込む。全員が乗り込んだことを確認すると、パスカルはレバーを引いた。
トロッコが音を立てて動き出す。
かつて吸血鬼の国アインヴァイターライヒが鮮血の夜明団を攻め落とすために作ったトロッコが、別の組織の者たちによって使われている。しかも何の因果か、使っている者たちは吸血鬼の血を引いた者だ。
地下道を突き進むトロッコに乗ってヒルダはイデア使いの気配を探ろうとした。が、ここでノキアが口を開く。
「ここにいるあたしらの気配は追えねーが、あたしらがやつらの気配を追うこともできねーよ」
「そうなの!? 攻め込むなら気配くらいわかった方がいいと思ったけど!」
と、ヒルダ。
「そう上手くはいかねーよ。旧帝国の連中が隠密に拘った結果だ」
ノキアは言った。
やがて一行は本部の地下にたどり着く。
ここからは別行動。パスカルとノキアは塔へ。キルスティたちは本部の建物やホールへ。
分かれる前にパスカルは言った。
「安全第一。撹乱するだけでも取引に影響はでると思うの。あとはオリヴィアたちと合流できればよしって感じかな」
「だな。ふたりにはマルクトのジダンがついてるらしい。まあ死ぬことはないねえ?」
と、キルスティ。
一行は二手に別れ、それぞれの方向から本部に突入した。
ジダンが能力を発動すると、オリヴィアと晃真とジダンはホテルの一室から姿を消した。
そして鮮血の夜明団本部。倉庫裏に3人は姿を現す。
「……っと。小声で話せよ」
と、ジダン。
彼の言いたいことのその先を理解したオリヴィアは、さっそくイデアを展開せずに辺りの様子を探る。
ホール付近にも大きなイデア使いの気配の塊がある。が、それ以外に敷地内を巡回する使い手の気配もあった。
「やっぱり巡回している人はいるのね」
と、オリヴィア。
「索敵してくれたか。どうだ、こっちに向かっている人は?」
「いない。でも、さっきからイデア能力を発動しているような気配があって……」
晃真が尋ねるとオリヴィアは答えた。
「俺たちに気付いているかもな。どうする、ジダン」
と、晃真。
「今動けばはめられるかもしれんな。とはいえ、そろそろ取引が始まる時間……動かなくてはやつらね好きなようにやられてしまう」
ジダンは言う。
「だったらわたしが様子を見るよ。わたしの不意打ちを避けられるか、受けても生きていられるかを見ればだいたいの強さがわかるから」
ここでオリヴィアが言った。
確かに彼女なら様子見も先制攻撃もできる。
「じゃあ、頼んだぞ」
「うん」
ジダンに言われるとオリヴィアはイデアを展開。イデア界に到達こそしているが、今は降ろした状態ではない。
影がオリヴィアの足元から広がり、ホールの中を除いた本部の隅々にまでいきわたる。昼間でもこの芸当ができるまでにオリヴィアは成長していた。その様子にジダンは目を丸くする。そんな中で、オリヴィアの目つきが変わり――晃真とジダンの見えないところで影の刃が人を襲う。
「支部長たちは避けた。エース級の人や本部の人は何人かやれたけど、当ててもまだ生きている人もいる。それに、多分気づかれた」
オリヴィアは言った。
「だろうな。今から俺は別行動をとる。ランスに接触しなくてはならないからな」
とジダン。
「わかった。わたしと晃真は、ホールに行くから」
オリヴィアは淡々とした口調で言う。
その後、ジダンはあらかじめ設置していた倉庫裏のポータルから移動する。
「行こう」
ホール前のロビーの床を侵食する黒い影。
ホールを守護していた支部長のひとりがその影が迫ってくることに気づいた。
「気を付けろ! あの影使いだ!」
支部長のひとりがそう言った瞬間。
床を侵食した影から影の刃が飛び出る。ここにいる40人余りの人間全員に向かって。
受付の者や本部所属の者は対応できるほどの実力がなかったからか、影の刃に貫かれて絶命した。各支部から招集、派遣された支部長ではない構成員は五分五分といったところか。絶命した者、生きているが腕や足を切り落とされた者、無傷や軽傷の者にはっきりと分かれた。そして支部長はというと、ここに招集されていないルナティカと監禁されている杏奈以外は無傷。
「やはり襲撃か! どうするんだ、ランス!」
と言ったのはナジュド。
「落ち着け。影はホールにまでは入っていない。とにかく炸裂弾を――」
ランスがそう言ったとき、すでに影は消えていた。何が起きているのか、ランスはある程度わかっていたが――彼の知識の中ではどうにもつじつまが合わない。
元々オリヴィアは昼間に能力を使うことが苦手なのに。
「……どうする。ホールの中にこの事態は伝わっているのか?」
ランスは呟いた。




