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10 取引の日の朝

 8月27日。

 早朝にトイフェルは鮮血の夜明団本部に到着した。

 スーツを着たトイフェルを出迎えるのは、彼と同じくカナリス・ルートのヨーラン。加えて、ヴァレリアンとアイヴァン。


「待っていたよ、ボス。取引までにできる限り不安要素を排除した」


 と、ヨーラン。


「ああ。お早う、お前たち。ヨーランもヴァレリアンもアイヴァンも、ひとまずよくやってくれた。今回の取引が終われば、ヴァレリアンとアイヴァン。お前たちをカナリス・ルートの正会員とするつもりだ」


 トイフェルは落ち着いた口調で言った。

 トイフェル・カナリスは見た目の割に物腰が柔らかく、口調も落ち着いている。そんな性格の彼だからヨーランだけでなく他の構成員や、準会員も彼のことを慕っている。


「光栄です、トイフェル会長。まだ取引までは時間があるようですが」


 今度はアイヴァンが言った。


「そうだな、ひとまず紅茶でも飲みに行こう。ここのカフェは早朝でも開いているんだろう?」


 と、トイフェル。


「そうですね。書類仕事で忙しい幹部クラスの人や吸血鬼狩り帰りの人が立ち寄りますからね。この時期はぶどうのタルトがおすすめですよ」


 ヴァレリアンは言った。


 トイフェルたちは敷地内にあるカフェへと向かう。その道中でヨーランが口を開く。


「ダフネは何かしたかい?」


「まだ何もしていない。春月の地にはいるが、神守杏奈が何かしたときに動いてもらうだけだ。その杏奈も……」


「ああ、檻の中だよ。下手なことをすれば彼女の息子を殺すつもりだ」


 と、ヴァレリアン。


「手厳しいな。私には思いもよらない方法だぞ」


 トイフェルは言った。

 一行はちょうどそのタイミングでカフェに入る。アイヴァンがドアを開け、トイフェルたちを中に通す。


 カフェの内装は木を中心とした落ち着いた雰囲気。時間も時間なので人は少ないが、ところどころに目の下に隈をつくった男女が陣取っている。


 トイフェルたちは注文を済ませると窓の近く――ちょうど堅牢な塔がみえる窓際の席を選んだ。

 あの塔に捕らえた敵、神守杏奈がいる。


「時間になるまでここにいようか。私が到着したのが早すぎるだけで、まだ時間なら十分にある」


 トイフェルは言った。




 午前10時を過ぎた頃。

 トイフェルたちと鮮血の夜明団の重鎮たちは地下のホールへと入っていく。取引は10時半から。その取引を待つ間にホールの周りはざわついている。

 取引のとき、ホールの中には会長のシオンと役員たち、トイフェルとヨーランが立ち入りを許されている。それ以外の者はホールの外で待機するように命じられている。


「頼みましたよ、トイフェル会長」


 ホールのエントランスでヴァレリアンは言った。

 そこにいつものような慇懃無礼な態度はなく、ただトイフェルを慕っているように見えた。


「ああ。取引が終わったら会おう」


 と、トイフェル。

 それだけを言い残してトイフェルとヨーランはホールへと入っていった。


 今、エントランスに残されているのは鮮血の夜明団の支部長クラスの者と、実力を認められて招集された者たち。彼らの役目は取引中の会長やトイフェル、ヨーラン、役員たちを守護することだ。ヴァレリアンとアイヴァンもその役目を担っている。


「そういえば、ディレインにいつもとは違う人の出入りはあったか?」


 アイヴァンは尋ねた。


「特に目立ったことは。とはいえ、これはあくまでも噂だがね。100年以上前に滅びた帝国の軍事施設がディレインの地下にあるらしい。そこを通ってこられるとまずい。パロから来た者を巡回させようか」


 そう提案するヴァレリアン。


「なら、俺の部下も巡回に回す。ここを押さえれば取引は続けられるとはいえ、他をやられれば今後の鮮血の夜明団の存続にかかわるぞ」


 アイヴァンも言った。


 数分後、ヴァレリアンとアイヴァンは選抜されていた部下を呼び出し、本部の巡回に出るように指示をした。が、中には巡回は不要と考える者もいた。


「僕たちはここを守ることが仕事ではないんですか」


 20歳くらいの青年が言う。


「人数は足りているし、なにより支部長クラスだ。タリスマンの支部長も代理として重力使いを警備に回してくれている。戦力なら申し分ないはずだよ」


 ヴァレリアンは優しく諭すように言った。


「支部長がそう言うのなら仕方がありませんね。わかりました」


 その青年は答えた。


「わかってくれればそれでいいんだ。外で何かあったら教えてくれるかい?」


「わかりました!」


「うん、それでよろしい。もし連絡してくれれば、こちらの状況も教える。こちらを空けても問題なければ、僕もそちらに向かおう」


 と、ヴァレリアン。

 彼の隣でアイヴァンも頷いている。


「それでは行ってきます」


 と言って、ヴァレリアンとアイヴァンの部下たちはエントランスを出て巡回を始めた。


 それからしばらくして、ことが起こる。



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