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7 8月25日

 8月25日。

 ディレインのセーフハウスに来客があった。薄紫のウェーブがかった髪に黒のパーカーとミニスカート。オリヴィアは一目見ただけでイリスだとわかった。


「どうしてここに? どう見てもそっちは入り口じゃないよね」


 オリヴィアは言った。

 ここはノーファクションのセーフハウス。その内部の芋畑だ。崖と柵で外から隔離されている場所にイリスはいとも簡単に立ち入ったのだ。


「失礼だなあ。ちゃんと正規の方法で来たよ?」


 と、イリス。


「それより取引の情報を掴んだんだよ。ちょっとコレ見てよ」


 イリスはそう続けて紙切れを取り出した。

 紙切れには走り書きで『8月27日、地下ホールにて。ゲートの欠片』と書かれていた。他にも文字の形跡はあったが、文字がにじんでよく見えない。


「ゲートの欠片って……エレインが持っていた……」

「そう。ジェイドが解析してくれてるけどさ、相当な代物だよ。多分、あれだけで世界を支配できると思う」


 イリスは言った。


「まあ、それも大事だけどね。もうひとつ、パスカルたちが来たら話したい」


「何かあったんだね」


 と、オリヴィア。


「うん。僕たちは先に食堂に行こっか。話を進めるならそこがいいかも」


 イリスの提案でふたりはセーフハウスの食堂へ。


 セーフハウスの食堂は畑とキッチンのすぐ近くにあった。外やテラスで食事をしたオリヴィアは知らなかったが、ノーファクションの構成員や保護されたダンピールはここで食事をするという。

 食堂には椅子とテーブルが並べられているほか、小さな冷蔵庫なんかもある。印象としてはホテルの食堂とアットホームな食堂の中間といったところか。


「さてと、パスカルたちとノキアさんを待たないとね。こればっかしは関わる全員で共有しないといけないんだ」


 椅子に座るとイリスは言った。


「そんなに大切なことなのね」


 オリヴィアとイリスは少し張りつめた空気を醸し出したが、すぐに別の話題に切り替える。ファッションのこととなればオリヴィアもイリスも表情が緩む。ふたりは互いの知らなかった面を知ることとなる。互いの好みなんかがそうだ。

 そうやって話をしているときに晃真が食堂に現れた。


「あ、晃真くん。オリヴィアにこんな服似合いそうだよね」


 晃真が現れると、イリスは駆け寄ってとある写真を見せる。オリヴィアと同じ髪色、眼の色の女性がピンクを基調としたフリルつきの服を着た姿の写真だ。


「絶対に似合う……」


 晃真は声を漏らす。

 だが、数秒後。大切なことを思い出したのか口を開き。


「で、あんたは誰だ?」


 晃真は言った。

 一瞬――にしてはやや長い沈黙。その沈黙の最中、イリスは暁城塞での出来事を思い出す。


「そっか、晃真くん意識なかったもんね。僕はイリス・エルヴェスタム。天照の工作員だよ」


 イリスは言った。


「工作員!? 何のつもりだ!? 俺たちは天照を敵に回した覚えはないぞ!?」


 晃真は言うが、イリスはすぐ晃真の口を塞ぎ。


「大丈夫。相手は鮮血の夜明団とカナリス・ルート。ノーファクションはむしろ僕に依頼してきた側なんだから」


 イリスはからかっているかのように言う。

 それが晃真を弄んでいるように見えたのだろう。オリヴィアは少し離れたところで眉間に皺を寄せている。


「あ、あとオリヴィアは別に嫉妬しなくていいからね。僕、仕事のために女装してるだけだし」


 と、イリスは言った。

 だが、その言葉はかえってオリヴィアを混乱させることになる。


「え……あなた男の人? 暁城塞でわたしの手を握って来たけど……どうしよう、晃真。晃真以外の男の人の手を……」


「お、落ち着くんだ。事情があったんだろ? 初対面でオリヴィアを口説くようなクソ野郎だとは思っていないし」


 晃真は言った。

 その晃真の言わんとしていることを察したのか、イリスも口を開く。


「あー、やっぱこうなったか。悪いとは思ってるよ。エレインの術中だったからこうするしかなかったんだ。ごめん、晃真くん」


「そういうことだったのか」


 イリスの言葉に晃真も納得する。


 そうしているうちにパスカルやキルスティたちが食堂にやってくる。これで話をすべき全員が食堂に揃った。

 全員が椅子に座り、イリスが神妙に口を開く。


「鮮血の夜明団で明確に僕たちの味方だった人が……神守杏奈が襲撃されて捕まった」


 その一言はこの場の空気を一気に凍り付かせた。

 特にパスカルとノキア。この2人は杏奈とも親しく、個人的なかかわりもある。キルスティも「まさか」と言いたげな顔だ。


「あの杏奈がねえ……一度手合わせしたこともあるけど、相当強いだろう?」


 と、エミーリア。


「うん。鮮血の夜明団でも5本指に入る強さらしいからね。僕も疑ったよ。でも、この目で見たんだ。神守杏奈は本部の塔に閉じ込められてね、どうやっても出られない」


 イリスは言った。


「閉じ込めるってことは自由にしとくと不都合ってことかい」


 そんな中でノキアが一言。


「そうね。杏奈の救出もできるといいね。私とノキアでできないかな?」


 と、パスカル。


「警備が凄いだろうが、あんたはやるんだろ? わかったよ、あたしもやる」


 やれやれ、とでもいうようにノキアは言った。


「で、殴り込みは昨日確認した通り。トロッコで地下まで行って、そこから地下ホールに。私はイリスと別ルートで侵入して、カフェで別れる。そのまま私はパスカルと合流して杏奈の救出。イリスは内部でひたすらかき乱す。嘘の情報を流してくれてもいいし」


 さらにつづけるノキア。

 ここにいる全員が作戦の全容を理解し、動き方も考えていた。合流したばかりのイリスもそうだ。


「うん。工作員としてやれることをやる。任せて」


 イリスは言った。


 取引まで、あと2日



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