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6 8月24日Ⅲ

 オリヴィアたちがディレインの町に着いた頃。本部でも動きがあった。


 会議の後、杏奈は気になって本部役員たちの管理する文書に目を通した。支部長である彼女には極秘文書を閲覧する権利があり、その極秘文書からカナリス・ルートの記述を見つけ出そうとしていた。

 そのために今日も書庫で文書を探す。


「……これか? いや、わからんな。全く、ここまで政治に関わるとは」


 杏奈は愚痴をこぼした。

 書庫には誰もいない。盗み聞きの可能性も潰した。が、杏奈は辺りを警戒しながら赤いファイルを手に取った。


 秩序会談。

 ファイルにはそう書かれていた。

 怪しい。

 直感的に悟り、杏奈はファイルを開いて目を通す。


 秩序会談と書かれたファイルには17年前のとある会議の議事録と関連資料が挟まれていた。

 会議の参加者はカナリス・ルートと鮮血の夜明団の役員。この時点で杏奈は怪しさを感じていた。


「これは……」


 杏奈はさらに読み進める。

 するとこの記録からあることが読めてきた。


 カナリス・ルートは20年前に結成したとき、鮮血の夜明団と賄賂のやりとりをしている。トップが変わった時に当時のトップやシオンが関係を切ろうとしても、意味などなかった。役員に内通者を混ぜ、時には刺客を送り、大切な者を殺害し、脅し。とれる限りの手段で関係を維持してきた。この会議もその関係を保つ上での一つのイベントでしかない。


 ここで杏奈はシオンの言葉を思い出す。


『甘い汁を啜ってるバカがいんだよ。役員が全滅してもその息がかかった連中しか後釜に着かねえ。こいつらがいる限り……』


 シオンはこれを言いたかったのではないか、と杏奈は考える。

 杏奈はさらにページを捲ろうとした。が、背後から殺気が近付いている。


「分かりやすすぎる殺気だな。役員の犬か?」


 杏奈はファイルを閉じながら言った。


「犬だなんて人聞きが悪い。僕は取引を進めるために不安要素を排除するだけだよ。ねえ、神守支部長?」


「ドラガノフ……我々は共にレムリアの秩序を守る同志ではないのか?」


 振り返らずに言う杏奈。

 後ろにいるのはパロ支部現支部長のヴァレリアン・ドラガノフ。彼の放つ気配は杏奈を消してやりたいと考えるかのよう。実際そうなのだろうが。


「そうだね。この前の会議までは同じ異質な地を担当する者同士、親近感が湧いていたよ。貴女がカナリス・ルートの買収を決めるまでは」


 と、ヴァレリアン。

 杏奈はファイルを置くとスーツの懐から短刀を出し、抜刀。その瞬間、ヴァレリアンは不気味な笑みを浮かべ。


「怖いなあ。星空の戦姫を相手にするのかあ。買収にしても、僕たちに手札がないとでも?」


 それは皮肉か本心か。

 ヴァレリアンも隠し持っていたナイフを抜いて杏奈へと肉薄。杏奈はナイフを、いとも簡単に弾き飛ばした。

 杏奈の持つ短刀『九星剣』は、そのときにはすでに杏奈の展開したイデアを纏っていた。


 前線で戦うことがなくなったというのに、陽葵やエレナと手合わせをしている杏奈は全く衰えてもいない。むしろ強くなったほど。


「あまり私を怒らせない方がいい。14年前、あの吸血鬼も私を怒らせたから死んだ」


 杏奈は言った。

 これは警告だ。もう一度杏奈に手を出すようなことがあれば、今度こそ無事では済まない。済まさない。杏奈はそんな意味を込めていた。


「貴女を怒らせて死ぬ、か。どうかな。僕ひとりならそうだろうが、僕はひとりじゃない。君に落ち度があったとすれば」


 不敵な笑みを浮かべる。


「一連の会議に参加したことだ。そうだろう、アイヴァン、ヨーラン」


 と、ヴァレリアン。


 気づけなかった。

 書庫に立ち入っていたのは杏奈とヴァレリアンだけではない。たった今、杏奈は自身の命を狙う残り2人に気付いた。


 とはいえ、ここは地下の極秘書庫。窓なんてものはなく、脱出経路も限られている。杏奈がいるのは最奥部。彼女の脱出を阻むようにしてヴァレリアンは立っており、アイヴァンとヨーランも入口側。ここから出るにはどう足掻いてもこの3人と戦うことは避けられない。


「そうだな……私の間違いだったようだ」


 諦めたような口調の杏奈。だが、その口調とは裏腹に彼女の瞳から光は消えていない。

 杏奈は踏み込み、一瞬にしてヴァレリアンに肉薄。繰り出したのは短刀での突き。イデアの込められた『九星剣』はヴァレリアンの肉を穿つ。


「ああああーーーーっ!? 支部長同士の」

「初音に粛清されても構わん。お前も道連れだ」


 と、杏奈は言った。


 鮮血の夜明団において支部長同士の殺し合いは御法度とされている。が、杏奈はわかっていてそのルールを破った。


「プランBだ! アイヴァンは退避しろ!」


『九星剣』で刺され、傷口から血が溢れる中でもヴァレリアンは指示を出す。対する杏奈はそれを隙と見てさらに刺す。滅多刺しだ。


「自覚するんだ、神守! お前は今支部長である資格を失ったぞ!」


 と言ってヴァレリアンもイデアを展開。そのビジョンは雪の結晶。雪の結晶が杏奈を斬りつけ――杏奈の手から『九星剣』が消え、イデアも封じ込められた。


「何をした!」


「敵に手の内を明かすのは莫迦(ばか)のやることだよ」


 ヴァレリアンはそうとだけ告げて杏奈を押し倒し。


「直に君は眠る。次に会うのは……牢かな?」



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