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5 8月24日Ⅱ

 案内されたのはまたもや地下。だが、行き方はエレベーターで、入り口の家よりも下へ。


 がこん、と音を立ててエレベーターが止まる。


「ここだ。鮮血の夜明団も知らねえ、ディレインの地下空洞だ」


 エレベーターのドアが開くなりノキアは言った。


 開いたエレベーターのドアから見えるのはトロッコと線路。なんでも、そのトロッコは鮮血の夜明団の拠点にまで続いているらしい。


「これは……ノキアたちが作ったわけでもないんだよね」


 オリヴィアは尋ねた。


「あー……あたしの父親は建設に関わったぜ。けど、ノーファクションとは別組織。吸血鬼のテロ組織がさ、250年くらい続いた国を地下に作ったんだが。このトロッコはその国、アインヴァイターライヒの残骸だ。吸血鬼殺しの傭兵団だった頃の鮮血の夜明団を攻め落とすためにこの通路は作られた。結局、帝国の連中は精神を病んで死んでいったわけだが……」


 と、ノキアは語る。

 アインヴァイターライヒは150年前に滅びた国とのことだが、ノキアの説明は妙に説得力がある。ここにいる誰もがその話を本当だと信じた。


「攻め落とすために造られたなら出口もあるんだな?」


 キルスティは尋ねた。


「もちろん出口もある。開錠は済んでいないが、やり方は知っている。だから、あたしも同行させな」


 と、ノキア。

 一行は返答に迷うが、パスカルは別。


「わかった。大丈夫、ノキアは多分私より強いから」


 あっさりとパスカルは答えた。彼女はノキアのことをよく知っているし、信頼している。たとえ吸血鬼の帝国民の娘だろうとパスカルの前では関係なかった。


「感謝するぜ、パスカル。あんたは甘いがその優しさがあたしやウチの子たちを救ってる。おそらくだが、オリヴィアもあんたがいなきゃここにいないはずだ。そうだろ?」


 ノキアはパスカルのことならばお見通しのよう。


「そうね。でも決めたのはオリヴィア。そんなオリヴィアもやりたいことがはっきりしてきたみたい」


「はは、そうかよ。それで、ディレインの本部へのカチコミはこの路線からだな。本部の敷地内の地下に続いている」


 ノキアは言う。

 彼女とパスカルは以前、この地下道を調査したことがある。それはディレインのセーフハウス建設のためという名目もあったが、ノキアの父親のことが一番大きい。すでに滅びた帝国の遺物ではあるが、まだ使える状態にある。

 だが、ここでエミーリアは違和感を覚えた。


「ちょっといいかい? アインヴァイターライヒは150年前に滅びたはずだが、それにしちゃあ技術が進みすぎていやしないか?」


 エミーリアは尋ねた。


「そうね。そう感じるのも無理はないでしょう。帝国は異世界の技術を使ってこの地下通路を作ったとのこと。ノキアの資料にも同じことが書いてあるから、信じられないなら見て」


 答えたのはパスカル。ノキアが言おうとしたのを遮ってのことだった。


「ああ。気になるならあたしの部屋に来い。納得いくまであの帝国の機密文書を見せてやる。あたしの父親は帝国の高官だったからな」


 ノキアも言う。


「さて、確認が終わったなら戻ろうか。ノーファクションには血の気の多い人もいるの。彼女たちにここの存在を知られないためにも、ね」


 と、パスカル。

 一行は早々に地下通路を後にして地上へと戻ることとなった。地上に戻る途中、ノキアが尋ねた。


「この中に帝国の文書を見たいやつはいるか?」


 するとキルスティ、エミーリア、ヒルダの3人が希望した。

 キルスティとエミーリアは反応から予想できていたが、意外なのはヒルダ。彼女が希望するとはノキアもパスカルも予想していなかった。


「……ヒルダ。だいぶえぐい内容かもしれん。吸血鬼は人類家畜化計画なんて立てていたわけだしな」


 と、ノキア。


「それでもいいんだよ。私はアインヴァイターライヒ出身のお父さんのことが気になったから……」


 ヒルダは答えた。どうやら彼女には覚悟があるようだ。


「やれやれ。じゃ、3人は後でついて来な。残りはゆっくりしててくれ。早けりゃ明日から行動するんだ」


 ノキアは言った。


 やがてエレベーターは地上に到着し、地下道に着いたときと同じように音を立てて止まる。地上に戻った一行は文書を閲覧する組とそうでない組に分かれて行動することになる。


「オリヴィアと晃真は知らなくていいのね」


 ノキアの自室に向かう4人を見送りながら、パスカルは尋ねた。


「うん。わたしと吸血鬼の因縁は、暁城塞でつけてきた。だから今更知らなくていいよ」


「俺も帝国とはあまり関係ない。仮に北東の吸血鬼の国の文書があるなら見に行ったが、今回はあまり首を突っ込まない方がいいと思ったんだ」


 それぞれ答えるオリヴィアと晃真。確かに2人とも帝国とは関係ない。


「そうね、生き残れるのならまだ知る機会はいくらでもある。貴方たちなら……」


 ここでパスカルは言葉を切る。

 ある少女の気配が近づいてきた。その気配はオリヴィアもよく知るもの。


「オリヴィアお姉ちゃん! よかった、生きてて!」


 ネリーだった。


「あ……本当に生きていたんだ。あのとき倒れていたからてっきりもう駄目かと……」


 オリヴィアは震える声で言う。

 ネリーはあの夜、シンラクロスで襲撃されて撃たれて。オリヴィアは目の前でネリーが死んだのかと思っていた。


「銀髪の錬金術師のお姉ちゃんが助けてくれたんだ。だからね、私も錬金術を学びたいなって」


 ネリーは答えた。


「ネリーも、やりたいことができたんだね。よかった」


 と、オリヴィア。

 ネリーから見てもオリヴィアの表情は、シンラクロスで見たときよりも格段に柔らかかった。


 取引まで、あと3日。



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