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4 8月24日Ⅰ

 2日後の朝、オリヴィアたちは無事にディレインにたどり着いた。


「ここは緋塚より冷えるのね。過ごしやすくはあるけれど」


 と言ったのはパスカル。


 彼女の言う通り、今のディレインは緋塚ほど暑くはない。レムリア中央部のスラニア山脈の山々に囲まれた高原ということもあって、避暑地にもなるという。


「あんたら、これまで暑いところにいたから体調崩すなよ? 特に晃真」


 と、キルスティ。


「ああ。そういえばダンピールじゃないのは俺だけだったな」


 と、晃真。


「それじゃあ、私のセーフハウスに行こっか。鮮血の夜明団には場所も割れていないし、何より籠城もできるから」


 パスカルはそう言って印付きの地図を見せる。

 セーフハウスはディレインの町の駅から少し離れた、山の近くにある。不便ではあるが、身を隠すにはうってつけの場所だろう。


「歩くのか。かなり歩くぜ」


 キルスティは言う。


「仕方なくもあるの。私たちが保護していた人はあまり人前には出られない。便利さと安全なら安全を取るし、鮮血の夜明団でさえ信用はしていないの」


 この言葉はパスカルの鮮血の夜明団への印象を反映していた。いくら親友が所属していても、被害者の保護をしても信用には値しない。

 パスカルたちと鮮血の夜明団の間には埋められない溝があった。




 駅からセーフハウスに着くまで4時間ほどかかった。ダンピールの中でも体力のないキルスティやヒルダはヘトヘトになっていた。


 パスカルがセーフハウスだと言う場所は斜面の下にある小さくて頑丈そうな、煉瓦造りの家だ。門はないが、隣にはガレージがある。


「普通の家だねぇ」


 と、エミーリアは言う。


「そう思うでしょう? 入ればわかるから」


 パスカルはそう言うと、セーフハウスのドアのセキュリティを解除する。


「さて、入って。しばらくはここを拠点とするよ」


 一行はパスカルの案内でセーフハウスに入る。

 煉瓦造りの中も一見普通だったが、家の奥から廊下が延びている。方向としては崖の方。


「はーん、崖を利用したセーフハウスってわけか。理解したぜ」


 と、キルスティは言う。


「その通り。どこに通じているかはまだ言えないけど、地下道もあるの」


 パスカルは言った。


 廊下を通り、崖の地下の階段から上へ。高さにして3階分ほどの階段を上ると、また小さな家の中に出る。小さな家には窓もあり、美しいディレインの町の景色も見えた。


「ここだよ。ディレインの住人たちは皆ここが廃墟だと思っているけど、実際は私たちのセーフハウス。廃墟だと思われていると都合がいいからね」


 パスカルの言う通り、ヒルダ以外はここにセーフハウスがあるなど思いもしなかった。

 と、そんなときだ。ドアが開いて外から褐色肌でドレッドヘアの女性が入ってきたのは。


「早かったな。今夜来るとばかり思っていたぜ」


 彼女はパスカルの姿を見るなり言った。


「まあ、そうね。ディレインの駅から歩くんだし外部から来るには時間がかかるものだよね、普通は」


 と、パスカル。


「いいんだけどさ。あんたは日付しか言ってないしあたしはちゃんと準備している」


 ドレッドヘアの女性はにいっと笑いながら言う。オリヴィアたちから見ても悪い人ではなさそうだ。


「この方は?」


 と、オリヴィア。


「あー、そうだ。ヒルダとパスカルしかあたしの事は知らねーんだった。ノキアだ。パスカルの創ったダンピール保護団体ノーファクションの副代表だ」


 彼女はノキアというらしい。それもパスカルの手の者で、団体では地位も高い。


「オリヴィア・ストラウス。わたしもダンピールだよ」


 オリヴィアも名乗る。


「キルスティ・パルム。こっちはエミーリア・カレンベルクだ。私らもダンピールで、私は錬金術師でもあるぜ」


 と、キルスティ。


 ノキアの視線は晃真に向いた。彼女の目線は晃真にとっては痛いもの。


「おう、野郎。ダンピール5人引き連れたハーレムでさぞ良い身分じゃないか」


 ノキアは晃真に言った。


「そう見えるのか!? 俺はオリヴィアしか見ていないし、そういうつもりは! それに俺の母もダンピールで……」

「冗談だ。あんた……高砂晃真の事は母親から聞いている。それに、ダンピール保護団体とは言うが、あんたみたいな男もいるから安心しな。肩身が狭そうではあるがな」


 と、ノキア。


「そうか……」


 晃真は複雑そうな顔を見せる。

 そんな晃真を尻目にノキアは話題を変える。


「それでよ、パスカル。北東に逃げたダンピールを何人か受け入れた。喜べ、パスカル。あんたが気にかけてたグレースもいるぜ」


「本当?」


 パスカルは聞き返す。するとノキアはもちろんと答える。


「じゃ、じゃあ、ネリーは?」


 と、オリヴィア。


「あー、あの子ならここの研究室で錬金術を学んでる。自分が錬金術を使えたらと思うところがあったみてーだ」


 ノキアは答えた。


「ネリーが無事ならよかった……」


「っと、あんまり喋ってるとチャンスを逃しちまう。これからウチの子たちにも見せられねえアレのところに行くぜ」


 と、ノキアは思い出したように言う。


「ええ。悪いね、ノキア」


「代表がそんな事言うなよ。おら、行くぜ」


 ノキアは言った。



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