14 次の目的地は
オリヴィアは夢を見ていた。
6年前のあの光景も夢だ。それを頭でわかっていてもオリヴィアは少し混乱していた。過去のことを見ていたはずなのに。
目を開けるとそこはタスファイと戦っていた場所とは全く違う場所だった。
「ここは?」
と、オリヴィアは言った。
全身の痛みは引いている。血が流れ出ている感覚も無くなっていた。オリヴィアは自身が眠っている間に何があったのか、それとなく察した。
「わたしは治療されたの?」
オリヴィアは確認するように質問を重ねる。
「ここはカフェの3階、治療はキルスティがやってくれたよ。急いで戻ってきたあんた達を見て何事かと思ったねぇ」
そう答えたのはエミーリア。
「あれだけ脅しておいてこのざま。見捨てようかとも思ったよ」
エミーリアに続いてキルスティも言った。彼女は少し笑っていたが、その理由はエミーリアも知らない。
「……っ。治療してくれて、ありがとうございます」
キルスティの笑みと圧に負けてオリヴィアは言った。が、そうでなくともオリヴィアは感謝自体はしている。無謀にもタスファイに挑み、死にかけたところを傷も残らないくらいに治療した。脅されなくともオリヴィアだってこれくらいは感謝する。
「か、感謝してくれるなら何より。そんなことより、これからのことを」
と、キルスティはオリヴィアから顔を背けながら言った。
「単刀直入に言うと、俺たちもマルクト区に向かう。消しにくることはわかっているし、経路は決めた。ネメシス、シンラクロス経由でウィスパードからマルクト入りする」
今度は晃真が言う。
ネメシスもシンラクロスもウィスパードもレムリアの町。その詳細はオリヴィアにはわからなかったが、どうやらそこには大陸鉄道が通っているとのことだった。
「何をいきなり。そんな協力しちゃって大丈夫なわけ?」
オリヴィアは尋ねた。
「私たちのことがカナリス・ルートに知れたんだ。誰か1人は私たちを消しに来るだろう」
と、キルスティ。
「その人たちを返り討ちにしようってわけね。大丈夫なの?」
「問題ない。そうだな、私が列車で襲撃でもされれば確実に返り討ちにできる。戦闘は好きじゃないが密閉空間ならうまく戦える」
キルスティは自信ありげに言う。それが強がりや空元気などではないことはエミーリアや晃真の表情から見て取れた。
「そうなんだ。私も、もっと強くならないとね。光があるところでも、うまく戦えないと」
そう言ったオリヴィア。彼女の近くで様子を見守っていたアナベルは何やら意味深な笑みを浮かべていた。
エミーリアがそれに気付き。
「アナベル。何を企んでんのかい?」
と、尋ねた。すると。
「……蕾は蕾のときに愛でるものじゃないけど、いずれ綺麗な花を咲かせる。咲かせてあげないとね……? そういうことだよ」
アナベルは言った。
「まったく、あんたは訳のわからないことを言う」
呆れたようにエミーリアは言った。それでもアナベルは気にしない。
「話を戻すよ。出発は明日の夜。列車だけど指定席は取ってない。いくら消しに来るにしても、車両に細工されてはキルスティでも対応できないときがあるからねぇ」
そんな中でエミーリアはマルクトへの旅について話をはじめた。
「さすがにマルクト区まで出てるのはないし、そもそもあそこには鉄道駅なんてない。次はウィスパードに着いてから話をしようじゃないか」
「そうだね……わたしたちが無事にウィスパードに着けたらね」
と、オリヴィア。
彼女は脅しているようにも未来を見ているかのようにも見えた。これから起こりうる最悪の結果さえも想定して。
オリヴィアの言葉はここにいた4人をぞくりとさせた。
「エミーリア、キルスティ。やめるなら今のうち。私たちを切ってもいいし、別の手段を取っても文句は言わない」
さらにオリヴィアは続けた。
「やめないよ。移動方法を考えたのはこちらだし、消しに来ることも想定済みだ。言ったろ、私が対応すると」
と、キルスティは答えた。
彼女はそれ以上何かを語ろうとはしないが、溢れ出る自信だけは確かだった。
「安心していい。キルスティは室内戦に強いからな」
晃真も言った。
「……わかった。あなたたちがキルスティのことをすごく信頼しているのは。私も、室内戦に貢献できるように頑張るね」
と、オリヴィアは言った。
タスファイは採掘所の近くに構えられたオフィスに身を潜めていた。基本的に場所は特定されないのだが、探りに来た者を探している。
そういった者はいなかったので、タスファイはオフィスの奥のパソコンを起動する。
――何か月ぶりだ? カナリス・ルートで話し合いをするっていうのは。会員全員で話すというのも何か事情でもあるんだろう……
タスファイはこれからのことを思いながら起動する画面を見ていた。




