33 それは陽動
オルドリシュカは重要な情報をくれてやると自ら言った。敵の敵は味方だということでオリヴィアはひとまず信用する。
「いいか? あんたらはエレインにはめられた。高砂晃真を誘拐して、あんたらを暁城塞に閉じ込めて。そうしている間にやつら……カナリス・ルートはディレインの町で取引だと。鮮血の夜明団と」
オルドリシュカは語る。
彼女の目の前でオリヴィアは拳を握り締めた。
「そんなことのために晃真を。やっぱりカナリス・ルートはこの世に存在させちゃいけないね」
と、冷たい声で言うオリヴィア。
「ありがとね、剣士さん。わたし、これからディレインに殴り込むよ」
オリヴィアはそう言って鉄薔薇の間へと戻ってゆく。ここにはレフとオルドリシュカだけが残された。
「……やれやれ。セクハラ女が死んだのはいーけど、あーしの居場所がなくなっちゃったなあ。エレインのやつ、あーしが外にコネクション作ろうとすれば潰してくるし。鮮血も天照も行けねえんだよなあ」
オルドリシュカは呟いた。
「会長に掛け合ってみようか?」
と、レフ。
「天照には行かねえ。どうせ肩身狭いし。ゲートでも通って異世界行くかあ」
オルドリシュカはそう言いながらオリヴィアの向かった鉄薔薇の間へ。彼女の後を追ってレフも向かうことになる。
鉄薔薇の間では晃真の治療が済んで、ゼクスたちも到着していた。晃真はまだ目を覚ましていないが、どうやら無事に生き延びたようだ。
「オリヴィア!」
そう言ったのはリンジー。彼女はオリヴィアの姿を見てエレインを倒したことを悟る。オリヴィアの顔は城塞で合流したときよりも晴れやかだったのだ。
「リンジー、エレインは殺したよ。でも、またやることができたんだよね」
と、オリヴィア。
「やること? 私もエミーリアも付き合うから話しな」
キルスティは言った。
「ディレインの鮮血の夜明団の本拠に殴り込む。カナリス・ルートと鮮血の夜明団の取引があるんだって」
オリヴィアは先ほど得た情報を話す。
「やっぱり関係あったな。信用できねえ連中だとは思ったんだよ。いいぜ、オリヴィア。どんな無茶な事だろうが付き合ってやる」
と、キルスティは笑いながら言う。
彼女の後ろでエミーリアも頷いていた。この2人は鮮血の夜明団に良い感情持っていない。
「え、待って! 取引なんて聞いてないよ? 私、鮮血の夜明団にも入ってるけど何も知らない!」
そう言ったのは陽葵。
「……晃真を斬ったのは誰?」
と、威圧するオリヴィア。陽葵は今のオリヴィアの気迫に押されていた。
「陽葵は……手を出さないで。天照の人として知らない振りをして。わたしだってあなたを殺したくない。お願い」
陽葵はオリヴィアを見て、彼女とは戦いたくないと感じていた。同格の強さであろうオリヴィアだが、今の彼女は人をいとも容易く殺すだろう。本人が極力殺しを避けたいと思っていても、だ。
「わかったよ。私は鮮血の夜明団から離れる。杏奈にも話をつける。それでいい?」
と、陽葵。
「うん。じゃあ、帰ろっか。パスカルたちが待ってる」
と、オリヴィア。
そんなときだ。オルドリシュカとレフが鉄薔薇の間に来たのは。
キルスティが真っ先に反応する。
「待ちな。お前は私が殺したはずだ。なぜここにいる?」
キルスティは尋ねた。
「待って、今は敵じゃない」
と、オリヴィア。
だが、彼女の言葉もむなしくオルドリシュカはキルスティの前に進み出る。
「あーしは奇跡を起こす女だ。3回や4回の死くらいどうってことないっての」
オルドリシュカは言った。
「ほう、私のアレから生還するなら説得力もある。で、もう一回死んどくか?」
「……できるならしてーよ。生き延びたところであーしにはもう居場所がねえ。エレインのせいで」
と、オルドリシュカ。
彼女もまたエレインの被害者のようだ。そんなオルドリシュカに手をさしのべる者がひとり。
「じゃあ俺たちの所に来い。俺らもてめぇも元カナリス・ルート関係者。仲良くやれそうじゃねえか」
それはゼクス。
彼もカナリス・ルートの手の者だったが、リンジーたちに勧誘された身。少し前はオルドリシュカと似た境遇にいた。
「そうそう。あたしはロムのむす……部下だったし。そっちのゼクスはリュカにこき使われていた。ここにはいないけど、クロル家の元親衛隊副長にハリソンの元後継者と昴の元従者もいる。全員裏切者だよ」
と、リンジー。
「悪くないじゃん。あーしにやりたいこともないし、しばらくは付き合うからさ」
オルドリシュカは言った。
これで彼女の身の振りは決まった。
その傍らでレフは蒼倫を見た。
「戻ったんだな」
と、レフ。
「オリヴィアが黒龍を殺してくれたおかげでね。とはいえ、僕はその程度では靡かないよ」
蒼倫はキルスティの方を見る。
「聞いてくれよ、レフ。彼女は僕の女神様だ」
「あれだけ言い寄られても断り続けたお前が恋、か。彼女にはそれだけの魅力があるということか」
レフは言った。
「そうだね。渡さないよ」
「いや、おれは別に……」
と、レフ。
レフには密かに想いを寄せる相手がいたが、その想いは露と消えた。




