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31 絶望と憎悪のその先へ

「……ごめん」


 震える声で陽葵はそれだけを告げた。


「晃真……生きているよね……まだ生きている?」


 オリヴィアは言った。


「生きてる。エレインの近くにいたら危険だと思ったから晃真を連れて離脱したんだ」


 陽葵は答えた。彼女の声には絶望か後悔が見え隠れしていた。


 この中で何が起きていたかを知る者は陽葵とリンジーだけだ。特に陽葵。自らの手で晃真を斬っただけに、そのときのことを鮮明に覚えている。

 まさに悪夢だ。


「お願い、キルスティ。晃真を治療してくれる? 君にしか頼めない」


 と、陽葵。


「そのつもりだ。ったく、どんな相手に斬られたのやら」


 陽葵が晃真を床に寝かせ、キルスティが晃真の傷を見た。

 着ている服はそう薄くない。が、肝心の傷は服など紙のように切り裂いて晃真の肉にまで達している。相当な敵に斬られたようにも見えた。

 ここまでやれるのはごく少数しかいない。陽葵が思いついた範囲では昴、千春、陽葵の3人。頭の回る陽葵はすぐに察してしまう。


「傷が深いし失血も相当だ。陽葵や八幡昴みてえな相当な手練れじゃねえと無理だろ、この傷は」


 キルスティが言うと陽葵の表情が凍り付く。それをオリヴィアは見逃さなかった。


「あなたなの? 晃真を斬ったのは?」


 オリヴィアは震える声で尋ねた。

 ここにいた誰もがオリヴィアと陽葵を見る。当然といえば当然だ。


 しばしの沈黙の後、陽葵は重い口を開き。


「ごめん……私が斬った。君には私を斬る権利があると思う」


 それが陽葵の絞り出した精一杯の言葉。

 オリヴィアは絶望したような表情を浮かべた。それはそうだ。エレインの介入があったとはいえ、陽葵が晃真を斬ったのだ。


 オリヴィアは両手の拳を握り締めた。

 彼女の心を反映しているかのように展開される漆黒のイデア。ここにいる者たちは身構えた。

 だが、オリヴィアはそのイデアをも抑え込み。


「仕方ないよ……悪いのはエレイン……あなたに晃真を斬らせたエレインが悪いよ」


 オリヴィアは言った。


「エレインを殺せばすべて解決するよね?」


 そう言ったときのオリヴィアの目には光がなかった。

 旅に出るまでの彼女――命令されるがままに殺していた彼女に戻ったかのようだ。


 オリヴィアはそれ以上何も言わずに奥へ。エミーリアとイリスが止めたが、オリヴィアに言葉は届かない。




 エレインを殺す。

 オリヴィアが願い、決意するのはそれだけだった。晃真が斬られたのも拐われたのも、すべてエレインのせいだ。

 オリヴィアの中に憎悪が満ちる。


「殺す……殺してやる……」


 ぶつぶつと呟きながら、オリヴィアはエレインのいる部屋にたどり着いた。

 そこは、いくつかの椅子や机の置かれた広い部屋だった。が、今は至るところが燃えている。一切の熱を発することなく。


 そんな部屋の一角にエレインがいた。


「見つけた」


 オリヴィアは冷たい声でそう言った。


「やっとたどり着いたのね。いえ、よくたどり着いたわ」


 と、エレイン。さらに彼女は一言。


「炎が煌々と燃えているというのに戦うの?」


「光が強くなるほど影は濃くなる。そういうこと」


 オリヴィアはそう言うとイデアを展開。だが、展開したイデアはたちどころに消える。どうやらこの炎はイデアのみを焼く炎だという。


「でもあなたはご自慢のイデアを展開できない。さっき晃真を斬った霧生陽葵がやったからね」


 と、エレイン。


「……ふうん。降ろすよ」


 オリヴィアはエレインの煽りにも大した反応を示さない。今やオリヴィアは恨みに突き動かされる一人の化物。

 エレインはオリヴィアの声を聞き、少しだけ目を見開いた。


 オリヴィアは何も言わずにイデアを再展開。

 その瞬間、凄まじいイデアの奔流が部屋全体に溢れ出す。陽葵の放った清めのイデアなど関係ない。それさえも飲み込み、広がってゆく。


 それでもエレインは動じず――ゲートを小さくしたようなものを手にしてイデアの奔流を受け止めた。


「クラウディオと同類なのね。いえ、密度でいえばクラウディオ以上。本当にロムは見る目がないのね」


 と、エレイン。


 イデアの奔流はエレインの手の中にある物体に吸収される。そして。


「あなただけは殺さない。他の侵入者だけを殺してあなたを再教育してあげる。私、あなたのことは気に入っているのよ?」


 エレインはそう言うと手の中の物体からエネルギーを放った。それはすべてを飲み込むようなエネルギー。イデアのようでもありながら、何か別の異質なものがそこにはあった。


「どうでもいい。あなたのせいで、わたしの晃真は……」


 イデアの奔流はより激しくなる。その影響はオリヴィアにも現れた。

 金色の髪が漆黒に染まり、眼の色も吸血鬼と同じ真紅になった。顔からはみるみるうちに血色が抜けてゆく。


 今のオリヴィアの姿はどこかレムリア大陸の女神にも似ていた。


「否定しな――」

「もう何も喋らないで。何も考えないで。影の中に永遠に縛られていて」


 オリヴィアの冷徹な声とともに、影がエレインを飲み込んだ。



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