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29 剣の女神

 陽葵とエミーリアはかすり傷こそあるものの、大した傷はないようだった。


「いやー、驚いた。抜け道がこんなところにつながっているなんて」


 陽葵は鉄薔薇の間を見渡しながら言った。


「だね。僕も話で聞いた程度だから知らなかったけど。なんでもここは侵入者を殺すための部屋でもあるみたい」


 そう言ったのは蒼倫。今は子供の姿だが、本来は20代前半くらいの成人男性。だから見た目に似合わない言葉を選ぶ。


「うん。で、これから殴り込みなわけだけど。エレインの能力は特殊。同士討ちの可能性があるからこの人数で殴り込むのは悪手かも」


 そう言ったのは陽葵。

 彼女は春月支部でキルスティやエミーリアと顔を合わせてはいるが、今回ばかりは天照から派遣された身。援軍としてエレインへの対処も考えているらしい。


「それを陽葵と道中で話してねえ。結果として2人くらいで殴り込むのが最適解だと判断した。できる限り乱戦の状況を作らない」


 今度はエミーリアが言った。


「じゃ、あたしと陽葵が適任じゃない? あたしは幻覚を見せられてもイデアに頼ればどうにかなる。陽葵は強い。少数精鋭ならこれが一番だと思うんだけど」


 リンジーが名乗り出る。彼女は陽葵も巻き込もうとしていたが、どうやら陽葵もそのつもりの様子。だが、陽葵も陽葵で考えがあった。


「いいや、やっぱりリンジーは荊だけ展開してて。リンジーは索敵が得意だって聞いた。それに自分の五感に頼らないやり方ができるみたいだから、エレインと接触しないところからの援護がいいかも」


 と、陽葵は言った。


「んー、それはわかったけど。本当に大丈夫?」


 リンジーは尋ねた。


「いいか、リンジー。陽葵はこの中で一番強い。イデア界に到達したかどうかは知らねえが、化け物相手に立ち回るくらい訳はない。むしろ心配なのは陽葵が自傷しねえかどうかだ」


 と、キルスティは言った。


「自傷って……まあ、私なら大丈夫だよ。対策もしてあるから!」


 陽葵は言う。

 リンジーはこの先にイデアを展開し、陽葵だけが先に進む。仮に劣勢になることがあれば生きてこちら側に戻ればいい。それさえできればキルスティが治療することくらいわけはない。


「行ってくるね」


 陽葵はそれだけを言い残して先へ。




 鉄薔薇の間を抜けて廊下を通ってたどり着いたその場所は、鉄薔薇の間よりもやや広い空間だった。そこで待っていたのはエレイン。彼女自ら戦うつもりか、近くに部下の姿は見当たらない。


「ようこそ、私の城へ。ここに来られたのなら恐らくヴィルホはもう生きてはいないでしょう。彼の気配もないわけで……」


 エレインは言った。


「そうだね、そいつなら私の仲間が殺したよ。何があったか知らないけど」


 と、陽葵。


「ふうん……本当に、よくたどり着いたわね。相手してあげなさい、オルドリシュカ」


「ったく、あーしを呼び出したと思えばコレだ。最近1回死んだってのにさ」


 エレインが呼ぶと、隠し扉からミントグリーンの髪の女が現れる。彼女はオルドリシュカ。陽葵は知らないが、抜け道の入り口でキルスティと戦い、一度殺された。が、彼女は自身の能力で復活した。不死鳥のように。


「ロムとどちらがいいかしら? あなたは可愛いから私の下の方が待遇は良い筈だけれど?」


 と、エレイン。


「わーったよ。この女を殺せばいいんだよね?」


「そうね。一度死んだあなたなら以前より戦える筈でしょう?」


「だってさ。ここまで期待されるとあーしも手加減できないってわけ」


 オルドリシュカはそう言って剣を抜いた。波打った刀身に光が反射し、鋭く輝く。一度殺されて復活し、より強くなったオルドリシュカのように輝きは増している。

 オルドリシュカは陽葵が剣を抜く前に斬り込んだ。彼女はせっかちだから。そんなオルドリシュカの斬撃を、陽葵は鞘に納めたままの刀で受け止めた。


「さっさと抜きなよ。抜かないポリシーがあるってんなら別だけど」


 と、オルドリシュカ。


「言われなくとも。私に剣を抜かせようとしてる時点で覚悟があると見たよ」


 陽葵はオルドリシュカを剣ごとはらいのけ、抜刀した。

 陽葵の持つ刀は普通の刀よりも長い。いわゆる大太刀や野太刀と呼ばれている類の刀だ。通常は両手で扱うような刀だが、陽葵はそれを扱うのに片手で事足りた。


「君は、私と楽しんで斬り合ってくれる?」


 陽葵はそう言うと踏み込んで一太刀を浴びせた。対するオルドリシュカは陽葵の太刀を受け止める。


「当たり前だし。さっき殺された時、あーしは凄く不完全燃焼って感じだったんだよねー」


 と、オルドリシュカ。

 彼女は体勢を立て直して、隙ができる方向から陽葵に斬り込む。それも、一度とは言わず、何度も。陽葵はといえば、おおよそ小回りも聞かないような太刀をふるい、オルドリシュカの斬撃を受け流した。そのたびに金属のぶつかり合う音が響いた。


 陽葵はオルドリシュカの猛攻を防ぎ切ってはいる。が、問題は反撃のチャンスが見つけられないこと。オルドリシュカの攻撃は陽葵より軽くても、小回りは圧倒的にオルドリシュカが上だった。

 だから陽葵は斬り合う中でも笑っていた。



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