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26 欺く者

 時を同じくして、リンジーは抜け道で迷っていた。抜け道がエレインの居場所に通じていることはわかっても、たどり着くことはできない。たどり着こうとしても、気がつけば同じところをぐるぐると回っている。


「……5回目。この地図はさっきも見たね」


 リンジーは呟いた。

 抜け道には、エレイン一味の使う地図がところどころに貼られている。その地図のうち、血で印をつけられたものの前に何度も来ている。それでリンジーは確信した。


「エレイン……迷わせてるのはあんただよね。イデア感知能力まで狂わせるんだからね」


 と、リンジー。

 彼女はイデアを再展開し――1本だけ伸ばす。ロムから逃れたときのように。


「お願い。エレインのところに連れていって。イデア界は本質を写すんでしょ?」


 イデアの荊はリンジーの意思などにかまわない。正常な五感、第六感を失ったリンジーはもはや自身の感覚など信用していなかった。

 荊はするすると伸び――これまでに壁があるとリンジーが錯覚していた方へ。その壁さえもすり抜けてさらに先へ。リンジーは荊を全身に巻きつけて移動するのだった。




 暁城塞南東部、エレインの城。

 エレインはチャイの入ったマグカップを机に置いて立ち上がる。


「来客ね。それも予想通りリンジー。丁重にもてなしましょう」


 エレインは言った。

 そんな彼女は以前の下着のような服装とは全く異なる服装をしていた。これが彼女の正装だという。正装のエレインはどこか影があるような、だが絶対的な強さを纏ったような美しさがあった。


「ヴァリオと戦った女だね。倒してはいないが」


 そう言ったのはヴィルホ。


「ええ。ひとまず、時間稼ぎはできたわ。というわけで、晃真。あなたは用済みね。よく暴れないでくれました。おかげで、手荒なことをせずにディレインの鮮血の夜明団本部からオリヴィアや霧生陽葵を遠ざけることができました」


 と、エレイン。

 その直後、エレインは椅子に縛り付けられた晃真を見た。

 晃真は檻に入れられていたときとは違って服装もイデアを封じるようなものに替えられている。


「なんだと……?」


 晃真は言った。


「そのままの意味よ。本命は別のところ。あなた達が何もしなければこうはならなかったのよ。夏の終わりの取引はもう半年も前から決まっていたの。取引のことがわかればあなた達は間違いなく乗り込んできたでしょうから……介入させてもらったわ。3か月前に」


 エレインは続けた。


「あなたはオリヴィアを引きつける恰好の囮だったわ。ヒルダを浚うという手も考えたけれど、あの赤毛が鬱陶しくて。だからあなたを選んだの。なまじ戦えたのが裏目にでたわね」


「だから俺か……いや、あんた、近いうちに死ぬぞ。俺をここに連れて来たんだ。オリヴィアが来たのなら黙っていないはずだ」


 晃真は言った。


「だったら再教育してこちらに引き入れるまで。ここまで欠員が出て後任も何人か殺されている。カナリス・ルートとしても人は欲しいところよ」


 再教育と聞き、晃真は言葉が出なかった。

 オリヴィアの過去ならばすでにリンジーから聞いた。パスカルから助けられるまでに、オリヴィアは虐待されながら育ったという。そんなオリヴィアの支えとなったのがリンジーで、彼女だけがオリヴィアの理解者だった。


「そんなこと、させるものか。オリヴィアにはやりたいことがあるんだ」


 晃真は必死に言葉を絞り出す。


「いい? 秩序を保つ者は『やりたいこと』ではなく『すべきこと』で動かなければならない。その『すべきこと』は、世界がどうあるべきかで考えなくてはならない。個人の感情なんて、そこにあってはならないの」


 と、エレイン。

 彼女はそう言うと、後ろを見て。


「さて、ヴィルホ。リンジーをもてなして頂戴。直接殺してはいないけれど、彼女もヴァリオと戦ったでしょう」


「そうだね。リンジー程度なら僕でも簡単に殺せる。その後だ、オリヴィアを殺すのは」


 と言って、ヴィルホは銀色に輝く銃を取った。


「行ってきます、エレイン様。リンジーの首はエレイン様の前にでも転がしておくよ」


 ヴィルホはそう言ってエレインの前を去る。向かうのはエレインの城の入り口、鉄薔薇の間。これまでにここで殺された者たちの血の色のカーペットが敷かれた空間だ。


「鉄薔薇の間。万一この城に乗り込む者があれば、ここで迎え撃つ。もっとも、ここまで来た人はこれまでいなかったから、血の色は裏切り者の血の色でしかないんだよね」


 ヴィルホは呟いた。


「ねえ、リンジー。君は裏切り者だけど、ここには外から入って来たしエレインの術中のはずだ。どうやってここに?」


 と、ヴィルホ。

 彼の前にはリンジーがいた。ヴィルホが来るのとほぼ同時に、荊を伝って現れて、イデアの荊を消した。


「あたしがイデアで作った空間だろうが入り込めることは言ってなかったもんね。そういうことだから」


 と、リンジーは言った。


「なるほど。確かに君ならリュカ・マルローを殺しに行けたのも納得だ。だからエレイン様と接触する前に殺さなくてはならないんだよ」


 ヴィルホはそう言って銃口をリンジーに向けた。



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