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25 案内人

 抜け道に入ったオリヴィア。彼女は抜け道全体に影を展開し、糸を手繰るようにしてエレインの居場所を突き止めた。居場所さえわかれば簡単。オリヴィアは先に進もうとした。が、彼女の前に立ちはだかる者がひとり。

 その者は、黒のパーカーにミニスカート、長い薄紫の髪が特徴的なオリヴィアとほぼ同年代の少女だった。さらに、その少女は眼鏡をかけている。


「どいて。あなたもわたしを邪魔するの?」


 オリヴィアは少女を見るなり、一言。


「そのつもりはないんだけどね。見ているもの、感じているものが本物だと思わない方がいいよ」


 と、少女。

 その声は少女にしてはやけにハスキー。少年にも近く、中性的だ。


「どういうこと? 本当に邪魔するなら、殺すよ。わたしは晃真を助けるの。晃真を助けてエレインを殺すの」


「……あのさあ、君はエレインの能力をわかって言ってる?」


 少女は言った。

 オリヴィアは黙り込む。そういえば、エレインの能力は未だに特定できていない。認識を書き換える能力とも洗脳する能力とも迷宮を作る能力ともいわれている。が、肝心の裏が取れていない。


「せっかく蒼倫(ツァンルゥン)が知って、伝えてくれて。ジェイドさんが対策してくれたんだよ。僕を殺せばこれまでのことが無駄になってしまう」


「なんかよくわからないけど……」


 オリヴィアはここで言葉を切った。

 もし、この少女の姿をした人物が敵ならば、ここで何かに嵌めてくるだろう。あるいは攻撃してくることもあり得る。だが、オリヴィアはやや疑心暗鬼に陥っていた。この人物がオリヴィアをだましているのなら。


「あなたは、誰? 何の理由でここにいるの?」


 オリヴィアは尋ねた。すると、少女は待ってましたとばかりに名乗る。


「やっと訊いてくれた。僕はイリス・エルヴェスタム。天照の人間で、ここに来たのは道案内と治療のため。僕、これでも錬金術師なんだからね」


 その人物はイリスというらしい。


「天照……伊勢咲耶会長のところ……? だったら、納得。だってあの人、わたしたちを支援してくれるって言ってたから」


 と、オリヴィア。

 彼女の敵意はみるみるうちに小さくなってゆく。とはいえ、万が一の可能性を想定してオリヴィアの中にほんの少しの警戒心はのこっていた。


「そうだね。会長、そう言ってたね。よりによって僕以外が血生臭いメンバーなんだけど。陽葵とかレフは言わずもがな。ジェイドだって面白い被検体がいたら捕縛したり、無理なら解体してでも持ち帰ろうとするし」


 と、イリス。その言葉の後半ではため息も混じっており、イリスの天照での立ち位置が窺える。


「大変なのね。陽葵が悪い人じゃないのは知っているけど」


「うーん、そうだね。多分。それより晃真くんを助けるなら早くしよう。エレインの一味は何をしでかすかわからない」


 イリスはそう言うと、オリヴィアの手を取った。


「へ?」

「今の君はどこまで感覚を狂わされているかわからない。だからこうするんだよ」


 戸惑うオリヴィアにイリスは言った。

 イリスに手を取られ、元来た方向へと進む。どうやらオリヴィアが向かっていた方向は目的の方向とは全く違っていたらしい。それも驚きだったが、オリヴィアにとって驚くべきことはもうひとつ。


 ――イリスの手、なんかごつごつしてる。晃真やランスほどじゃないけど、パスカルとかキルスティとは全然違う。


 オリヴィアは戸惑いながらイリスの横顔を見た。

 イリスの顔は出会ったその時と同じく、整っている。目もぱっちりとして可愛らしい。やはりその顔と手の質感が違いすぎる。


「僕の顔に何かついている?」


 歩きながらイリスは言った。


「……なんでもない。ううん、あなたはどこかで会った気がする?」


 オリヴィアに聞ける精一杯のこと。これ以上のことは、イリスには聞いてはいけない気がしたのだ。


「いや、僕は知らない。君のことは陽葵から聞いただけだし。晃真くん、大切な恋人なんだよね?」


 と、イリス。


「そう……だよ。陽葵がそこまで知ってるとは思わなかったけど、どうやって知ったのかは、うん」


 オリヴィアは言った。


「じゃ、助けないとね。大切な人を喪うのはつらいから」


 イリスは言った。


 暫く互いに無言のまま、2人は抜け道を進む。抜け道は狭く、明かりも少ない。だが、エレイン一味が記したであろう地図がたまに張られていた。イリスは時折地図を確認していた。

 と、ここでイリスが口を開く。


「そろそろ近づいて来たんじゃないかな。イデア探査とエレインの能力回避を両立した装備なんだ。そうそうエレインの能力で妨害されるはずはないと思うんだよね」


「嘘……わたしにはわからなかった」


 オリヴィアは言った。


「こればっかしは仕方ない。エレインはそういう能力を使うから」


 と、イリス。


「ねえ……エレインの能力ってどんな能力なの? 対策できるなら能力も解ってるはずだよね?」


 オリヴィアは尋ねた。


「うん。エレインの能力は■■■■だよ」


 と、イリスは答えた。

 肝心なところだけ、オリヴィアの耳にはノイズがかかったように聞こえた。当然ながら、エレインの能力はわからずじまい。オリヴィアはもう一度聞こうという気にはなれなかった。


 やがて、2人は抜け道のその先に出る。

 迷宮の女王の城。暁城塞の大広間――鉄薔薇の間に。



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