表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/343

22 因縁の相手

「近いね。これは間違いなくエレインだよ」


 抜け道の階段を上りながら(ツァン)は言った。

 今キルスティと蒼がいるのは暁城塞の抜け道。迷宮の女王といえど、エレインでも迷うときは迷う。正しい道を選ぶ能力があれば迷わないが、エレインはそうでもないのだろう。


「そうか? 特徴のない気配だが」


 と、キルスティ。


「人混みにいればばれないだろうね。でも僕は覚えているよ……」


 蒼は答えた。

 どうにも過去に何かあったようだが、蒼は肝心なことを話さない。その時が来たら話すとのことだが――


 キルスティは左斜め後ろからの殺気を感じ、飛び退いた。


「あー、隠したつもりなんすけど。そんなにだだもれだったっすかねー」


 靡く紫髪、鈍く光るナイフ。

 蒼はそれを見て「まさか」と思った。


「殺気がだだもれだ。エレインとやらの方がよっぽど上手く隠せてる」


 キルスティは言った。


「へへ、敵からもエレイン様は大層な評価っすか」


 紫髪の男がそう言ったとき、キルスティは初めて男の全貌を見た。

 まずは長身で細身の身体。あのタスファイよりも身長は高いらしく、2メートルは越えていそうだった。次に紫髪と眼鏡。目は切れ長で全体的にシャープな印象だ。


「エレインの手の者……なるほど、理解した」


 と、キルスティ。


 紫髪の男――黒龍はキルスティが危険だと判断し、彼女を無力化せんとイデアを展開。それは青い粉だった。


 キルスティはその一手を読んでいたかのように粉を回避。黒龍の首を狙った。


「お前は殺してもいい人間だと判断したぜ」


 キルスティは囁き、一閃。当たれば死ぬその一撃は見事にかわされ。


「そいつの姿を見て少しは警戒してほしいっすねえ。なんでそいつが子供の姿なのか考えてさ」


 黒龍は言う。そのときには青い粉がキルスティに降りかかろうとしていた。キルスティは咄嗟の判断で炸裂弾を放った。

 粉が降りかかったのと炸裂弾の閃光はほぼ同時。だが、閃光弾により青い粉は跡形もなく消えた。


「警戒……わかるがなぜ蒼が?」


 と、キルスティ。


「ここからは僕がよく知っているから。大丈夫、今度はうまくやる」


 この声は少年の声ではない。

 閃光が晴れたとき、そこにはこれまでの蒼はいなかった。が、キルスティの前には蒼に似た、蒼が成長した姿のような青年がいた。


「おかえり、(シア)蒼倫(ツァンルゥン)。できれば戻ってきてほしくなかったんすけど」


 黒龍は言った。


「でも残念ながら僕は戻ってきた。偶然、紅い塊を持っていたからね。吸血鬼として生き延びることができた……残り3分ってところか」


 と、蒼倫。

 蒼だったときのように、その瞳は紅い。紅い瞳は紛れもない吸血鬼の証。蒼倫は吸血鬼であるだけでなく、黒龍の力を受ける前の能力も取り戻していた。


 蒼倫は黒龍に肉薄し、蹴りを繰り出す。


「ちっ……」


 受け流す黒龍。が、蒼倫は攻撃の手を緩めない。武器を持っていなくとも、蒼倫は全身が凶器のよう。ナイフ術のように手刀を繰り出し、黒龍に畳み掛ける。


「恨みはもうないけど、白瀬会長の頼みだ。死んでくれ」


 蒼倫はのけぞった黒龍に言う。

 そこには明確な殺意があった。加えて、白瀬会長という言葉。キルスティは脳内で蒼倫や黒龍の関係を整理した。


「……蒼倫。あんた、天照の人間だったか?」


 キルスティは呟いた。もちろん彼女の声は蒼倫には届かない。


 蒼倫は体勢を立て直す黒龍を前にしてイデアを展開。それは結晶でできた翼のような形を取った。イデアの展開を確認した蒼倫は、黒龍に肉薄。


「砕け散れっ!」


 翼がナイフに触れたと思えば、ナイフは粉々に砕け散った。破片はまるでガラスのよう。それが蒼倫の能力だった。

 黒龍は焦りつつも蒼倫と距離を取り、呟いた。


「チッ……厄介なんすよねえ……武器を露骨にメタってくる能力。腹立つっすよ……あーでも、時間さえ……」


挿絵(By みてみん)


 そう、時間。

 時間がこの戦いの鍵を握る。蒼倫はイデアを1日にトータルで30分だけ展開できる。長く展開すればいずれ限界が来るわけだ。が、黒龍はイデアをかき消されてから3分は再展開できない。だから黒龍は時間をかせぐ。


 近づこうとする蒼倫に、距離を取り受け流す黒龍。そうしているうちに、黒龍はイデアを再展開。


「時間切れっすよ。残念っした」


 と黒龍。どうやら3分経ったらしい。

 青い粉を受けた蒼倫は再び子供の姿に戻され――展開していたイデアも消えた。


「……炸裂弾も尽きた。今度はこっちが追い込まれたか」


 と、キルスティ。

 せめて炸裂弾があればまた違う。いや、キルスティの反射神経ならば避けることはできる。決定打に結び付かないだけだ。


「キルスティ! 僕のことはいい! 先に行ってくれ!」


 蒼――蒼倫が叫ぶ。

 が、見捨てろと言われたところでキルスティが見捨てるわけがない。追い込まれても彼女は彼女。


「やなこった。その代わり……あんたも連れていくぜ」

「わわっ!?」


 キルスティは蒼倫をひょいと抱え、ダッシュ。黒龍が青い粉を操作しても追い付けない。加えてだ。ここに増援があった。


「蒼倫。これ以上はおれに任せておけ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ