表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/343

20 抜け道へ

 オルドリシュカはキルスティの姿を見て驚くことはなかった。彼女も錬金術師のことは知っているし、何をしてくるかも知っていた。


「なんだ、似た者同士って? 仕組みは違うんだろうが」


 と、オルドリシュカ。

 直後、オルドリシュカはキルスティに斬りかかり。


「あーしもちょっと齧ってみたんだよねー。理解はできたけど、なんか単純すぎて向いてなかったってだけで」


 ここでキルスティはまた傷を受けた。かすっただけでもそれなりの深さの傷だ。オルドリシュカはニイっと笑い、さらに斬り込む。

 避けられない。だからキルスティは鋏で受ける。


「パワーは私以上……」


 キルスティは受けてから剣を斜めに流す。からの、斬り込み。これにオルドリシュカは対応できず――鋏の刃をその身に受けることとなる。


「ああん? この程度であーしは」


 反撃に出ようとしたオルドリシュカはここで違和感に気付く。

 鋏は武器としてはあまりにも脆弱、貧弱だ。だというのにキルスティは鋏でオルドリシュカに応戦した。その理由はオルドリシュカが身をもって知ることとなる。


 傷口から入り込んだ殺人バクテリアはオルドリシュカを侵す。それは病。オルドリシュカの体は殺人バクテリアに蝕まれ、あちらこちらが腐敗していく。


 病は、老いの次に絶対的な死だ。たとえ英雄であろうとも、死に至る病を前にしては為すすべもない。


「不死……私の能力を克服してから言ってくれ。私の能力は、私にしか克服できていない。克服できれば無駄な死人が出ないだろう?」


 と、キルスティ。

 殺人バクテリアに侵されて腐乱死体と化したオルドリシュカ。彼女は何も答えない。


「皮肉だぜ。死にそうな人間を助ける私が、ほぼ確実に殺す能力を持っている。クソッタレを殺すことはできても……」


 キルスティは言葉を区切り、ため息をついた。


「終わったんだね」


 そんな彼女を見て声をかけたのは(ツァン)。彼の服には返り血がついており、口元も血で汚れている。何をしたのかはキルスティもすぐに理解した。


「見たのか?」


「見たよ。キルスティは人を殺すときに表情が死ぬんだね。笑ってるつもりでも」


 蒼は言った。


「キルスティこそ、見た?」


「見てなくてもわかるぜ。私ら、共犯者だな」


 と、キルスティ。

 殺人バクテリアで用心棒を殺した医者に、生まれて初めて人の生き血を首から啜った吸血鬼。どこか共犯者という言葉は合っているようでもあった。


「そんなことより先に……じゃねえな。抜け道の場所を……」


 キルスティはそう言って携帯端末を出し、メッセージを送る。


『歯医者から抜け道が出ている。抜け道はエレインのところに続いている』


「そうだね、このことは知っておくべき。エレインのところにたどり着きたいなら……」


 と、蒼も言う。


 やがて2人は抜け道に入り、蒼の案内でエレインの根城へ。




 リンジーと別れてひとり暁城塞を行くオリヴィア。これまでに操られた人間を数人殺し、オリヴィアの体は血で汚れている。

 そんなとき、キルスティからメッセージが届く。接敵していない今のうちにと、オリヴィアはメッセージを確認した。


『歯医者から抜け道が出ている。抜け道はエレインのところに続いている』


 オリヴィアはキルスティに同行していた少年を思い出す。彼からの情報だろう、とオリヴィアは考え、行く手を見た。ちょうどそこには怪しい歯医者がある。歯科医と思われる男の顔写真に「格安!」という売り文句。


「ここね……」


 オリヴィアはそう言って迷いなく歯医者に突入した――瞬間。オリヴィアの前にレイピアが突きつけられた。


「っ!」


 オリヴィアは咄嗟に飛び退いた。


「むぅー、速いですねえ。強そうですねえ。まるで本家の人間ですが……アナタ金髪ですね?」


 女の声。オリヴィアがその声の主の方を見れば、そこには銀髪の女がいた。


「あなた、クロル家の人? ほとんど殺されたと聞いていたけれど」


 と、オリヴィア。


「そうですねえ……殺されましたねえ。アナタたちがやったのは知っているので死んでくださると助かるのですが……ねえ、侵入者」


 その女は一瞬でオリヴィアとの距離を詰め、刺突を繰り出した。オリヴィアは影を展開してどうにか攻撃を防ぎ、女の背後へと回り込む。


「クロル家の女性で立場があるなんて……嘘言ってるでしょ?」


 と、オリヴィアは耳元でささやいた。

 だが、女はすぐにその身を翻して距離を取り。


「嘘じゃありませんよ。私、神速のマティルデ・クロルは半吸血鬼猟兵の隊長でした。わかってくれました?」


 マティルデは慇懃無礼そうに名乗る。


「うん。どうでもいいってことはわかった。クロル家相手なら遠慮なく殺れる」


 マティルデの名乗りを聞き、オリヴィアはイデアを展開。まだ全開ではないが、これでもかなり大きな気配となる。マティルデは一瞬怯んだが、それで終わる彼女ではない。


「それはアナタと私で傷を共有しても?」


 マティルデがそういった瞬間。彼女の背後に鎖が現れ、オリヴィアとマティルデを繋いだ。


「何をしたの?」


 と、オリヴィア。


「愛の契りです。愛は与え愛、受け取り合うものでしょう」


 マティルデは不気味な笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ