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18 迷宮の抜け道

 さすが暗殺向けの系統というべきか、3A-066は身軽。ゼクスの腕の間を抜けたと思えば、隠し持っていたペン型のナイフを抜いた。


 押さえ込んでいたつもりのゼクスは対処が遅れた。3A-066はナイフを手にゼクスの背後へと回り込む。


「何がピークだって?」


 その一言とともに斬り込んだ。

 噴き上げる鮮血。3A-066の刃がゼクスの体を抉ったらしい。痛みを覚えてから気がついた。

 素早い3A-066はゼクスに一撃入れたと思えば距離を取る。


「クソが……」


 ゼクスはそうやって吐き捨てながらコンバットナイフを振るった――が、3A-066をとらえられない。コンバットナイフは空を切るばかり。いくらゼクスのナイフ術の練度が高くても当てられなければ意味がない。


「格と世代が違うんだよ」


 ゼクスが振るったナイフをかわし、3A-066はもう一度ナイフを入れる。が、ゼクスにその一撃は通らない。空気中の水が凍りつき、壁となって攻撃を防いだ。そこからゼクスは反撃に出た。


 辺りに冷気を振りまいた。その一角をより低温に。3A-066は低温の領域に足を踏み入れ――


「ああ゛っ!?」


 声を漏らす3A-066。眼球の水分が凍りつき、視界を奪われる。それだけではない。眼球の水分が凍りついた痛みは相当のもの。3A-066は両目を押さえて悶える。


「格が違う? そのままてめえに返すぜ」


 ゼクスは言った。

 元々戦って人を殺すために造られ、生まれてきたゼクスに慈悲はない。悶える3A-066に追撃、氷付けにした。


「……ったく、クローンを投入してくるのはわかったが暗殺タイプかよ。イデア使いになる前だと確実に殺されていたな」


 と言って、ゼクスは3A-066の亡骸を一瞥した。もしあのときアニムスの町でイデア能力を習得しなければ、彼のようになっていたのはゼクスかもしれない。


「とはいえ、生き残ったのは俺だ。こいつに聞きたいことはあったが6と8を間違える馬鹿だ……大した情報は……」


 ゼクスはそう言いかけて言葉を切った。

 辺りのイデアの気配が乱れた。イデア使いが放つ気配ではあるのだが、どうにも近くの人間が放ったようには思えない。

 通常、イデア使いの気配は使い手を核にして、辺縁へ行くに従って薄まる。例外的に端だけ気配が濃くなることもあるが、今の気配はそれとも違う。


 何が起きている。

 ゼクスに気配を探る手段はない。が、こうなる覚悟は暁城塞に突入したそのときからあった。

 ゼクスはひとまず先へ、南東へと進む。




 数が多すぎる。キルスティが麻酔を撃ち込んでも、撃ち込んでも、撃ち込んでも、撃ち込んでも。人の群れは止まらない。キルスティに近づけば倒れるというのに、彼らは恐れを知らないらしい。

 麻酔薬はそろそろ尽きそうだ。


「やれやれ……こうも大人数とは」


 キルスティは呟いた。

 麻酔が尽きればキルスティに残されたのは血染の鋏――その刃で触れるだけで人を殺す代物だけとなる。


 が、人の群れも途切れるときはある。今、下の階層からの人の群れがやんだ。これはチャンスだ。


(ツァン)! 下の階層に行く!」


 キルスティは叫ぶ。


「わかったよ。一瞬待って」


 と、蒼。

 彼はそう言うと相対していた中年男性の首をへし折って踵を返し。


 キルスティと蒼は下の階層へと移動した。


「危なかった……医者が罪のない人間を殺しちまうところだったぜ……」


 階層を移動し、誰もいないことを確認したキルスティは言った。


「優しいね、キルスティは」


「私のポリシーなんでね。悪人とクソジャンキーと死にたがり以外は殺さない。人殺しの医者なんて皮肉でしかないだろう」


 と、キルスティ。


「さて、蒼。迷ったみたいだ。道はわかるか?」


「目印があればわかるけど……あっ」


 蒼は何かに気付いたらしく、左側の道を見た。


「僕が……いや何でもないよ。エレインの手の者は抜け道を使っていたんだ。もし見つけられればすぐに向かえるはずだ」


 蒼は言った。


「抜け道……確かにこんな迷宮じゃよほどの記憶力と勘がないと迷うだろうな」


 と、キルスティ。


 2人はしばらく接敵することなく城塞の道を進んでいた。1つ上の階層にいた、操られた者たちさえいない。注意を払いながらこの階層を進み、できるならと抜け道を探す。

 抜け道は暁城塞によくある歯医者から伸びている。変に隠しているよりはわかりやすい。


 と、ここで蒼が立ち止まり。


「歯医者……多分ここだね」


 蒼は言った。

 立ち止まったところには歯医者があった。もちろん外にある歯医者のようなものではなく、手作りの雑な看板がぶら下がった店。


「わかりやすいっちゃわかりやすいが……野戦病院か?」


 キルスティは言った。


「いいや、ちゃんと歯医者だから。行こう」


 蒼にそう言われ、キルスティは蒼に続いて歯医者の中へ。


 店の中は、城塞の通路よりはるかに明るかった。とはいえ、清潔そうでないところもちらほら。例えば床に溜まった水だ。タイルこそ小綺麗だが、水溜まりがそれを台無しにしている。


「あいつらはこの先の……」

「誰に許可とって隠し通路を使おうって?」


 男の声。

 キルスティと蒼は身構えた。特に、蒼。彼は暁城塞の内部事情をキルスティよりよく知っている。


 その声とともに現れたのは、白衣を着た男だった。



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