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12 予期せぬ、あるいは仕組まれた再会

 オリヴィアにタスファイを任せ、アナベルは採掘所の方へと進む。ここで何者かが襲撃してくる気配はなく、町の人々はいつものように生活していた。どうやら、その中に潜むような者たちもいないらしい。


 立ち並ぶ建物の先に見えてきたのは、開けた場所。ここからは見えないが、アナベルは「そこ」がどうなっているのかは知っていた。

 クレーター周りの地面を抉るように穴が掘られ、そこから地下の鉱石を掘り出しているという。その穴からさらに掘り進んだ場所にまで人は出入りしている。


「……確かにこういうモノを勝手に横流しして武器を作ったりするのは想像に難くない。さて……もしやつらが絡んでいたら何をしているのかな?」


 アナベルはそう呟いて舌なめずりをした。

 彼女の目は完全に獲物を狩る肉食獣の目。彼女が狙うのは――カナリス・ルート。さらには、彼女自身が「看取りたい」と思った者すべて。それ以外には基本的に興味などない。


 採掘所への道を進み、アナベルはやがて目的地にたどり着く。


 ――いつぞやの採掘所と変わらないねえ。オリヴィアが先に行けと言ったけど私の目からは……


 アナベルはふと、左側を見た。

 離れており、声は聞こえないがそこにいたのはヨーラン。採掘所の先にあるクレーターを見ながら誰かと電話で話をしているようだった。


「……ヨーラン。ふうん、こういう目的だったんだ」


 と、アナベルは呟いた。

 彼女の声はヨーランには聞こえていない。が、ヨーランは何に気づいたのかアナベルの方をちらりと見た。


「了解だ。次は……に向かう。念のため聞くが……は……」


 アナベルに聞こえない程度の声でそう言って、ヨーランは電話を切った。そして、アナベルの方へと歩いてくる。

 ヨーランのその姿を見るなりアナベルは笑みを浮かべた。


「昨日ぶり。思わぬ再会だね……♡」


「……ずいぶんと猫を被っているな。それより、ぼくの言ったことを聞いていたのか?」


 アナベルに近づくとヨーランは言った。


「さあね。聞こえるような距離じゃなかったじゃないか。ま、秘密なら少し知ってみたくもあるかな……?」


 と、アナベルは言った。彼女の口調はヨーランを弄ぶようにも聞こえたが。


「聞き出してどうする気だ? 仮にぼくの得た情報がお前を命の危険に晒すことだってある。もしそうだとすれば、ぼくを追いかけてみるといい。面白いことが起きるぞ」


 ヨーランは言った。すると。


「それは面白いね♡ それより、私たちを消しに来た褐色肌の男を知っているかい? 君に事情があるように、私にも事情がある」


 アナベルがそう言った瞬間。これまでに戸惑う様子を見せなかったヨーランの表情がこわばった。彼がすぐに何かを言おうとした様子はなかったが――


「知っていると見たよ。もしかして、さっきの電話も褐色肌のイケメンくん相手だったりする?」


「お前は、踏み入れてはならない場所に足を踏み入れようとしている。これを知っては、生きる事も許されんな」


 ヨーランはそう言って、持っていたレイピアを抜刀する。それから1秒も経たないうちに、アナベルをめった刺しにしようとした。が、相対するアナベルも無策ではないし無力でもない。ヨーランが認識したときには彼の目の前から消えていた。


「答えはイエスってことかな?」


 アナベルの声は背後から聞こえる。ヨーランが向き直ろうとしたときにはもう遅い。ヨーランの首の周りに糸が巻きつけられ――


「……そっちか――」


 ヨーランの首が体から離れ、青白い地面に転がった。だが、それだけではヨーランの身体はまだ立ったまま。首が胴体から離れた感覚を知覚したヨーランは首に歩み寄ってそれを拾い上げた。


「やれやれ、首が取れると視界がわからなくなって非常にやりづらい」


 ヨーランは自身の生首を抱えてそう言うと、イデアを展開した。

 それは棺。棺の中から伸びてくる鎖がヨーランの四肢をとらえ、棺の中へと引きずり込む。アナベルはその様子をニヤニヤと笑いながら見ているだけ。特に手を出すこともなく、ヨーランを棺の中へと見送った。


「ふうん……面白いものを見たよ。君は死んでいるのかな? それとも、生きている?」


 と、アナベルは言った。


「問題だ。俺の肌から血色を感じるか? 瞳孔はどうだったか?」


 棺の中からヨーランの声がした。

 彼に問われ、アナベルは首を切り落とす前や車でセラフの町まで連れて来られるときのことを思い出す。アナベルが知っていたのは、紳士的な言動を繰り返しながらも何かを隠しているようだったヨーラン。その隠していたものの正体とは、電話で話していた相手とのつながり。そして――


 アナベルは隠していた別のことを察した。


「……そうかい、アンデッドにでもなったんだ。面白いね。より一層、君を看取りたくなった。最高のタイミングで刈り取ってあげないとね……?」


「それは面白いことだ。ぼくがこの棺から出てきたときにできるものなら首を落としてみるといい。できるものなら、な」


 棺の中から返ってきたのは挑発的な返答。

 アナベルが感じていたのは棺とヨーランの妙な気配。おそらくヨーランは当分棺の中から出てこない。アナベルは急速にヨーランへの興味を失ったのか、踵を返して採掘所を去るのだった。


「お預けを食らった気分だよ。あれじゃあ、再生までに時間がかかっていそうだ」


 アナベルは吐き捨てるように呟いた。


 ――その前にオリヴィアと合流しないとね?



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