10 罠の先に
作戦が決まるとリンジーは一行の前に出た。索敵向きのオリヴィアの能力は拒絶される。ならばリンジー以外に適役はいない。
リンジーはまず階段の上の方へ荊を伸ばした。このときからか。リンジーは荊をを伝う、イデア使いの気配を感じていた。
可能性は高い。
「さっそく当たりを引いたね」
と、リンジー。
「どうなるかわからないから気をつけてね。それっぽい気配を見つけたから攻撃してみるから」
リンジーはそう言うと、伸ばした荊を操作する。さらに分岐させて棘を増やし、気配を辿る。辿ったところで、叩き付ける。
「かかったか、バーカ。確かに3つに分かれるよりはましな選択だがよ」
リンジーはそんな声を耳にする。
はめられた。誘き出しには失敗した。リンジーは咄嗟に荊のイデアを消して叫ぶ。
「来る! 階段じゃない、後ろから!」
一行は後ろに気を回していなかった。が、本当に気を付けるべきは前でなく後ろ。
「なんか知らねえがぶっ殺せばいいんだろ」
真っ先に飛び出したのはゼクス。コンバットナイフを手に、襲撃者との距離を詰めた。
金属と金属がぶつかり合う音。ゼクスは口角を上げてさらに一撃。コンバットナイフが襲撃者のパーカーを切り裂いた――
「おいおいおいおい! よりによって第3世代クローンじゃねえかよ!」
と、ゼクス。
襲撃者はどこにでもいるような顔の男だったが、ゼクスにはその正体がわかった。襲撃者と全く同じ顔をした人間をすでに3度は見ているのだ。その特徴はといえば、薄い優しそうな顔に銀髪。
「第3世代は隠密が得意、だっけ?」
と、リンジー。
「おう。それだから気を付けろ。囲まれてるかもしれねえぜ」
ゼクスはリンジーと言葉を交わしながら、一撃をクローンの男に入れた。
「知られていたか。とはいえ、お前のような骨董品と一緒にしないでくれ」
クローンの男は言う。
「……骨董品……骨董品。てめえらはこれができねえだろ。俺のイデアを見てから言うんだな!」
ゼクスはそう言うとイデアを展開。それで辺りの温度が下がる。イデアこそ見えているが、クローンの男はその対処法がわかっていない。だから闇雲にゼクスに突っ込んだ。
ゼクスは笑いながらコンバットナイフで切り裂いた。手応えが彼の手に残るが、クローンの男の負った傷は深くない。
「リンジー! オリヴィア! 他のやつらも先に行け! ここは俺が引き受けるからよォ!」
と、叫ぶゼクス。
世代は違っても同じクローン。そんな相手を前にしてゼクスは昂っていた。その姿は危うさを感じさせるが。
「そうだね、ゼクスは強いからね。先に行くよ」
そう言ったのはリンジー。異論は許さないとでも言いたげな口調。ここにいた全員が物分かりのいい人だったので、一行は正面の廊下へ。
「お前はS系統の何号なのか? S系統の30号まではアニムスで全滅したと聞いた」
クローンの男は言う。
「ゼクスって名前から察しろ。それとも教養もクソもねえ馬鹿野郎か?」
と、ゼクス。
「っ……わかるさ! S系統の008号! S-008だろう!? ゼクスって8だろう!?」
クローンの男はそう言った。するとゼクスは呆れたような顔をした。
「違えよ。6だ、忘れるなら二度と口にすんじゃねえ」
と言って、コンバットナイフで切りかかる。かつてゼクスの命を狙ってきたミリアムのように。
だが、クローンの男はコンバットナイフを掻い潜り、白い塊を放った。炸裂弾だ。
炸裂弾により、白い光が辺りを包む。と、同時にゼクスの展開していたイデアが消える。それでもゼクスは怯まずにクローンの男に詰め寄った。だが。
「俺は第3世代。A系統の3A-066だよ」
クローンの男はそう言ってゼクスの背後に回り込んで蹴りを入れる。気配さえもゼクスには感じさせなかった。やはり3A-066は本物。正面からの戦闘には向かないとされる第3世代だが、その蹴りの強さにゼクスは認識を改めた。
殺す気でやる。
ゼクスは元々兵士だ。元となった人も傭兵で、ゼクスは戦うために生きているようなもの。
蹴られて転がされてすぐに、ゼクスは体勢を立て直す。暗殺紛いのことは、恐らく通用しない。だから正面からいく。
敵の得意不得意をそれとなく察したゼクス。彼が選んだのはタックル。少なくともゼクスは3A-066より正面からの戦闘が得意なはずだ。
「うっ……」
ゼクス渾身のタックルに3A-066はよろめき、声を漏らす。そのままゼクスは3A-066を押し倒す。
「案の定だ。Aは暗殺者のA。なら兵士のSの俺と違って、正面からの戦闘は得意じゃねえだろ」
ゼクスは3A-066に覆い被さるような姿勢でそう言った。
「なぜ……知っている? 俺より古いクローンのくせに」
と、3A-066。
「教養の違いだぜ。たかだか10年しか生きてねえようなてめぇと違って俺には経験がある。教えてくれるヤツもいる。俺は人間と全く変わらねえ」
ゼクスは言った。
「俺の方が世代は後だ! 世界に適応しているはずだ! ピークなんてなかったお前たちと違って」
「ピークは、今だぜ」
と、ゼクス。光が完全に晴れた時点で止めを刺そうとイデアを展開した。が、3A-066はゼクスの腕の間をするりと抜けた。
「でも俺の方が強いよ」
3A-066は言った。




