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7 迷宮突入

 暁城塞。緋塚の町の南に位置する、存在しないエリアとされている町である。半面、ここにはそれなりの高さの建造物が建てられ、中には10万人を超える人々が住んでいるという。

 少し近づいてみればその事前情報も間違いではないのだと、一行は悟る。


 実際に見る暁城塞は、一言で言うと建物の塊だった。そこに出入りする人々もいるようだったが、緋塚の町ほどではない。その景色を見たオリヴィアが口を開く。


「同じ存在しないはずの場所でも、マルクト区とは違うんだね」


「だな。秩序に関しては知らねえが、建物とか生活水準はこっちが上だろうな。マルクト区は、アングラの組織と鮮血の夜明団が関わってるとこ以外はほぼスラムだ。こっちはもうちっとマシらしいが……」


 キルスティは言う。マルクト区について言及しながら、彼女は出入りする人々を見る。

 確かにマルクト区の住人のように裸足ではない。安物であっても、何かしらの履物は履いている。


「真相は入ってみなけりゃわからないさ。ここが城塞の東側ってわけだが、どこから入るかい?」


 今度はエミーリアが言う。

 彼女が尋ねたのは、通り――とはいえない、未舗装の道に面したいくつかの店舗とその近くにある小さな入口のうち、どこから内部に入るかという話だ。


 この暁城塞はまさに建物の塊。当然ながら、入り口を通らなければ中には入れない。

 オリヴィアは迷宮――暁城塞を前にして一言。


「ちょっと構造を探ってみよっか」


 そう言ったオリヴィアはすでに何をするかを決めていた。

 イデアを展開。東の入り口から城塞の内部へと影を伸ばす。建物の塊である暁城塞であれば、オリヴィアの能力は特に制約を受けない。イデア使いの気配を探ることだって、内部の構造を確認することだって、簡単にできる。


 廊下は無数といっていいほどの分かれ道になっている。内部は暗く、じめじめしている。明かりはところどころに取り付けられているが、管理がずさんなのか明かりがつかないところも少なくない。

 人の数は多い。子供から大人、さらには老人まで、幅広い年齢の人々が城塞の中にいる。身なりもさまざまだ。安物のヨレヨレの服を着た者から、高そうな服を着た者まで。さらに、気配からイデア使いも住人の3分の1程度いるらしい。


「……なるほどね」


 オリヴィアは呟いた。


「何かわかったかい?」


 とエミーリア。


「うん。やっぱりこの暁城塞は迷宮。晃真の気配をまだ見つけられてはいないし、この迷宮ならしらみつぶしに探すなんて厳しい。住人は……本当にいろいろな人がいる。でもね、ここの人のうち3人に1人はイデア使い。お年寄りもいるけど、多分その人たちは無視していいと思う。だって、イデア使いは短命なんだから」


 オリヴィアは答えた。そしてさらに一言。


「ねえ、晃真を探すのは3人で別々にやった方がいいと思う?」


「それは避けた方がいい。戦闘、治療、索敵。それぞれに得意なことがあんだ、固まった方がやりやすい。それに、お前らが別行動時に重傷を負ったらどうすんだ」


 そう答えたのはキルスティ。彼女の傍らで、エミーリアも「確かに」と言うような顔をしていた。


「……そうだね。じゃあ、3人で行こう」


 と、オリヴィア。

 一行はオリヴィアを先頭に、一番近くの廊下から城塞に足を踏み入れた。


 迷宮・暁城塞。

 入ってしまえば、昼だというのに暗い。暗くてじめじめしているだけでなく、床にはところどころ水がたまっている。このような場所では衛生状態も悪いだろう。

 足を進めれば、水たまりを歩く音が廊下に響く。これは日常茶飯事なのか、多くの住民は興味を持つこともない。が、オリヴィアたちにとってはこれが好都合だった。


「襲われないのはいいね」


 オリヴィアは言った。

 彼女の言う通り、ここの住民は良くも悪くも外部から来た人間に無関心なところがある。城塞の中だけですべてが成り立っているのだろう。


「そうだな。で、どうだ。この先の状況は」


「それなんだけど……大きな気配が1つ。確認できた感じだと、黒髪で赤眼の……男の子。吸血鬼だったらわからないけど、10歳にならないくらいだと思うの。敵か味方かはわからないけど、わたしには気づいているみたい」


 と、オリヴィアは言った。


「よし、その気配があるルートは避けるぞ。晃真を取り戻す前に変に戦いたくないだろう」


 と、エミーリア。


「それなら、こっちだね」


 オリヴィアはそう言って左側を指す。

 左側にあったのは階段だ。オリヴィアが見た限りでは、イデア使いの少年は同じ階層にいる。避けるためならば、階層を移動してしまえばいい。そんなシンプルな考えだ。


「よし。オリヴィア、消耗に気を付けて迷宮の隅々まで……とは言わねえ。私らの近くをできる限り探ってほしい。どこに誰がいるのかも、な」


 キルスティは言った。

 一行は階段を上り、2階――とは言えないだろうが、新たなる階層へと移る。


 そんな一行の気配を別の場所から探知する者が2人。暗闇の中で、フードから出た水色の髪が揺れる。


「……やっぱり。本当に無茶なことをするんだから。ねえ、ゼクス」


「全くだぜ。俺もやっと全快したけどよお」



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