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5 魔境の辺縁

 オリヴィア一行は緋塚の町にたどりついた。

 パスカルがまず駅を出たところで口を開く。


「セーフハウスがあるのはこの町の閑静な住宅街。春月と同じく治安はさほど悪くないけど、暁城塞に近づいたら話は別ね。あそこは魔境だから」


 彼女も、道中で会った人も、暁城塞は魔境だと言う。セラフ支部のソニアに至っては「レムリアの北東は案件が異質だから魔境」とさえ言っていた。

 確かにそれは事実。緋塚の町でも春月のような怪奇現象が時折発生するのだ。


「暁城塞……魔境とはいうし、どんなところなんだろう」


 と、オリヴィアは淡々とした口調で言った。


 一行はそのままタクシーを拾ってセーフハウスへと向かう。いや、セーフハウスへ向かう前に、パスカルは食料品店の前でタクシーを降り。


「それじゃあ、私は買い出しに出るよ。天照の会長自ら出向いてくれるのだからね、もてなさないわけにはいかない。案内ならヒルダに任せるね」


 パスカルは言った。


「大丈夫か? ヒルダは一度オリヴィアやあんたに銃口を向けただろうが」


 と、キルスティ。


「大丈夫。もうこの子はしがらみから解放されたの。もしヒルダが裏切ったら、私を殺して」


 パスカルはそう言って店の中へすたすたと歩いて行った。

 彼女を止めようとするキルスティとエミーリアの傍ら、ヒルダが言う。


「運転手さん、そのままパスカルの言ったところで下ろしてね。私たちにも事情があるから」


「ああ……わかりました」


 と、運転手も何か思うところがあったようだが――


「詳しいことは着いてから話すね。だから、皆気にしなくていいから。皆には、私もパスカルも隠し事はしないよ」


 ヒルダは言った。

 キルスティとエミーリアは以前のことからヒルダを疑っていた。その一方でオリヴィアはヒルダの目をちらりと見た。どうやらヒルダは本当に嘘をついていないらしい。


「わかった。わたしはヒルダを信じるからね。多分嘘をついていないから。ヒルダは、わたしに銃口を向けたときの目をしてないから」


 オリヴィアは言った。

 彼女の言葉にキルスティとエミーリアは耳を疑った。だが、2人が言葉を口にする前にオリヴィアは続ける。


「疑いたくなるのもわかるよ。わたしだって、ヒルダがあんなことをするとは思わなかった。でもね、今のヒルダは違うしミリアムから事情を聞いている。だからもう疑わなくていい」


 オリヴィアの言葉に反論する者はいなかった。キルスティもエミーリアも納得したようだった。


 4人を乗せたタクシーはとあるビルの前で止まる。

 ヒルダが「ここだよ」と言い、オリヴィアたちもタクシーを降りる。


 まさかセーフハウスがこのような建物、あるいはこのビルの一角にあるとは事情をよく知らない3人の誰もが思っていなかった。が、実際は。


「……行ったね」


 そう言ったのは事情を知る側のヒルダ。


「着いてから話すって言ったよね? 実はまだ歩かないといけないんだよ。セーフハウスは部外者……運転手さんみたいな人には簡単に教えるわけにはいかない。だからね、ここで降りるってパスカルと決めてたんだ」


 と、ヒルダは言った。


「ああ、そういうことかい。確かに合理的な判断だよ。パスカルのやってることをわかっていれば想像に難くない。同じ立場なら、私だって同じことをするさ」


 そう言ったのはエミーリア。彼女の隣ではキルスティも頷いている。


 周囲の様子を確認しながら、オリヴィアたち4人はヒルダに案内されながら本当のセーフハウスへと向かった。




 翌日。

 パスカルはあの後、日が暮れる頃になってから戻ってきた。パスカルは両手にそれなりの量――ダンピール5人が4日程度しのげる程度の食料を持って戻ってきた。

 その食料の一部を使ってヒルダにケーキを焼かせ、今に至る。


「ばっちりね。昔、天照の会長にジェイド……ある天照の会員経由でパウンドケーキを差し入れたことがあるの。会長は気に入ってくれたみたいでしばらく私が毎日焼くはめになったんだけどね。あのときと同じレシピで焼いてもらったし会長は代わっていないから気に入ってくれるはず」


 盛りつけられたパウンドケーキを前にしてパスカルは言う。


「そうなんだ! ところで天照の会長さんって……」


 と、ヒルダ。


「伊勢咲耶。底の読めない人だけど、悪人とも善人とも言えない。言ってみれば愉快犯で救世主の……革命家……でもないね。でも、影響力はある」


 パスカルは答えた。


 しばらくすると、セーフハウスのインターホンが鳴った。

 パスカルは他の4人を押しのけるようにして、玄関へ。自分自身が対応しなければ機嫌を損ねる、と判断したパスカル。インターホンが鳴って30秒と経たないうちにドアを開ける。


 咲耶が来た。


「お久しぶりです、伊勢会長」


「おー、パスカルちゃんこそ久しぶりだねえ! 暁城塞に殴り込むんだって?」


 咲耶は軽いのりで話す。そんな彼女を前にしてパスカルは咲耶の地雷を踏みぬいてしまうことを恐れていた。戦闘力こそ高くないが、伊勢咲耶は絶対に起こらせてはいけない人物だ。


「そうですね。どうしても事情がありまして。とりあえず上がってください。伊勢会長が来るとのことだったので、アレも用意していますよ」


「ふうん……?」


 咲耶はそう言った。



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