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11 その能力は不完全

 オリヴィアを取り囲むように展開した影の手たち。それらは彼女にふりかかる水の槍を弾き飛ばした。そこから、彼女自身の陰からイデアを展開しなおし――


「何も私の能力が拘束するためなわけがないじゃない」


 今度は影の先端をとがらせる。目的は拘束ではない。タスファイはそれに気づいて再び水の槍を作り出す。それで影を防ごうと辺りに展開する。


 ――物量なら負ける、ね。せめて夜だったら。


 オリヴィアの展開した影が水の槍にはじかれて消える。やはり強い光のある状況では長くイデアを展開することはできない。オリヴィアはタスファイの隙を見て拳銃を拾う。まだ弾切れはしていないはずだから。


「だからそんなもので水の壁を貫通できるとでも思ってるのか?」


 タスファイはオリヴィアに合わせて水の扱い方を変える。ばら撒いたように展開していた槍から、タスファイを守る盾に。その直前にオリヴィアは発砲していたが――変形した方が早かった。弾丸は虚しくも水の盾にはじかれる。だが。


「だったら、どっちなの。私の手に引きちぎられるか、拘束されるか。見て来た限りそのどちらかになりそうなんだけど」


 オリヴィアは彼女自身の陰からいつでも攻撃できるようにしていた。


「どちらでもないな。お前は俺に歯が立たん。自覚しろ、お前が本当は弱いってことをな。たかがチンピラ相手にイキってんじゃねえ」


 と、タスファイ。

 するとオリヴィアはぎりりと歯を食いしばる。その感情に呼応するかのようにオリヴィアのイデアはコントロールを失いつつあった。

 そして。


「ふざけるなぁああああああッ! そうやっていたのは遊びだったの!? ねえ!? 冗談でしょおおおおおおお!?」


「容易く挑発に乗ってくれて何よりだ」


 イデアのコントロールがほぼ不可能になったオリヴィア。それに対し、タスファイは容赦なく水の槍を叩き込んだ。


 彼女の柔肌が傷つけられる。血が噴き出し、肉や骨が露出する。それでもタスファイは攻撃の手を止めない。オリヴィアが倒れるまで、水の槍を放ち続けていた。

 それはまさに、虐殺か拷問。その様子を見て離れてゆく者はいたが、オリヴィアを助けようとした者は誰一人としていなかった。


 ――痛い……もう楽になって、いいよね?


 全身を襲う痛み。攻撃を受けたときの突発的なものではなく、傷口がうずくような痛みまでもオリヴィアを苛んでいる。

 苦痛に耐えきれなくなったオリヴィアは意識を手放した。


「こんなのが俺の居場所を突き止めたのか。いや、俺はもしかしてはめられたのか……?」


 タスファイは何を思ったか、意識のないオリヴィアの方を見た。相変わらず彼女は倒れたまま。そこから立ち上がるわけもない。が、タスファイは何かを感じていた。


「この女は、囮か捨て駒として使われている?」


 そう呟くと、タスファイはアナベルが向かった方へ歩いて行った。




 倒れているオリヴィアのもとに晃真たちがやってきたのはそれから5分ほど後。

 晃真が目にしたのは文字通りズタズタにされたオリヴィア。手足、胴体のいたるところに裂傷や刺し傷があり、ひどいと骨や内臓が見えていた。


「オリヴィア……!?」


 晃真はオリヴィアの姿を見るなり駆け寄った。どうやらオリヴィアは死んだのではなくショック状態のようだった。だが、一目見ただけでは生きているとはわからなかったし何より出血が多い。このまま放っておけば、間違いなく死ぬ。

 細い息を繰り返すオリヴィアを前にして、晃真は叫んだ。


「キルスティ! 手を貸してくれ! オリヴィアが……!」


 すると、ビルの陰からキルスティが姿を現す。彼女も今の状況は理解していたようで。


「そう焦るな。私なら、その子を死なせないこともできる。まあ……あれだけ私たちを脅しておいていざ自分がおびき寄せる側となると……」


 キルスティは呆れながら言った。が、彼女も一応オリヴィアを生かすつもりはあるようだ。

 倒れたオリヴィアに近寄り、その体に手を触れる。


「ここでは傷口を塞いで出血を止める。体の内部の損傷は戻ってから治療するし、輸血のことも考えないといけない」


「……わかったよ」


 と、晃真。彼が見守る中で、キルスティはオリヴィアの傷を塞ぐ。手を触れて、薬のようなものを塗り込んでから、彼女の使うある技術を使う。

 すると、オリヴィアの身体につけられた傷は外からはわからないくらいには修復された。これで一目見ただけではオリヴィアがボロボロだとは気づかれない。


「それじゃ、ジャンケンして負けた方がオリヴィアは拠点に運ぶってことで」


 キルスティは言った。


「いや、そんなこと言わなくても俺が運ぶから……」


 晃真はそう言ってオリヴィアを抱きかかえる。そこからキルスティたちが拠点としている場所――あのカフェに向かうのだ。


「じゃあ、よろしく。ところでアナベルは?」


 キルスティは晃真に尋ねた。


「いや、知らない。別行動でもしているんじゃないか?」


「それならいいか。正直、オリヴィアが死ぬところは想像できてもアナベルが死ぬところは想像できない」


 と、キルスティはさらりと言った。やがて2人は拠点としているカフェにたどり着く。




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