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4 『天照』の伊勢咲耶

 行き先は決まった。

 オリヴィア一行は早々にオリジンの町を発った。セラフ支部に寄るかどうかの話にもなったが、エミーリアの一言で寄らないことになった。


「知ってるよ。鮮血の夜明団がクソだってことはねぇ。やつらとしては人のためだろうが、ありゃ独善的な価値観でしかないんだよ」


 エミーリアはそう言った。

 彼女の過去について、一行では誰も詮索しなかった。誰もが過去、エミーリアの身に起きたことを察したからだ。

 確かに鮮血の夜明団には杏奈や悠平のような人格者もいるが、もとはといえば金の亡者の傭兵集団だった。その理念を引き継いだのか、今でも邪魔者は殺せばいいと考える者が少なくない。加えて、メンバーの少なくとも半分くらいはゴロツキのような倫理観しか持ち合わせていないという。


「……ああ、違いないぜ。その手の組織ならまだマシなところがある」


 と、キルスティは言った。


 一行はオリジンの町から緋塚――暁城塞の最寄りの町に行く列車に乗った。その列車の中で、今度はパスカルが口を開いた。


「天照って知ってる?」


 彼女の口から出た『天照』という言葉。


「聞いたことはある。吸血鬼を狩る組織だそうじゃないか」


 エミーリアは言った。


「そうね。鮮血の夜明団と似ているけれど少し違う。彼らは邪魔だからといって人を安易に殺すことはない。介入した後の事は考えてる。何より会長によるワンマン運営だから派閥がない。そういうところよ、天照は」


 パスカルは続けた。


「その天照が緋塚の町にあるというの?」


 今度はオリヴィアが言う。


「いいや、本拠地も不明。あるかどうかすらわからないの。ただ、会長の伊勢咲耶が緋塚にいるし……天照の構成員とアポイントがとれたの」


 パスカルは答えた。


「で、伊勢会長が私たちのセーフハウスに来てくれるんだって」


 付け加えるヒルダ。


 セーフハウスの存在は、オリヴィアやエミーリアも聞かされていた。何でもパスカルが助けたダンピールを保護する場所で、緋塚の町を含めたレムリア大陸の5つの町にあるとのことだ。


「会長……偉い人がわざわざ来てくれるのね。何か裏があったりは……」

「リスクを承知の上でやんだよ。伊勢咲耶はヒルダと同程度の強さ。私らなら間違いなく勝てるぜ」


 キルスティがオリヴィアの言葉を遮った。


「うん。キルスティの言う通りだね。とはいえ、アポイントが取れた人的に大丈夫だとは思うの」


 そう言ったのはパスカル。彼女は件の人を信じていたようだった。




 ある暗い部屋の奥、その女は血のような色のワインを口にしていた。彼女の名は伊勢咲耶。対吸血鬼の秘密組織・天照の会長である。


「おはよう、咲耶会長。面白いことをしてくれそうな子たちに連絡してみたよ」


 部屋に入ってくるなりそう言ったのは陽葵。あの鮮血の夜明団の一員として昴と戦った陽葵だ。


「オリヴィアちゃんたちねー。いいよねえ、秩序を壊してくれそう。やっぱり秩序がカッチリしてると息が詰まっちゃうからね」


 咲耶は言った。

 彼女に室内の照明が当たる。咲耶の髪はクロル家の血を引いているかのように美しい銀色。肌は雪のように白く、その瞳は左右で色が違っていた。特筆すべきは左目が吸血鬼の目と同じ色をしている。


「ねえ、陽葵。君もそう思うでしょ」


 と、咲耶は念を押すように言う。

 戦闘力は低くても、咲耶には他人を屈服させるような何かがあった。陽葵は咲耶の圧に押されて言う。


「そう……ですね。ところで本当に出向くんです? 危険ですよ?」


 陽葵は言った。

 この陽葵でさえ咲耶には敬語を使う。咲耶はそれほどの人だ。


「もちろん。できることなら私の天照に引き入れちゃいたいよね。強いし、殺さない方法を模索しているみたいだし。見込みがあるよ♪」


 咲耶は言った。


「暁城塞については私も思うことがあってねえ。ほら、エレインとかいう子? いつからかわからないけど変なことしてるじゃないか。もしできるなら彼女も私の軍門に下ってほしいんだけどね」


 そう続ける咲耶。彼女の目は笑っていない。咲耶とエレインの間に何があったのか、陽葵も気になったが――陽葵はこういったことを考えることが苦手だ。


「エレインが死んでも文句言わないでくださいね?」


 陽葵はただそれだけを言う。


「わかってるよ。別にどうしてもエレインが欲しいわけじゃないから」


「それじゃあ、私は暁城塞に行く準備を整えてきますね。暁城塞の内部のことも調べないといけないから」


 と言って、陽葵は外に出ようとした。

 だが、咲耶は陽葵を呼び止める。


「あー、ちょっと待ってね? 暁城塞のことを探っておきたいからさ、あと3人くらい起用しようかなって」


「あと3人て……」


「大丈夫。陽葵は戦いの準備をしていればいいから」


 ふっ、と咲耶は口角を上げる。

 悪だくみだ。陽葵は察したが、何も言わない。咲耶はたとえちょっとした悪だくみでも周囲の力を借りて成し遂げる。そういう人だ。



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