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1 女神について

 迎え入れられたようだったが、オリヴィアたちはセラフ支部からすれば部外者だった。


 晃真はカナリス・ルートの人間に連れ去られた。が、犯人は確保できて連続殺人事件も解決。セラフ支部は賑やかで浮わついた様子だった。

 きっかけはあるメンバーの一言だった。犯人が言うには、もう他の犯人はいない。ソニアが疑ったが、実際に事件は終息。イデア使いが殺されることは、ひとまずは無くなった。

 晃真が連れ去られたことを知らずに、件のメンバーは周囲を巻き込んでしまったという。


 当然ながらオリヴィアはその空気についていけず、ひとりセラフクレーターにやって来ていた。


 セラフクレーターはセラフの町北部から広がる大きなクレーター。ここでは工員たちが燃料として使われる、青色の鉱石を採掘しているらしい。


「……ここに来てみたはいいけれど」


 美しいクレーターの景色を見ても心は晴れない。当然だ。オリヴィアにとって大切な人が連れ去られ、今や安否もわからない。オリヴィアはため息をついてただ遠くを見つめる。

 そうしたところで見つかるわけもないのだが、今はとにかくそうしていたい。ひとりでいたい。


「……探さないと。晃真はわたしを助けてくれたんだから、今度はわたしが助けないと」


「晃真がどうしたって?」


 彼女の独り言に反応したのか、別の人――女の声。その女はセラフ支部に一度、リンジーとともに訪れていた女。赤い帽子と黒髪、赤い服の長身の女。


「ええと、あなたは……」

「陽乃。羽黒陽乃だ。お前、人探しでもすんのか?」


 陽乃が尋ねる。


「したいよ、できれば。まずは情報がないといけないけどね」


 と、オリヴィアは焦った口調で答えた。

 当然だ。晃真を連れ去られたのだ。


「ほお……情報なあ? 私にツテがある。手段を選ばないならついてきな」


「手段?」


 オリヴィアは聞き返す。


「お前は占いを信じるか? レムリアには占いを信じるやつと信じねえやつがいる。そいつは、私に2通りの道を示してよ、だからリンジーに協力した。面白そうだったしな」


 陽乃は言った。

 これが、昴の腹心――彼の腹心だと思っていた陽乃がリンジーについた理由だった。そして、オリヴィアの考えを探っている。粗暴な性格の彼女でも、すべて考えなしにやるわけではないらしい。彼女はこう見えて思慮深い。


「興味はある。占いなんて触れたことないけど、イデア能力にそういうのがあってもおかしくないと思うし……」


 と、オリヴィア。


「ああ……違いねえ」


「でも、パスカルたちに何も言わずにいなくなるわけにはいかない。だから、少し待ってくれる?」


 オリヴィアは続けた。


「あの赤髪の女か。どうも偽善者臭ぇが、構わねえ。私より強いからな。1日待ってやる」


 陽乃は答えた。


「うん。ひとつだけ聞いてもいい? その占い師の名前は?」


「聞いてどうする?」


 と、陽乃。


「カナリス・ルートの手の人じゃないか知りたいだけ。鮮血の夜明団もカナリス・ルートの息がかかっているみたいなの」


 オリヴィアは言った。

 彼女の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる陽乃。だが、納得はしたようで。


「クソが……昴を喪ってから想像以上に手が早い」


 陽乃はそうやって言葉を吐き捨てた。そして。


「占い師の名前はレクサ。黒づくめの怪しい女占い師だが、腕はいい。カナリス・ルートにも接触してねえ。まあ、胡散臭くはあるがな」


 と、陽乃は言った。


「なら、わたしは信用するよ。だって敵じゃないんでしょ? 敵でも死なない程度に痛めつけたらある程度の情報は吐いてくれそうだけど」


 オリヴィアは言った。


「プリンセス・レクサは敵じゃねえが、そんなに甘くねえよ」


 陽乃は苦笑いしながらそう吐き捨てた。




 オリヴィアは陽乃と会った後、セラフ支部に戻る。やはりセラフ支部は完全に事件が解決したような空気だったが、パスカルたちに関してはそうではないようだ。


「やっぱり晃真のこと……」


 と、オリヴィアは呟いた。

 やはり早く晃真を探さなくてはならない。オリヴィアはそう決意してパスカルに声をかけた。


「パスカル……晃真を探そう……じゃない、迎えに行こう」


「あの状況の後に晃真が連れ去られたのだからね。貴女がそう思うのも無理はない」


 パスカルは答えた。


「貴女はかなり焦っているけど……いえ、何でもない。これは貴女にかけるべき言葉じゃないね」


「パスカルはどうなの? わたしが晃真を迎えに行きたいってこと」


 と、オリヴィアは尋ねる。

 今は答えがほしい。たとえパスカルが断っても、オリヴィアはひとりで――パスカルたちと別れてでも行くつもりだった。


「貴女には晃真がいる方がいい。キルスティだって晃真の奪還を望んでいる。行きましょ、オリヴィア」


 パスカルは言った。オリヴィアの予想に反する答えだった。


「いいの?」

「勿論。特に貴女にとって大切な人でしょう?」


 と言ってパスカルは微笑む。

 やることは決まった。パスカルが占いを信じる人であればそれでいい。



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