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25 リベンジ

 現場にてオリヴィアは3人の姿をとらえた。まずタスファイは水のイデアを展開し、シェルトの姿をした男と戦っている。シェルトは黒い大鎌を手にタスファイを殺そうとしているが、タスファイは難なく防いでいる。そしてシェルトの鳩尾には火傷のようなものがある。晃真は――血を流して倒れていた。3人の戦いの中で最初の脱落者となったようだ。

 よりによって晃真が。


「……晃真! 今すぐ仇は取るからね!」


 オリヴィアはそう言って戦場へと乱入する。一帯にイデアを展開し、影の刃を放つ。

 夜のオリヴィアは強い。それだけではなく、オリヴィアはこの旅で強くなった。ヨーランを殺すことはできなかったが、殺せば死ぬ相手ならばそこまで苦戦はしないだろう。


「本当に生きていたのか。あの状態から生還するとは、一体どれほどの悪運か……」


 と言いながら影の刃を避ける。が、避けた先にもまた刃。タスファイは持っていた三又の槍で影を弾き返し、攻撃に移る。水を展開してオリヴィアにぶつける。いくら影を操る力があろうとも、溺死させてしまえばいい。


 対するオリヴィアは影でドームを形作り、水を完全に防ぐ。


「……そんなもの、もう通用しない。わたしは……同じ相手に二度も負けないから」


 影の中でオリヴィアは言った。程なくして影の帳は霧散し、オリヴィアは再び戦場へ。それを待っていたかのようにヨーランは水の渦を放った。晃真の肉体を傷つけたように――


 対してオリヴィアは水の渦を避けた。避けて影の刃を放った。が、刃はタスファイが水の三又の槍で軌道を変え――シェルトを滅多刺しにすることとなった。


「あ……犯人……」


 オリヴィアが声を漏らし、それが隙となる。彼女の隙を見逃さなかったタスファイ。オリヴィアとの距離を一気に詰めて、槍での突きを繰り出した。槍がオリヴィアの脇腹を穿つ。その痛みでオリヴィアは引き戻されたようで。


「……そうだった。この人も」


 と、オリヴィアは呟いてターゲットをタスファイに絞る。


 傷は塞いだ。今度は正面からタスファイに影の刃を放った。


「ああそうか、人は成長するんだったな」


 タスファイは呟き、影の刃の軌道を逸らす。その勢いで水の塊を展開してオリヴィアにぶつけた。が――タスファイの言うようにオリヴィアは成長した。水の塊に取り込まれる寸前、オリヴィアは影の繭を作り、中に身を潜める。これで溺死はまぬかれた。


 ――うまくいった。あとは……


 当然だが、オリヴィアの周りに広がるのは堅牢な闇。闇は外の気配、音、その他すべてを拒絶する。影を伸ばして様子を探ることすらできない。できることは影を無差別に伸ばすのみ――


 やるしかない。


 オリヴィアは影の刃をいくつも作り出し、無差別に近くの立っている者を攻撃。そのタイミングで影の繭から脱出した。


 夜空が見える。水飛沫が頬を撃つ。目の端で捉えた視界には水の塊がある。どうやら抜け出せたらしい。


「やはり対策してきたか!」


 と、タスファイ。

 彼はオリヴィアの目の前に現れ。水のナイフを放つ。三又の槍とは違う、彼の武器だ。


「っ……!」


 避けられないし防げもしない。

 水のナイフはオリヴィアの皮膚を切り裂いた。痛みに顔をしかめながら、オリヴィアは影の刃を放つ。


「ワンパターンな攻撃だな。そこは成長していないらしい――」


 その声とともに、タスファイは水の渦を放った。

 オリヴィアが完全に隙を突かれる形となった。


 水の渦に吹き飛ばされる中でオリヴィアの脳裏にヨーランの姿とある言葉がちらついた。


 ――イデア界にでも達してみろ。


「イデア界……能力の世界ってことなの……?」


 オリヴィアは咳き込みながら言った。


 まだ戦える。あの時以上にオリヴィアは戦えている。が、タスファイはあの時本気を出していなかったのだろう。ハリソンや麗華を上回る強さを見せている。

 オリヴィアは今、口の中に血の味を感じた。不思議と気持ち悪さはない。これは――オリヴィアを産んだ吸血鬼を思い起こさせる。そして、血の味はオリヴィアに様々なことを思い出させた。


 ――勝てる?


 ――あの時より強い?


 ――イデア界に到達する?


 ――オリヴィアの能力は不完全?


「……考えてもわからないか。わからないなら、イデアに到達せずとも、あいつを殺す」


 と言って、オリヴィアは口の中の血と砂を吐き出した。闘志は消えていない。だからオリヴィアは立ち上がる。


 ――わたしが影になる。


 オリヴィアは一周回って冷静になり、影を通じて様子を探る。晃真も犯人もまだ生きている。ならばまだ間に合う。タスファイを倒すことができれば。

 影を建物の近くからタスファイの足元へ。足元から、タスファイへ。ここからならば、殺せる――


「わたしは、諦めないよ。パスカルとキルスティに倣って」


 その声とともに影の刃がタスファイを、身体の下から穿つ。鮮血が夜の虚空を舞った。


「これが成長か……だが、戦士として許せたことではない……!」


 血を流しながらタスファイは言った。



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