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24 真紅の花火

 空に真紅の花火が上がった。これは信号弾。犯人を見つけたか、調査中に何かに巻き込まれたときに打ち上げるものだ。少なくとも晃真や初音とはそう話し合って決めた。

 オリヴィアは何かがあったことを確信。それだけでなく、晃真が危機にさらされていることを悟る。


「急がないと。晃真が殺されでもしたら、わたし……」


 オリヴィアは呟いた。

 オリヴィアとヒルダの2人はついさっきヨーランと遭遇し、戦闘になった。不死性を見せたヨーランを破れずに苦戦していた2人だったが、ゼクスの助太刀もあって今もこうして先へと進めている。


「大丈夫だよ! 晃真はカナリス・ルートの人を1人たおしてるんでしょ?」


 ヒルダは言った。彼女の言う事は事実だったが、晃真の能力はたまに無効化される。エピックの町の教会で戦ったときもそうだった。


「だといいんだけど……」


 と、オリヴィア。


 場所は近付いている。

 真紅の信号弾が打ち上げられた場所には3つの強い気配が集まっている。1つはおそらく晃真。残り2つのどちらかが犯人だろう。そして、集まってぶつかり合って新たな気配が現れては消えているところから恐らくは3人が戦っていることになる。


「忘れてた。様子を探ってみるね。3人が誰なのか確かめておきたい」


 オリヴィアはイデアの展開範囲を広げ、3人の気配がある場所まで伸ばす。こうすればイデア経由で3人の正体を確かめることができるわけだが――


「嘘……でしょ……どうして八幡昴が生きているの?」


 オリヴィアは声を漏らす。

 影を通じてオリヴィアが見た者たちは晃真に加え、タスファイ、昴。だが、昴は晃真が春月で殺しており、今や生きているはずがない。オリヴィアは冷静になり、昴は偽者だと判断した。こうでなければ説明がつかない。錬金術という技術があるが、人を生前と全く同じ姿に生き返らせることは未だに成功していない。キルスティだってそう言っていた。


「……いや、昴は死んだ。あの人はなりすまし、偽者。水使いだってそう言っている。わたしをセラフの町で負かしてくれたあの水使い……タスファイ……」


 と、オリヴィア。

 口調は冷静だが、感情は昂っている。このまま進めば犯人の確保とタスファイとの戦闘の両方ができる。問題はどちらを優先するか。


「オリヴィア?」


 ヒルダは言った。


「大丈夫、この事件については今夜終わらせるから」


 オリヴィアは答えた。迷いこそあるが、覚悟自体はそこにあった。




 空に打ち上げられた信号弾を見たのはオリヴィアだけではない。アサドとエミーリアはそれぞれ、セラフ支部のバルコニーと屋上から信号弾を見た。深紅の信号弾は何かが起きた証。すぐに動かなくてはならない。

 2人はバルコニーと屋上から待機場所へと向かう。


「信号弾が打ち上げられた! 何かあったのは間違いない、すぐに援軍を!」


 と、エミーリア。

 彼女の到着から少し遅れてアサドも待機場所へ。そのときにはすでに初音がセラフ支部を出ようとしていた。


「あ……エミーリアさん、報告の方はしてくださいましたか。ありがとうございます」


 アサドは言った。見張り場所からの距離はバルコニーの方が近かったが、やはり足の速さでダンピールには勝てないのだろう。


「礼には及ばないさ。それより、初音が出る。あんたにはさっきと同じく指示をだしてもらいたい」


 エミーリアは言った。


「わかりました。他に指示を出せる人がいないのなら……」


 と、アサド。

 その傍らで初音は待機場所を出た。これからセラフの町に出るらしい。そんな彼女を待機している面々は見送った。


「医療班は忙しくなりそうですね。うちの医療班が7人とキルスティさん。足りるとは思いますが病床の確保をしてもらいましょう。パスカルさんはまた連絡が入れば出てください。先ほど初音さんが出ましたが現場の状況が不透明な以上あまり動かせません」


 アサドは言う。


「違いないね。行くべきか迷っていたところだけれど……」


 と、パスカル。彼女に続き、エミーリアも口を開いた。


「医療班に連絡を取ってみようかい? この非常事態での現状は把握しておくべきだよ」


「お願いします。こちらの医療班で錬金術を使えるのは1名。他は処置ができる程度です」


 エミーリアに聞かれるとアサドは言う。

 さっそくエミーリアは携帯端末を手に取り、キルスティに電話をかける。エミーリアは信頼されているのだろう、忙しい中でもキルスティは電話に出た。


『どうした?』


「続報だ。信号弾での報告だから詳しいことはわからないが、何かあったのは確実だ。病床はどうだい?」


 エミーリアは尋ねた。


『手術ができそうなところが3つ、療養用のが10だな。今確保できているのはそれくらい。実働部隊の人数からこれくらいでいいとは思うが、問題は警備側に被害が出たときだ』


 と、キルスティ。


『私のモットーは博愛。これまでにかかわったこともないセラフ支部の人だろうが助けたいんだよ。できる事なら犯人も』


「あんた、変わったねぇ。昔は抵抗なく人を殺していたというのに」


『殺したからこそだよ。殺した連中のバックグラウンドは違うけどよお。生きてたってことには変わりねえよ。犯人を殺さずに確保できるならしてくれって伝えてくれ』


 と、キルスティ。

 エミーリアは承諾し、電話を切った。


「アサド。これは私からの……いや、キルスティからの頼みだ。犯人も死なせないでほしい。伝えてくれ、今出ているメンバーにね」


 エミーリアはアサドに言った。


「ええ……まあ、わかりました。彼も裁かれなくてはならないでしょうから」


 アサドは言った。


 ――犯人は傷つけてもいいが、できる限り殺さないこと。たとえ極悪人でも、裁かれて死刑が確定、執行されるまでは生きる権利がある。



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