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21 闇の中の3つの気配

 道中でヒルダが口を開く。


「感じるよ。動いてるイデア使いの気配が3つ。うち1つはバカみたいに大きくてピリピリするし、1つはぶれている感じだし、1つは……本当に生きているの……?」


 この特徴のうち、2つはオリヴィアに覚えがあった。1つはカナリス・ルート構成員など、強い者の気配。もう1つは生ける死人ともいえる、ヨーラン。


「生きているかわからない気配……ヨーランかな。2回くらい会ってるから覚えたけど、やっぱり生きてるかわからないよね」


 オリヴィアは言った。


「追うならどれだと思う?」


 ヒルダは聞き返す。


「不安定な気配一択かな。大きな気配は……多分カナリス・ルート。追いたい気配ではあるけど、今はその時じゃない」


「わかったよ。向かってるのは……駅? 出たいのかな、この町から」


 ヒルダは言った。

 2人は不安定な気配を追って駅側へ。晃真とはセラフ支部を出たあたりで別行動を取ることになったので、そこで一度別れた。互いに何か変わったことがあれば連絡するということにはなっている。


 少し進んだところでヒルダが立ち止まる。


「リンジー……?」


 ヒルダは呟いた。どうやら近くの、セラフの町全体に張り巡らされたような気配を感じ取ったらしい。オリヴィアは、違和感自体は持っていたが、これが誰かの気配とまではわからなかった。


「あー、さすがミリアムの妹さん。探りにくい形で展開してたけど、すぐに気付くなんてね」


 リンジーの声だ。

 3秒もせずに路地から現れるリンジー。いつものようにフードを被ってはいるが、今回はパーカーではない外套をその身に纏っている。姿を隠したいのだろう。


「オリヴィア、手を貸そうか?」


 と、リンジーは言った。


「状況はわかってるの?」


 聞き返すオリヴィア。


「一応はね。人数について確証は持てないけど、犯人はまだいる。あたしはそういう認識でいるよ」


 うん、わたしも同じようなことを聞いた。わたしの場合は犯人を見つけたって話だけど」


 と、オリヴィア。


「なら話は早いね。あたしも犯人を追ってるんだ。捕まえた2人から聞き出した情報があってね」


 リンジーは言った。


「あたしの能力は索敵向きだ。誰かを探すってなれば活躍はできると思う。展開範囲だってこう広いから」


 と続けるリンジー。彼女の能力について、オリヴィアはある程度知っていた。展開範囲の広さやここではないどこかへの干渉能力。一方で探知能力についてはオリヴィアも知らなかった。


「リンジーなら、信じるよ。おそらく不安定な気配が犯人だと思う。わたしはまだ感知できてないけど」


 オリヴィアは言った。


「なるほどね。大きいピリピリした気配も感知してるけど、あれは違うんだよね。カナリス・ルートでしょ」


 と、リンジー。

 どうやら彼女も気付いていたようで、その2人が何者なのかもあらかた目星はついているらしい。


「行こう。わたしとオリヴィアが西から回り込むね。リンジーは東からお願い」


「オリヴィアがそう言うなら」


 一度町中で顔を会わせたオリヴィアとリンジーだったが、別々の方向から狙うこととした。


 リンジーとわかれてから犯人――ジョン・ドゥを追うこと十数分。ヒルダは近付く別の気配を感知した。それはヨーラン。ジョンを追っていたはずのヨーランは、狙いをこちらに変えたらしい。


「来る!」


 と、ヒルダ。

 ヨーランはこちらに害をなさないだろうと考えたことが愚かだった。


 闇に紛れ、死の騎士は迫る。

 闇の中で鋭く輝く切っ先。彼は生気を感じさせることなく夜闇から現れた。


「……っ!」


 斬撃を影が阻む。

 その先にいたのは紛れもなくヨーランその人。正気のない青白い、だが絶世の美男子と言えるほどに整った顔。異質な気配。間違いない。


「うそ……ヨーランは……」


 と、ヒルダは声を漏らす。


「悪いな。ぼくの正体は君たちの敵だ。特にオリヴィア……騙して悪かった」


 ヨーランはオリヴィアから数歩離れて言う。

 そしてオリヴィア。ヒルダとは対照的に、ヨーランの襲撃に驚いてはいない。


「やっぱり……疑ってよかった。シンラクロスでのあれは、マッチポンプだと思ったの」


 オリヴィアは言った。

 事実、彼女はヨーランのことを疑っていた。ヨーランはオリヴィアの行く先に現れては戦況を乱す。乱したうえでオリヴィアには寄り添わない。何かに責任感を持っているようなのに、オリヴィアに対しての姿勢はそうではない。

 だからオリヴィアはヨーランを疑い、身辺調査まで依頼した。


「マッチポンプ……あんたから見ればそうだろう。が、ぼくにはすべきことがあった」


 と言ってヨーランは斬りかかる。オリヴィアは左手に影を纏って剣を防ぐ。

 ヨーランの斬撃はその体格に見合わないほど重く鋭い。のけぞりながらオリヴィアは影の刃を伸ばし、ヨーランの攻撃をやめさせようとした。が、実質的に不死のヨーランにそのようなことは通用しない。ヨーランの畳み掛けるような攻撃を、オリヴィアはどうにかかわして距離を取り。


「あなた、アンデッドなの……? 7年前のあの町にいたような……」


 オリヴィアは言った。


「そうだと言ったらどうする?」


 ヨーランは言った。


「さて、『私』の話を聴いてもらおうか。カナリス・ルートの敵たる君に」

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