18 ミスリード
「自分で考えるといい」
拷問されたアルマンドは言った。体のあちらこちらの肉を削がれ、意識を保っていられるというのも奇跡というほどだが、これでもアルマンドは口を割らない。だからミランは標的をエミルに移す。
「エミル……お前は口を割るかな……?」
と、ミラン。これまでミランはエミルに剣を向けることなどなかった。親衛隊だった頃も散々拷問をしたものの、子供の拷問は心が痛む。だからアルマンドの拷問をエミルに見せつけた。
「アルマンド……」
エミルは呟いた。
「次は脊椎か。お前が口を割らなければ、アルマンドは脊椎を見せてくれるそうだ。加えて神経をいくつか切ってアルマンドはこれから糞尿すべて垂れ流しの、人間の尊厳もない姿となる。お前は、仲間のそんな姿を見たいかな?」
と、ミラン。
「……っ!」
声にならない声。エミルはアルマンドに指示を仰ぐかのように見たが、当のアルマンドは気付かないふりをしている。
「沈黙はイエスと取るが」
「いいよ、アルマンドをこれ以上痛め付けるな。アルマンドは少しの失敗であれだけ……」
エミルの声は震えていた。
「ちゃんと話すからアルマンドを放してよ。可哀想だよ」
これがエミルの本心だった。エミルはアルマンドの傷つく姿を見ていられなかったのだ。
「……そうか。エミル、残りの協力者は?」
その言葉とともにミランは表情が変わり、ミリアムに戻る。が、抜いた剣を鞘には納めない。あくまで拷問を中断したにすぎず、いずれ始めるつもひだ。
「あと1人だよ。間違いない。でも本当の顔はわからない。あの人は、会うたびに顔が変わるんだ……」
と、エミルは言った。
彼の言葉が嘘か真実か。ミリアムは疑いつつも剣を鞘に納め。
「それが嘘ならばお前たちには死よりも恐ろしい目に遭ってもらおうか」
それだけを言って部屋を出た。
時を同じくして、セラフの町のとあるバー。事件は解決していると考えたナジュドはソニアとともに飲みに出ていた。
ここは連続殺人事件の現場『ダンシング・ヴァンパイア』とは違う、その人に合わせたカクテルが有名なバーだ。ナジュドとソニアはそれ目的にやってきたのだ。
ナジュドはソニアとともにカウンターに座り、注文する。
「マスター、オーダーメイド2つでよろしく」
と、ナジュド。
「はいよ、支部長。事件の方はどうなったんだい?」
髭の似合う中年のマスターは言う。
「ひとまずは解決したな。予想外の人たちが犯人を捕まえてくれてな、後は彼女らの身辺調査ってところだ」
「それならよかった。イデア使いを狙った犯行ということで君たちが狙われると不安でね」
と言って、マスターは店の奥へ。
一方のソニア。彼女の隣にいるナジュドはこの調子だが、彼女はといえば不安が拭えないでいた。まだ何か忘れている。
「支部長。本当にこれで良いのでしょうか?」
ソニアは呟いた。
「ねえ、支部長。もしマスターが私達に毒を盛るとなれば……」
「そんなこと、あるか? 犯人はすでに捕まったはずだぞ?」
ソニアが尋ねるとナジュドは言った。だから節穴なんですよ、と言いかけるもソニアは言葉を飲み込む。相手は支部長、自分より権力のある相手だ。
「すみません、お手洗いに行ってきます」
ソニアは席をたち、トイレへ――トイレに限らず、店の中を探る。
そこは、隠し倉庫だった。店員しか入れないはずの場所に入り込んだソニアはさらに隠し扉を偶然見つけ、中へ。その結果が隠し倉庫だ。そして、ポールギャグと目隠しをされたうえで、ロープで拘束された中年の男がいた。
ソニアは急いで男のポールギャグと目隠しを外し。
「マスター、貴方はマスターですよね?」
と、ソニアは言った。
「……セラフ支部のソニアか。よく私を見つけてくれた」
「女の勘です。それより、貴方に何があったんですか? ああやって成り代わられて」
ソニアは尋ねた。
「私もわからないな。背後から殴られて気がついたらこうだ。どうも私がいると不都合なようでね」
マスターは答えた。
「そういうことですか。今から全部ほどきますから少し待ってくださいね」
ソニアはマスターを縛るロープをほどきはじめた。隠し部屋の外の様子に気を向けながら。
部屋の外にはこのバーのマスターをかたる人物がいる。そいつは確かにマスターと全く同じ姿をしており、話し方もいつものマスターと同じだった。
恐らくそいつは――
場所はバーの中に移る。ここにいるマスターは2人分のカクテル――ソニア用の白いカクテルとナジュド用の上が黒くて下が青いカクテルをカウンターに置き。
「支部長の方はこちらだ。説明は必要かな?」
「はっはっは、説明はソニアが戻ってからで頼む。それにしても遅いな、ソニアは。何かあったのか?」
と、ナジュドは言った。それと並行して、ナジュドは普通ではわからないような視線をここにいるマスターから感じていた。だから、ナジュドは言う。
「マスター。俺はお前を信用しているが、ソニアに何かしたか?」
するとカウンターの奥のマスターの放つ気配が一瞬だが揺らぎ。
「何も?」
「これからはどうだ?」
ナジュドはそれで引き下がりはしない。戦況を読む力や推理力がなくとも、ここぞというときにナジュドの勘はよく当たる。
ナジュドはカクテルに赤色の粉を入れた。するとカクテルは濁った紫色に染まり。
「毒……それもイデア使いによく効く……名前は忘れたが、とにかくイデア使い用の毒か。俺たちをどうするつもりだった?」
と、尋ねるナジュド。
「……ただの節穴野郎だと思ったがとんだ間違いだったか」
ここにいるマスター――いや、マスターの姿をした何者かはそう言った。




