13 核心は意外なところに Ⅰ
聞き込みをやってみたオリヴィアとヒルダ。正体を明かしていなかったからこそ得られた情報もある。そのひとつが、銀髪の女がバー『ダンシング・ヴァンパイア』に出入りしていたこと。しかも客たちが殺された直後の時間帯に。凶器らしきものは持っておらず、血を浴びた様子もない。服装も出入りする前後で変わっていないとのことだった。
これは大きな収穫だった。
「ここを出た人がこの銀髪の……」
オリヴィアは写真を見ながら言った。顔まではよく見えないが確かにバーを出てくる様子。だが、現場にあった血のような返り血を浴びている様子はない。
「そうなんです。わかるのはそれだけですが……」
若い男は言った。
「ありがとうございます。あなたも気を付けてくださいね」
と言って、オリヴィアは頭を下げる。
やはり、この近くには銀髪の女が出没している。犯人だと決まったわけではないがその可能性はあるだろう。
と、そのとき。オリヴィアの携帯端末に着信があった。
『オリヴィアか? 戻ってきてくれ。あのメモリースティックについてわかったことがある!』
ナジュドだ。
調査を続けたくとも、セラフ支部に対して強くは出られない。オリヴィアはナジュドの言ったことを承諾し、2人はセラフ支部に戻ることとなった。
その日の夜。セラフの町のやや北側――クレーター寄りのエリア。リンジーはこのエリアの治安がよくないと知って、あえて出歩いていた。
地元民向けの酒場や飲食店が開いている中、路地に入るリンジー。
つけられている。
その瞬間。リンジーの背後にフードを被った人物が現れる。一見無手に見えたが、たとえ無手でも油断はできない。その人物はリンジーに忍び寄り、殴りかかろうとした。だが――
「……どうしてそんなバレバレの隠密してんの」
リンジーはそう言って振り向き、イデアを展開。するとその人物は口角を上げ、リンジーの展開したイデアをかわす。荊の動きを完全に見切っているらしい。拳、蹴り、拳、からのイデア展開。やはり襲撃した人物はイデア使いらしい。
リンジーは攻撃をかわしたと思えば、蹴りを繰り出す。
「……っ!」
そいつは避けきれず、蹴りを受け。
足に伝わる感覚は大人を蹴ったときとは違う。大人のような、体に何かしらがぎっしりと詰まっているような感触が、薄い。
「子供……?」
リンジーは呟いた。
その後は早かった。荊でその子供の四肢を拘束してイデアを封じる。殺意ある格下の、しかしどんな手段でも命を奪いに来そうな敵には有効な方法だ。
「くそ……殺せると思ったのに……!」
その子供は言葉を吐き捨てた。
「子供が殺しなんてするもんじゃない。誰に命令されたわけ?」
その子供の言葉を受け、リンジーは言う。さらに、その子供に近付いてフードを取る。
年齢にして10歳前後の少年だった。白い肌に赤毛、金眼の鋭い眼光の少年だ。こんな子供がなぜ、とリンジーは口に出しそうになった。
「言えない」
少年は言った。
「言えないけど……お前はロムと一緒にいた。ということは、だ。お前は、カナリス・ルートの人間じゃないのか?」
「なんであんたが、そんな事を知ってんの?」
「それは……」
少年は口ごもる。一方のリンジーにも思うところはあった。ロムも自分も恨まれるようなことをした。この少年のようにリンジーを殺しに来る者がいてもおかしくない。憎い者として顔を覚えられていることだって。
「お前たちのせいで、オレたちの村はなくなった……お前たちは、変な力を使って村を消した……知っているだろ? エセラ村のこと」
少年は言った。
エセラ村。リンジーも間接的にだが殲滅に関わったことがある。当時――7年前、ロムやクラウディオをはじめとしたカナリス・ルートのメンバー5人とロム一派数名。カナリス・ルートの秘密を外部に漏らそうとした者がエセラ村にいたことから、殲滅を決行した。
それが、恨みを生んだ。全員を殺さなかったばかりに。
――いい? 余計な恨みを生まないために、全員殺しなさい。殺すことで結果的に犠牲が減ることもあるのよ。
ロムの言葉が脳裏に浮かぶ。その言葉はもっともだが、リンジーはもうロムに従いはしない。
「知ってるよ。よく、生き残ったね」
リンジーは言った。
「……よく生き残った、だって? ふざけるな! オレの父さんも母さんもカナリス・ルートに殺された! まずはお前からだ!」
少年は激昂する。が、相変わらず拘束されたまま動けない。一方のリンジーは激昂する少年を黙って見ていた。どうせ何もできない。
少年はしばらく荊から脱出しようと暴れた。当然のように荊は少年を離さない。
「1つだけ。あたしはカナリス・ルートの人間じゃない。協力していたこともあったけど、今は敵。それから、あたしたちは罪滅ぼしのために、あんたのような人を助けたい。これが本心なんだよ」
リンジーは言った。
「嘘だ……カナリス・ルート近くのイデア使いは殺さないといけない。アルマンドはそう言っていた!」
「アルマンド……追放されたと聞いていたけど、え……?」
困惑するリンジー。
「いや、とにかく今からあんたをアジトに連れて行く。抵抗はさせないけど、悪いようにもしない。命は保証するから」
と、リンジーは続けた。




