表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/343

10 調査を始めよう

 取引が成立したと言っても過言ではない。一行にとって連続殺人事件の調査はどうにか関わりたいことだったうえ、鮮血の夜明団は身辺調査や拠点の提供も快く承諾してくれた。

 少なくともこのことで鮮血の夜明団の、オリヴィアの中での印象は悪いものではなかった。だが、エミーリアは違う。


「あまり信用するもんじゃない。鮮血の夜明団は、狂人どもの集まりだよ」


 エミーリアは鮮血の夜明団のゲストハウスの一室で言った。


「私たちの言えた事じゃないがね、あいつらは簡単に人を殺す。会長が変わってから改革もなされているというが、独善的なところは昔と変わらないらしい」


「エミーリアの言いたいこともわかるけれど、会長だけじゃなくて杏奈も変えようとしているみたい」


 と、パスカルは言う。

 どうにもパスカルは杏奈――鮮血の夜明団春月支部の支部長に入れ込んでいるらしい。が、入れ込んでいようとよく思ってなかろうと、鮮血の夜明団と協力していくことは決まった。そういうわけで一行は調査に出る前に待機している。


 そんな一行の空気に刺激を与えたのはソニアの訪問。彼女はドアをノックして開けて言った。


「さっそくですが頼みがあります。どなたか調査に出て頂きたいのですが。あまり大人数で調査に出るのはあれなので……」


 ソニアは言った。


「あ……私いきます!」


 名乗り出たのはヒルダ。彼女はこういった場で人を茶化すような性格ではないうえ、そのまなざしは本気だった。

 だが、ここにいる誰もが子供といえるヒルダを止めようとした。1人を除いて。


「だったら、わたしもついていくよ。ヒルダがやりたいって言うんだし、わたしが同伴すればいいでしょ?」


 ヒルダに続いてオリヴィアが名乗り出た。

 オリヴィアはこれまでに、再びセラフにやって来るまでに3人もカナリス・ルートの人間を殺している。そのときの条件と異なるとはいえ、並のイデア使い相手に有利に戦える程度の実力はある。彼女さえいればヒルダでも大丈夫だろう。


「ええ、そうですね。オリヴィアさんがいれば並のイデア使い相手なら大丈夫でしょう」


 ソニアは言った。

 ソニアのオリヴィアへの信頼とは裏腹に、不安を抱く者が1人。晃真だ。そう思うのも無理はない。オリヴィアは、晃真のいないところで死にかけて、晃真が見つけてキルスティの元へと連れて帰った。もう一度あのようなことが起こる可能性も否定できない。

 晃真は不安感を湛えた眼差しでオリヴィアを見た。


「大丈夫ならよかった。これから行けばいいの?」


「そうですね。してほしい調査はずばり、犯人と被害者がイデアを使った形跡の有無を調べること。これである程度絞り込めるかもしれません」


 と、ソニア。


「それなら私、得意です! お任せください!」


 ヒルダは言った。


 オリヴィアとヒルダはさっそく調査に出るのだった。

 一方で、ゲストハウスに残った晃真。浮かない顔をしているのは他の3人にも筒抜けだった。


「不安なら行ってきな」


 キルスティは言った。

 彼女もまた、セラフの町でのオリヴィアの敗北を知っている。それと同時にオリヴィアの成長を見ており、彼女の強さもわかっている。心に抱えていたものがなくなった今のオリヴィアの強さだってそうだ。


「……いいのか? さすがに3人で出るのはまずくないか?」


 と、晃真。


「そりゃ、交渉次第だぜ。オリヴィアが心配ならソニア交渉なり相談なりしてみればいい。ま、オリヴィアは強くなってる。それは間違いない」


 キルスティはそう言った。

 彼女の言う事は正論だ。「察しろ」がいつでも通用するはずがない。


「行ってくる」


 と言って、晃真は部屋を出た。




 オリヴィアとヒルダは特例手帳――鮮血の夜明団公認の協力者に渡される手帳を渡されてセラフ支部を出た。まず向かうのは近場のアパート。その一室でとある女が殺され、翌日に発見されたという。


 2人は件のアパートの一室に入り、辺りの様子を確認した。


 部屋は荒らされていた。人が殺されたのだから無理もない。鏡は割られ、家具も一部が壊されている。が、この部屋に燃えた跡や濡れた形跡はほとんどない。加えてイデアで破壊されたものもほとんど見当たらない。

 一見、イデア使いが関わったようには見えない。が、ヒルダはいち早く残された気配に気づいた。


「説明された通り、殺されたのはイデア使いみたいだよ。気配がまだ、残ってる」


 ヒルダは言った。


「すごい……よく気づいたのね」


 オリヴィアは言った。彼女の方はヒルダと違って残された気配に気づかなかった。とはいえ、オリヴィアは決して鈍くない。ヒルダが敏感すぎるだけだ。

 ヒルダの敏感さはときに索敵のための目となり、調査のときにも頼りになる。だが再現性のなさ、根拠の貧弱さが仇となりなかなか信用されない。


「えへへ。信じてくれるのがすごく嬉しい!」


 と、ヒルダ。


「そうだね……あっ……」


 ぱりん――と花瓶が床に落ちて割れる。高くも安くもなさそうな花瓶は一瞬で破片になったが、その破片の中に銀色の物体がある。オリヴィアはそれを拾い上げて見た。

 銀色の物体は情報端末に挿すタイプの記憶媒体――メモリースティックなどと呼ばれている代物だ。しかも、メモリースティックには『極秘・絶対に盗られるな』と書かれており、相当重要な極秘データであることが示唆される。


「このデータを狙った……わけはないよね? 狙ったのなら盗られているはずだよね?」


 オリヴィアは呟いた。


「見せて!」


 と、ヒルダ。

 オリヴィアはヒルダにメモリースティックを手渡した。


「……これ、晃真がマルクト区で持ってたやつだ。カナリス・ルートの拠点にあったやつと同じ。字の形がそっくりなんだよ!」


 ヒルダは言った。


「え……カナリス・ルートが関わっているの? やっぱり?」


 と、オリヴィア。

 想定外の当たりを引き当てたのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ