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6 殺すべきそれぞれの相手

 オリヴィアたちはセラフの町に戻ってきた。この町は懐かしささえ感じさせる。特に晃真やキルスティ、エミーリア。この3人はオリヴィアに出会う前、セラフの町を拠点としていた。


 駅を出るなりキルスティが一言。


「戻ってきたか、クソッタレな町セラフに」


 その言葉に反してキルスティは嫌そうな顔をしなかった。むしろそれはたちの悪いジョークか何かにも聞こえるのだが――今のセラフの町は「クソッタレ」でも仕方がない。

 セラフの町では連続殺人事件が起きている。


「青色の鉱石の産地とは言うけどね……事故とかも多いと聞いているよ。青色の鉱石には需要があるし……」


 パスカルは言った。


「ま、裏の話さえなければこの町は青色の鉱石の産地だとか、青い砂の町だとかで有名だなあ」


 と、キルスティ。


 彼女の言う通り、セラフの町の砂は青白い。これもすべて青色の鉱石が砂漠の砂に混じっているからである。こういう理由もあって、セラフの町はレムリア大陸でも異質な場所だ。砂漠にできたクレーターとオアシスの間に町ができている。

 一行がいるのはセラフの町でもオアシス寄りの方――富裕層が暮らし、観光地にもなっている方だった。富裕層がいるだけあって、治安が悪いようには思えない。そんな町中を歩きながらエミーリアが口を開く。


「さて、ここからちょいと歩くよ。私らの隠れ家はちょうどクレーターとオアシスの間くらいだからねえ」


 隠れ家。晃真とキルスティが言っていた。もしあの場所ならば、オリヴィアだって知っている。セラフまで来た後に晃真と出会ったカフェ――


「結構空けていたが大丈夫なのか?」


 と、晃真。


「さあね。4カ月留守にして大丈夫だったことはあるが、いかんせんカナリス・ルートに喧嘩売ったあとだ。間違いなく恨まれているからねえ……」


 エミーリアは言った。

 一行を恨んでいる相手なら容易に想像がつく。カナリス・ルート。一行はすでに4人殺しているうえに、ついこの間はリュカ・マルローも殺された。


「そうだよね。この町には水使い……タスファイがいるんだっけ。正面から戦うのなら、リベンジしたいな」


 そう言ったのはオリヴィア。

 彼女の言葉で晃真は敗北して死にかけたオリヴィアの姿を思い出す。あのときオリヴィアはタスファイと戦ったが力及ばず殺されかけた。あのときからもう3カ月近く経つ。

 オリヴィアは強くなった。だが、晃真はどうしても死にかけたオリヴィアを思い出してしまう。


「リベンジか……」


 晃真は言う。

 オリヴィアはこの無謀な望みを止められるのではないかと考えた。だが――


「俺も一緒に戦っていいか?」


「え……止めないの?」


 オリヴィアにとっては予想外の一言。晃真のことだから、オリヴィアが今度こそ死ぬことを恐れて止めると思っていた。


「心情的には止めたい。だが、それではあんたの思いが晴れないだろ? 俺以外の男に、例え憎しみでも大きな感情を向けないでほしいんだ……」


 と、晃真は答えた。


「晃真……」


「俺とオリヴィアの2人だったら勝てるだろう、タスファイにも。ある筋では”水神”とも呼ばれているそうだが、そんなことは関係ない。俺とオリヴィアで息の根を止めてやろう」


 晃真は言った。楽観視しているのか、あるいは――


「さて、行こうか。私らの隠れ家がどうなっているか。見ものだねえ」


 エミーリアがそう言い、一行はセラフの町の隠れ家に向かった。




 それから少し経った頃、セラフの町のクレーター寄りの中心街――ちょうど鮮血の夜明団セラフ支部があるところ。初音はつかつかとセラフ支部へと入る。受付の青年から呼び止められれば、手帳を見せる。


「か……監査官さんでしたか。失礼しました、お会いするのが初めてなもので」


 青年は焦った様子で言った。それもそのはず、監査官は「悪」と判断した人物を、たとえ立場が上であろうとも殺すと聞かされていたのだ。無理もない。


「それは仕方ありませんよ。これだけで悪と判断するほど狭量な人間ではありませんので」


 初音は答えた。

 一見彼女はまともな人間のようにもみえる。が、受付の青年には初音の血生臭さがわかる。初音は、何人も殺してきた人間だ。


「そうでしたか……では中へどうぞ。監査官さんの監査を拒否するわけにはいきません」


 と言って、青年は初音を中へ通す。

 初音は「どうも」とだけ言って中へ。初音の足音だけがセラフ支部のロビーに響く。


「……そういえば、連続殺人事件なんてありましたね。私にも関係ができてしまったわけですが」


 初音は呟いた。

 殺すべき者はここに――セラフ支部にいる。事前の調査と支部長ナジュドの言葉から目星はついていた。加えて彼は今、依頼を受けていない。殺すなら、今だ。


 初音は仮眠室のドアを開ける。


「こんにちは、バシリオ・バルガス。ここに来たのは他でもありません。貴男に会いたかったのです」


 と、初音は狂気の笑みを浮かべながら言った。


「よお……監査官さんよ……せっかく綺麗な顔が歪んでしまうぜ」


 仮眠室のベッドに座っていた男――バシリオ・バルガス。彼こそが初音の目標としていた男。連続殺人事件絡みで賄賂を受け取って警察組織が関与できないようにした男。


「歪ませたのは貴男です。賄賂が悪って、考えればわかりませんかねえ?」


 初音はそう言って大振りの鉈を左手に持った。



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