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4 正義と狂気の間で

方洲荘を訪れて8日――杏奈とパスカルが約束していた日数が過ぎた。安らかなひとときは終わり、再び血生臭い戦いが幕を開ける。


オリヴィアが携帯端末を開くと、リンジーからのメッセージが届いていた。


『情報収集は順調。タスファイの拠点もわかった。もし会えるならセラフで会おうね』


リンジーからのメッセージはこうだった。


「そうだよね。リンジーも頑張っているから、わたしだって。ありがとう、リンジー」


オリヴィアは呟いた。それだけでなく、一行に向けて言う。


「わたしはもう大丈夫だよ。行こう、セラフに」


目的地は決まっている。青色の鉱石の産地、セラフクレーター沿いにあるセラフの町。オリヴィアと晃真たちが出会った場所でもある。


「本当に大丈夫? エピックでの一件以来、精神的にかなり大変だと思うけど」


と、パスカルは言う。


「わたしには皆がいるから。こうやって見捨てないでくれたから色々と吹っ切れた。それに、晃真とリンジーだっている。わたしは1人じゃないんだなって」


オリヴィアは答えた。


「そうね。私もオリヴィアのことを見捨てようとは思わない。話したいことは色々とあるけど、オリヴィアが立ち直れてよかった。でもね、しんどいときは私でも晃真でもいいから誰かに話して?」


と、パスカル。


「ありがとう、パスカル。今は大丈夫だよ。それに、わたしもパスカルみたいに誰も手を差し伸べてくれない人を助けたいって思ってる」


オリヴィアは言った。それは取り繕ったものではなく、本心からのもの。

これまでの旅で、オリヴィアはダンピールのコミュニティや、クロル家に搾取されるヒルダ、狂気に取り憑かれたセフィリア教信者などを見て来た。救えた者、救えなかった者、今の旅の中で救おうとしている者とその辿る道は様々だ。だが、どの者もパスカルやオリヴィアしか手を差し伸べなかった。


「……成長したのね、オリヴィア」


パスカルは言った。


「いつまでも、不幸に酔いしれる人ではいたくないから。助けてくれる人がいるのに」


と、オリヴィア。

そんな彼女を見てパスカルは安堵すると同時に、これまでとは別の危うさを見た。


――ちゃんとオリヴィアを止められるのは晃真くらいしかいないのかな。私もあまり、模範となるべき大人ではないから。本当は、私のようになるのは。


そして一行は方洲の町を発つ。

次なる目的地はセラフの町。目的地の変更はないが、パスカルは少しばかりきな臭い話を聞いていた。それはセラフの町で起きている連続殺人事件のこと。殺される人の特徴はさまざまで、手がかりさえも掴めていない。


一行はそれぞれの想いを抱えて列車に乗車した。方洲の町からセラフの町への距離はアニムスの町から方洲の町への距離と同じ。かなりの時間がかかる。


「戦いが戻ってきたって感じだな。悪くねえ。これからは実践ってか」


キルスティは列車のボックス席に座ると言った。このところの彼女はユアンのくれた錬金術や医学の本を読みふけっていた。それで得た知識もあるのか、試したがっている。


「なら、俺が八幡昴を斃したときの技を使っても安心だな」


と、晃真。そこには半ばジョークのようなものがあった。


「全身火傷……全身火傷……まあ、あの技術と私の錬金術なら傷痕1つ残さずに治せるわけだがよ」


キルスティは少し戸惑っていた。


「あれは本当にまずくなったときにとっておく」


晃真はすぐさま言う。

だが、そんな晃真の中にも不安はあった。カナリス・ルートは常識外れなほどに強い。モーゼスも昴も、ハリソンもリュカも強かった。直接戦っていないとはいえ、麗華も強者といえる。そんなカナリス・ルートに勝てるのか――?


「晃真は1人じゃないよ。わたしも一緒に戦うから」


考えこもうとした晃真にオリヴィアが一言。


「そうだな。オリヴィアがいれば心強いよ」


ずっと俺の隣にいてほしい、と晃真は続けようとしたが言えなかった。なぜかと言えば、話しかけてきた者がいたから――


「失礼しますね、オリヴィア御一行様。私、こういう者でして」


その人は、緑髪で眼鏡をかけたスーツ姿の女性。彼女は藍色の手帳を取り出し、それをオリヴィアと晃真に見せた。水鏡初音。それが彼女の名前だ。

初音の醸し出す雰囲気は血塗れの鋭いナイフのよう。少しでも判断を誤ればいつでも命を奪いに来る。そんな雰囲気だ。


「鮮血の夜明団の監査官、水鏡初音です。あ、別に敵対するつもりで来たわけではありませんからね?」


と、初音は続けてどうにか警戒心を解こうとした。とはいえ初音は雰囲気から胡散臭い。特にオリヴィアとエミーリアは警戒心をあらわにしていた。


「監査官さん、一体何のつもりで来たのでしょう? 杏奈のやりかたがまずかったのなら謝罪……いえ、あなたに謝罪なんて通じませんね。あなたは、謝罪しようが悪は悪として滅殺する。そんな方ですから」


そう言ったのはパスカル。彼女が敬語を使うのだ。相当な相手であることが予想される。


「その件に関しては黙認しますよ。次はありませんが。ではなくてですね、私これからセラフ支部へ監査に行くんです。支部長は恐らく大丈夫でしょうが、少々きな臭いことがありましてね?」


初音は言った。


「……連続殺人事件。貴女はそう言いたいのでしょう?」


「貴女が節穴でなくて安心しました。そうですね、連続殺人事件。監査と併せて私も手を出してみようと思ったんですよ。ねえ、オリヴィアちゃん。興味ありませんか?」


と言って初音はオリヴィアを見る。


「私、パスカルが目を付ける前から気になっていたんです。この娘は逸材になるって。とはいえ、私はロムとは違うので連れ去りはやりません。貴女がセラフの地でやりたいことを聞いておきたいなと考えまして」


初音の言葉遣いは丁寧でこそあったが、人を委縮させるような何かがあった。オリヴィアもそれに気づいていた。オリヴィアの答えは――



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